雑学

ヴェネツィアの広場で、鳩に餌をやってはいけない理由

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
ヴェネツィアの広場で、鳩に餌をやってはいけない理由

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ヴェネツィアで鳩に餌をやると、市の規則違反として25〜500ユーロの過料をとられます。理由は、鳩が増えすぎると衛生面の問題が起き、フンに含まれる塩類が大理石や石灰岩の建物をいためるからです。

サンマルコ広場では、かつて観光客に鳩の餌を売る露店が並んでいました。それが2008年4月30日に一斉に姿を消します。この記事では、浮かびやすい疑問を1つずつ取り上げます。

ヴェネツィアで鳩に餌をやると、どうなるの?

過料の対象になります。ヴェネツィア市は、市内でしてはいけない行為と金額の一覧を公開しています。鳩やカモメに餌をやる行為はその1つで、金額は25ユーロから500ユーロです。

根拠は「都市衛生・獣医衛生および動物福祉に関する市の規則」です。目的は、鳩などの鳥が増えすぎて衛生上の問題が起きるのを防ぐこと。そのために道路や広場、水路で食べ物を与える行為や、食べ残しを捨てる行為を禁じています。

パンくずを投げる行為だけでなく、食べ残しを置いていくことも同じ扱いです。対象はサンマルコ広場に限らず、市内全域に及びます。

広場の餌売りは、いつ、なぜ消えたの?

2008年4月30日の水曜日です。広場で餌やりを禁じる決まりがこの日に始まり、許可を受けて鳩の餌を売っていた19軒が、その日のうちに店じまいしました。禁止を推し進めたのは、当時のマッシモ・カッチャーリ市長です。

露店は長く続いた商売でした。AP通信は2006年、約100グラムのトウモロコシの袋が1.30ドルで売られ、19の家族がその売り上げで暮らしていると伝えています。3代続けて広場で餌を売ってきた家もありました。禁止の日、露店には「あなたに投票した日を呪う」と書いた紙が掲げられました。売り手たちは失った仕事の補償として、市に1日150ユーロを求めています。

それでも市が踏み切った理由は、費用です。調査会社ノミスマの試算では、鳩の汚れと被害の後始末に、住民1人あたり年間約275ユーロがかかっていました。

鳩のフンは、なぜ石をいためるの?

フンに含まれる塩類と酸が、石を化学的に傷めるからです。2004年、スペインの研究チームが学術誌「ヨーロッパ鉱物学ジャーナル」に結果を発表しました。たまった鳩のフンを水に溶かして調べると、水に溶ける塩類が4%含まれていました。

見つかった鉱物は、岩塩(ハライト)やカリ岩塩(シルバイト)、石こう(ジプサム)などです。研究チームは、フンを溶かした液を、すき間の多い石灰岩にかけて変化を調べました。その結果、酸による目に見える劣化が起き、石の表面の鉱物も侵されました。

大理石も石灰岩も、主な成分は炭酸カルシウムです。炭酸カルシウムは酸に触れると溶け、二酸化炭素の泡を出します。ヴェネツィアの教会や宮殿、彫刻の多くは、まさにその石でできています。見た目の汚れだけでなく、石そのものが少しずつ削られていくのが問題です。

なぜサンマルコ広場にこれほど集まったの?

餌と、すみかの条件がそろっていたからです。街の鳩の正体はカワラバトで、全長は約33センチ。キヤノンの野鳥解説によると、中央アジアなどに住むカワラバトは、もともと崖のすき間で子育てをしていました。人が建物を造り始めると、その建物のすき間に巣を作るようになり、人はカワラバトを捕まえて飼い始めます。伝書鳩や食用として飼われた鳩が逃げ出し、世界中で野生化しました。

石造りの建物が並ぶヴェネツィアは、鳩にとって崖が連なる土地のようなものです。しかもカワラバトは、虫の少ない秋や冬にも子育てができます。餌さえあれば、季節を問わず増えられる鳥です。

AP通信によると、市の推定では2008年当時、市内に約4万羽の鳩がいました。そのうち約3分の1が、1日のうちにサンマルコ広場を通ります。毎日観光客が餌をまく広場は、群れが集まる理由のそろった場所でした。

餌やり禁止の前に、ほかの手は打たなかったの?

いくつも試しています。2006年のAP通信の記事によると、市は鳩の餌に避妊薬を混ぜる方法や、鳩の卵を食べる鳥を放す方法を試しました。病気の鳩を捕まえて処分する取り組みもありました。それでも、数は減りませんでした。

鳩の数は、餌の量に強く左右されます。捕まえても、餌が十分にある限り、残った鳩がまた増えます。そこで、増える元になっている餌そのものを断つ方法が選ばれました。

日本の街の鳩も、同じカワラバトが野生化した「ドバト」です。仙台市によると、奈良時代に日本へ持ち込まれ、通信やレース用に飼われたものが野生化しました。仙台市はフンや羽毛による汚れ、臭いが近所のもめごとの原因になるとして、餌やりをやめるよう呼びかけています。ドバトを含む野鳥は法律で捕まえることが禁じられていて、迷惑だからといって許可なくヒナや卵を取り除くこともできません。日本でも、まず餌を断つことが基本になります。

カモメへの餌やりも禁止なの?

禁止です。市の一覧では、カモメへの餌やりも鳩と同じ項目に入っています。近年はカモメのほうが話題になることも増えました。イタリアのANSA通信によると、市は2023年9月にイタリア語と英語の注意書きを出しました。内容は、カモメに近づき過ぎないことと、餌を与えないことです。観光客の手からハンバーガーなどを奪い取る出来事が続いていたためです。

イタリアのニュース局スカイTG24の2023年11月の報道では、ヴェネツィアに1年中すむカモメは約2,000羽、巣を作るつがいは430組です。市は2か国語の手引きを作り、道で食べ歩きをしないこと、家庭のごみは市のごみ箱に入れることを呼びかけました。朝にごみ袋を家の外へ出すことを禁じた結果、カモメが口にできる食べ物は減ったといいます。サン・ミケーレ島の墓地では、何年も前から鷹を使ってカモメを遠ざけています。鳩と同じく、ここでも「餌を断つ」ことが対策の中心です。

旅行者は、ほかに何に気をつければいいの?

市の一覧には、餌やりのほかにも過料の対象になる行為が並んでいます。主なものを表にまとめました。

ヴェネツィア市が定める主な禁止行為と過料(市の一覧を紹介する旅行ガイドをもとに作成)
行為過料
鳩やカモメに餌をやる25〜500ユーロ
地面や階段などに座り込む100〜200ユーロ
運河で泳ぐ・飛び込む350ユーロ
ごみを捨てる350ユーロ
上半身裸や水着で歩く250ユーロ
自転車に乗る・押して歩く100ユーロ

日帰り客の入場料にも注意が必要です。英語ニュースサイトのThe Localによると、2025年は54日間、午前8時30分から午後4時まで料金がかかりました。4日以上前に予約すれば5ユーロ、3日前を切ると10ユーロです。市内に泊まる人は対象外です。日程は年ごとに変わるので、出かける前に市の案内で確かめてください。

広場に集まる鳩が、どんな仲間の鳥なのかも気になるところです。ハトの仲間の姿や暮らしを見比べるなら、鳥の図鑑が役に立ちます。

まとめ

ヴェネツィアでは、鳩やカモメへの餌やりに25〜500ユーロの過料がかかります。2008年4月30日にはサンマルコ広場の餌売り19軒が店を閉じ、街は「増える元の餌を断つ」方法を選びました。鳩のフンには水に溶ける塩類が4%含まれ、炭酸カルシウムでできた大理石や石灰岩を傷めます。

ヴェネツィアを歩くときは、鳩にはパンではなくカメラだけを向けてください。広場の石を守る、いちばん手軽な方法です。

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