豆腐はなぜ固まる?にがりのはたらき
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豆腐が固まるのは、熱でほどけた大豆のタンパク質を、にがりのマグネシウムがつなぎ合わせて網目を作るからです。にがりだけでは固まらず、その前に豆乳を加熱しておく必要があります。
この「熱とにがりの二段構え」は、千年以上前の中国から受け継がれてきた技です。中国での起こりから1183年の日本の記録、江戸の料理本を経て今の売り場まで、時代順にたどります。
中国で生まれた豆腐
豆腐の発明者として名前が挙がるのは、紀元前2世紀、漢の淮南王(わいなんおう)劉安です。明の時代の本草書『本草綱目』にもそう書かれ、豆腐の別名「淮南」の由来にもなりました。
ただし、これは伝承です。世界大百科事典は劉安の創製を俗説としています。前2世紀の『淮南子』にも、6世紀の農業書『斉民要術』にも、豆腐の字は出てきません。初めて豆腐の名が見えるのは、10世紀の宋の『清異録』です。
実際の始まりは唐代(618〜907年)とみる説が有力です。食物史家の篠田統は、8〜9世紀の唐代中ごろに生まれたと推定しています。北方から伝わった乳製品の「乳腐」が、ヒントになったという見立てです。乳を固める発想を、大豆の汁に当てはめたわけです。
日本の記録は1183年から
日本に伝わった時期ははっきりしていません。奈良時代と書く辞典もあれば、時期は不明とする辞典もあります。確かな文献で古いのは、1183年(寿永2年)の奈良・春日大社の記録です。供え物として「唐符(からふ)」と書かれ、これが豆腐を指すとされています。
豆腐が広く食べられ始めたのは、南北朝から室町時代にかけてです。室町時代前期の教科書『庭訓往来』には、禅寺の料理として豆腐の汁物が出てきます。室町後期の『七十一番職人歌合』には、豆腐売りが描かれました。豆腐の記事は、南北朝から室町期にかけて急に増えています。
| 時代・年 | できごと |
|---|---|
| 紀元前2世紀 | 淮南王劉安が発明したという伝承(裏付けの資料はない) |
| 8〜9世紀(唐) | 実際に生まれたと推定される時期 |
| 10世紀(宋) | 『清異録』に初めて「豆腐」の名が見える |
| 1183年 | 春日大社の記録に供え物の「唐符」 |
| 室町時代 | 『庭訓往来』に豆腐の汁物、職人歌合に豆腐売り |
| 1782年 | 料理本『豆腐百珍』が出て評判に |
| 2004年 | 都内で売られた豆腐33品の9割に塩化マグネシウムの表示 |
江戸の『豆腐百珍』
豆腐が町の人の食卓に並び始めたのは、江戸時代の中ごろ以降です。1782年(天明2年)には、約100種の豆腐料理を集めた『豆腐百珍』が出ました。評判を呼び、続編や余録も出版されています。
江戸の町には、名物豆腐の店も現れます。湯豆腐で知られた「笹の雪」はその1つで、錦豆腐や華蔵院豆腐といった名前も伝わっています。料理本が売れ、名物の店ができる。豆腐は特別な日の供え物から、毎日のおかずになりました。
豆腐からは、別の食べ物も生まれています。農林水産省の解説によると、豆腐を凍らせて乾かすと凍り豆腐、高温の油で揚げると油揚げです。野菜を混ぜて練ってから揚げれば、がんもどきになります。
このころの豆腐を固めていたのも、にがりです。にがりは、海水から塩を取り出したあとに残る苦い液で、主な成分は塩化マグネシウムです。塩づくりの副産物が、そのまま豆腐づくりの道具になっていました。
固まる仕組み:熱とにがりの二段構え
なぜ豆乳は固まるのか。いまの研究でどこまで分かっているかを、2021年に学術誌『Foods』に載った総説をもとに見ていきます。
豆乳の中で主役になるタンパク質は、グリシニン(11S)とβ-コングリシニン(7S)の2種類です。合わせて大豆タンパク質の7割を超え、内訳はグリシニンが約4割、β-コングリシニンが約3割です。豆乳を煮ると、丸まっていたタンパク質がほどけます。グリシニンがほどけるのは85〜95℃で、β-コングリシニンはそれより約20℃低い温度です。内側に隠れていた、水になじまない部分が表に出てきます。
ほどけたタンパク質ににがりを加えると、マグネシウムのイオンが仲立ちになって、タンパク質どうしが次々につながり、立体の網目に育ちます。網が水を抱え込んだまま全体を支えるので、液体だった豆乳がぷるんと固まります。
つながる力には、水になじまない部分どうしの引き合いや電気の引き合い、硫黄どうしの結合などが関わります。総説は、どの力がどれだけ効いているかは今も議論が続いていると書いています。千年以上作られてきた食べ物でも、仕組みの細部はまだ研究の途中です。
固め方の違いで、豆腐の種類が分かれます。木綿豆腐は、固まった物をいったん崩し、布を敷いた型に入れて重しで水を抜きます。絹ごし豆腐は、濃い豆乳を型に流してそのまま固めるので、水を抜きません。絹の布でこしているわけではないのです。文部科学省の食品成分表では、100gあたりの水分は木綿が85.9g、絹ごしが88.5g。タンパク質は木綿が7.0g、絹ごしが5.3gです。マグネシウムも木綿が57mg、絹ごしが50mgと、水を抜いた木綿のほうが少し多くなります。
今は、にがりのほかにも固める材料があります。硫酸カルシウム(すまし粉)や、酸で固めるグルコノデルタラクトンです。東京都健康安全研究センターが2004年に都内で売られていた豆腐33品を調べると、30品(90%)に塩化マグネシウムの表示がありました。22品は塩化マグネシウムだけで、グルコノデルタラクトンの表示は11品。なめらかさを出すために、ほかの凝固剤と混ぜて使われていました。33品すべてからマグネシウムが検出され、量は100gあたり25〜91mg、平均は60mgでした。
家で作るときに使える道具
農林水産省は、子ども向けに豆腐の作り方を紹介しています。大豆を一晩水に浸してすりつぶし、煮てから布でしぼって豆乳とおからに分けます。豆乳が70〜80℃に下がったら、大豆の重さの5%のにがりを加えます。布を敷いたざるに流して重しをのせ、固まればできあがりです。この中で、家にない物になりやすいのは、にがりと型です。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。
にがり:海の精 濃厚にがり液 海の調べ(50ml×2本) 約1,420円。伊豆大島の海水から作った液体のにがりです。
向いている人:江戸の豆腐と同じ、海水由来のにがりで固めてみたい人。注意:濃さは商品ごとに違うので、使う量は商品の表示に合わせてください。この記事は、にがりを飲むことや健康面の効果をすすめるものではありません。
流し缶:霜鳥製作所 寒天流し缶 ステンレス C-001 約1,188円。縦14×横11×深さ4.5センチの、羊かんや寒天を流して固めるための型です。
向いている人:濃い豆乳を流してそのまま固める、絹ごし風の豆腐を試したい人。向かない人:木綿豆腐を作りたい人。水を抜く穴がないので、木綿には布を敷いたざるが向きます。豆腐専用の型ではない点にも注意してください。
いまの豆腐に残る歴史
豆腐は、唐代に生まれたとみられる技です。1183年までに日本へ届き、江戸の『豆腐百珍』で町の料理になりました。固める材料は増えましたが、2004年の調査でも9割の豆腐に、昔ながらのにがりの成分が使われていました。
次に豆腐を買うとき、パッケージの原材料名を見てみてください。「凝固剤(塩化マグネシウム)」と書いてあれば、それが江戸の豆腐と同じにがりの成分です。
参考にした資料