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玉ねぎを切るとなぜ泣く?身を守る化学トリック

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
玉ねぎを切るとなぜ泣く?身を守る化学トリック

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玉ねぎを切ると涙が出るのは、切った瞬間に2つの酵素が働き、目を刺激する気体「催涙因子」ができるからです。同じ酵素を持つニンニクで涙が出にくいのは、2つ目の酵素の働きがないためだと分かっています。

涙を減らす方法は、気体を作らせないか、目に届かせないかの2通りです。この記事では、玉ねぎをニンニクや涙の出ない品種と比べながら仕組みを説明し、効く対策と道具を紹介します。

涙のもとは、切った瞬間にできる気体

玉ねぎの細胞には、硫黄を含む材料と、それを分解する酵素「アリイナーゼ」が入っています。包丁で細胞が壊れると、両者が混ざって反応が始まります。丸ごとの玉ねぎを持っても目が痛くならないのは、このためです。

反応は2段階です。まずアリイナーゼが材料を分解し、「1-プロペニルスルフェン酸」という不安定な物質ができます。次に「催涙因子合成酵素」がこれを組み替え、催涙因子(プロパンチアール-S-オキシド)が生まれます。

催涙因子は揮発しやすく、まな板から立ちのぼって目の表面に届きます。ハウス食品グループの解説によると、角膜を刺激して涙を出させます。目の神経が刺激を感じ取ると、涙腺が涙を増やし、刺激物を洗い流します。涙は、目を守るための反射です。

2019年、東京大学とハウス食品グループの研究チームは、催涙因子合成酵素の立体構造を解き明かしました。酵素の中央にくぼみがあり、その壁の3つのアミノ酸が反応のかなめでした。反応は、10ピコ秒(1000億分の1秒)より短い時間で終わると考えられています。

玉ねぎとニンニクを比べる

玉ねぎとニンニクは、どちらもネギの仲間です。東京大学の解説によると、ニンニクやネギ、ラッキョウを含むこの仲間は硫黄を含む材料を蓄えています。これをアリイナーゼで分解して、香りや辛みのもとを作ります。それでも、涙の出方は大きく違います。

玉ねぎとニンニクの違い(ハウス食品グループ、Nature掲載論文の紹介記事などをもとに作成)
比べること玉ねぎニンニク
アリイナーゼあるある
催涙因子合成酵素ある(2002年に発見)ニンニクの酵素だけでは、催涙因子はできない
切ったときにできる主な成分催涙因子アリシンなどの香り成分
切ったときの涙出やすいふつうは出ない

決め手は2つ目の酵素でした。2002年、ハウス食品の今井真介さんらは、材料にニンニクのアリイナーゼだけを加えても催涙因子ができないことを確かめました。催涙因子は、アリイナーゼの反応で自然にできる副産物ではなかったのです。この発見は科学誌Natureに載り、2013年にイグノーベル賞(化学賞)を受けました。

2つの酵素の違いは、台所でも見られます。ハウス食品グループによると、玉ねぎとニンニクを一緒に炒めると、緑色に変わることがあります。この緑の色素を作るのにはアリイナーゼがかかわり、玉ねぎから取ったアリイナーゼでは、緑の色素が作られにくいと分かりました。原因は、玉ねぎだけが持つ2つ目の酵素でした。

涙の出ない玉ねぎを、3つの国で比べる

2つ目の酵素が分かったことで、「涙の出ない玉ねぎ」を作る研究が各地で進みました。作り方も、売られ方も国ごとに違います。

涙の出にくい玉ねぎの比較(各社・各研究の発表をもとに作成)
名前・国作り方状況
スマイルボール(日本・ハウス食品)交配で、2つの酵素の働きがとても弱い株を選んだ2015年に販売開始
サニオン(米国・バイエル)約30年かけて交配し、辛みの弱い株を選び続けた2018年1月に米国で販売開始
ニュージーランドの研究株遺伝子組み換え(RNA干渉)で、催涙因子合成酵素の働きを抑えた2008年に研究論文として発表

スマイルボールは、生で食べたときの辛みもほとんどありません。ハウス食品グループは、催涙因子は生の玉ねぎの辛みのもとでもある、と説明しています。

米国のサニオンは、保存している間に辛みが減っていく性質を持ちます。NPRの報道によると、遺伝子組み換えではなく、昔ながらの交配で作られました。

ニュージーランドの研究では、酵素の働きが最大で1,544分の1まで下がりました。催涙因子は大きく減りましたが、行き場を失った材料が別の硫黄の香り成分に変わり、その量が増えました。2つ目の酵素は、玉ねぎの香りの組み立てそのものを左右していたことになります。

涙を減らす切り方と、効かない俗説

ふつうの玉ねぎでも、仕組みが分かれば対策は立てられます。オーストラリアのフリンダース大学の解剖学者イアン・ギビンズ教授は、効く方法と効かない方法を次のように整理しています。

一方、ガムをかむ、口で息をするといった方法には効果がありません。刺激を受けているのは目で、鼻や口ではないからです。ブリストル大学の化学解説も、スプーンやパンを口にくわえる方法などを挙げたうえで、こうした方法の効き目には意見が分かれると書いています。

涙を減らす道具

上の対策のうち、「細胞をつぶさない」「顔から離して刻む」「目に届かせない」の3つの役割で1点ずつ選びました。価格は、2026年10月時点の楽天市場の表示です。

よく切れる包丁:下村工業 ヴェルダンS 三徳包丁 165mm(VDS-101) 約3,200円。新潟県燕三条製の、刃と柄が一体になったオールステンレスの包丁です。手研ぎで刃付けされ、食器洗い乾燥機にも対応します。
向いている人:家の包丁の切れ味が落ち、玉ねぎを押しつぶすように切っている人。注意:どんな包丁も使ううちに切れ味は落ちるので、ときどき研ぐ必要があります。

みじん切り器:ぶんぶんチョッパー5S(BBC-23)900ml 約1,890円。ふたを閉めたまま取っ手を引くと、中の5枚の刃が回って食材を刻む手動の道具です。商品説明では、玉ねぎ約1.5個分を一度にみじん切りにできます。
向いている人:ハンバーグやカレーなどで、みじん切りをよくする人。顔の近くで包丁を動かす時間を減らせます。向かない人:薄切りや輪切りにしたい人。刻むときに細胞はつぶれるので、ふたを開けた瞬間の香りには注意します。

目を覆うメガネ:トーアボージン 花粉メガネ かるラップ(T91-PCF) 約1,133円。花粉対策用の重さ21グラムのメガネで、レンズの両面に曇り止め加工があります。
向いている人:玉ねぎを大量に切る日に、目への刺激を減らしたい人。注意:顔に密着させるゴーグルではないので、すき間から入る気体までは防げません。花粉の季節にも使える、兼用の道具と考えてください。

台所で試す順番

玉ねぎの涙は、細胞が壊れた瞬間に2つの酵素が作る催涙因子のせいです。ニンニクで涙が出にくいのは2つ目の酵素の働きがないためで、この酵素を弱めた玉ねぎは、日本でも米国でも売られるようになりました。

ふつうの玉ねぎで試すなら、お金のかからない順に進めるのが近道です。まず切る直前まで冷蔵庫で冷やし、換気扇を強くして切ります。それでも涙が出るなら、包丁を研ぐか、よく切れる包丁に替えます。みじん切りが多い家庭はチョッパーを、それでもつらい人は目を覆うメガネを足してください。

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