卵は加熱するとなぜ固まる?タンパク質の変化のしくみ
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卵が熱で固まるのは、丸まっていたタンパク質がほどけて、たがいに絡み合うからです。変化が始まる温度は、およそ60℃です。
一度ほどけて絡んだタンパク質は、冷やしても元の形には戻りません。黄身は65〜70℃、白身は80℃近くで固まるという差もあり、温度計が1本あれば台所で確かめられます。仕組みと、家でできる観察の手順を紹介します。
生卵のタンパク質は毛糸玉
卵白は、約90%の水に約10%のタンパク質が溶けたものです。タンパク質の正体は、アミノ酸が数珠のように連なった長いひもです。生卵の中では、このひもが小さく折りたたまれ、毛糸玉のような姿で漂っています。
卵白のタンパク質は1種類ではありません。いちばん多いのはオボアルブミンで、卵白のタンパク質の54%を占めます。オボアルブミン1個は、385個のアミノ酸がつながったひもです。続いてオボトランスフェリンが12%、オボムコイドが11%です。2015年に「ゆで卵を戻した」研究で使われたリゾチームは、3.4%ほどしかありません。
毛糸玉どうしは、くっつく場所が内側に隠れています。だから水の中をばらばらに漂い、生卵はさらさらの液体でいられます。
約60℃でほどけ、網になる
ほどける瞬間は、赤外線を使うと数値で追えます。島津製作所が卵白を40℃から100℃まで10℃きざみで加熱した測定では、60℃からタンパク質の形が変わり始めました。
らせん状に巻いた部分は30.3%から15.1%へと半分に減り、代わりに平たく伸びた部分が37.9%から47.6%へ増えています。毛糸玉がほどけていく様子が、そのまま数字に表れた形です。
ほどけたひもは、それまで内側に隠れていた部分が外に出ます。その部分が別のひもとくっつき、あちこちに結び目ができます。無数の結び目が網の目を作り、水を抱え込んだまま全体が動けなくなる。これが「固まる」の正体です。
白身が一度に固まらないのは、タンパク質ごとに熱への強さが違うからです。オボトランスフェリンはオボアルブミンより熱に弱く、いっぽう主役のオボアルブミンが変性するのは約84℃です。白身のタンパク質が60℃ほどで変わり始めても、完全に固まるには80℃近くまで必要になる理由がここにあります。
透明だった白身が白く見えてくるのも、この網のせいです。生のうちは光がまっすぐ通り抜けますが、タンパク質の固まりができると、光があちこちで散らばるようになります。
家で確かめる①:温度で変わる白身と黄身
日本化学会の解説によると、黄身は65〜70℃、白身は80℃近くで完全に固まります。この差を使った料理が温泉卵です。黄身が固まる温度の湯に卵を長くつけておくと、黄身は固まり、白身はとろりと残ります。
温度の差がどれほど効くかは、2019年に日本調理科学会誌に載った研究が細かく調べています。湯の温度を一定に保って卵を加熱した結果です。
| 湯の温度 | 卵の中心が湯の温度近くになるまで | 白身の状態 |
|---|---|---|
| 65℃ | 30分 | 210分たっても流れる。広がり方は減る |
| 68℃ | 28分 | つける時間が長いほど流れにくくなる |
| 70℃ | 27分 | 30分たつと流れなくなる |
わずか5℃の差で、白身がトロトロのままか、固まるかが分かれます。68℃なら、つける時間で白身の固さを少しずつ変えられます。好みの温泉卵を探すなら、この温度が調整しやすいところです。家では次の手順で確かめられます。
- 鍋にたっぷりの湯をわかし、料理用の温度計を入れて65℃前後に合わせる
- 冷蔵庫から出した卵を入れ、ふたをして30分ほど置く。温度が下がったら弱火で戻す
- 同じ手順を70℃でも行い、2つを器に割り出して白身の流れ方を比べる
- 黄身も箸で押して、固まり具合の違いを見る
卵の大きさや、冷蔵庫から出した直後かどうかでも仕上がりは変わります。表の時間は目安として使い、温度だけを変えて比べると差がはっきりします。
中心が湯の温度に近づくまで30分ほどかかるのは、熱が殻の外から少しずつ伝わるからです。日本化学会の解説も、熱はまず白身に伝わり、そのあと黄身に届くと説明しています。外側の白身から先に温まるのに、白身のほうが固まりにくい。この逆転が、温泉卵の不思議な仕上がりを生んでいます。
家で確かめる②:目玉焼きとゆで卵
温度計がなくても、ふだんの料理で変化の順番は見えます。
- 目玉焼きを弱火で焼き、白身が透明から白に変わる境目を観察する。熱が伝わるフライパン側から白くなっていく
- ゆで卵を2個作り、1個は沸騰した湯で10分、もう1個はそれより長くゆでる
- 長くゆでた方は、そのまま置く。10分の方はすぐ冷水に入れる
- 両方を半分に切り、黄身のまわりの色を比べる
長くゆでたほうは、黄身のまわりが暗い緑色になりやすくなります。広島県の解説によると、加熱で白身のアミノ酸から硫黄が離れて硫化水素になり、黄身の鉄分と結びついて黒い硫化鉄ができるためです。温度が高く、加熱が長いほど目立ちます。
ゆで上がった卵をすぐ冷水に入れると、硫化水素が卵の表面のほうへ逃げ、黄身まで届きにくくなります。同じ解説は、沸騰した湯なら約10分、80℃の湯なら約25分ゆでると黄身が鮮やかな黄色に仕上がるとしています。
一度固まると戻らない
ゆで卵を冷やしても、生卵には戻りません。日本化学会の解説も、一度固まったタンパク質は冷やしても元に戻らないと説明しています。ほどけて絡み合ったひもは、自然には毛糸玉に折りたたまれ直せないのです。
ただし2015年、この常識に例外が生まれました。カリフォルニア大学アーバイン校とオーストラリアのフリンダース大学などの研究チームが、90℃で20分ゆでた卵白から、リゾチームを元の形に戻すことに成功しています。
まず尿素という物質で固まった卵白を溶かし、渦を作る装置で薄い液の膜に強い力をかけて、ほどき直しました。それまでの方法では約4日かかった作業が、数分で済みます。中心になったグレゴリー・ワイス教授は「数千倍速くなる」と話しています。狙いは料理ではなく、がんの治療薬などに使うタンパク質を安く作ることでした。
大学の発表によると、製薬会社はがんの治療に使う抗体を、高価なハムスターの卵巣の細胞で作っています。この細胞は、タンパク質の折りたたみを誤ることが少ないからです。安い酵母や大腸菌で作ると、間違った形に折りたたまれて使えなくなることがよくあります。速くほどき直す技術があれば、安い方法で作ったタンパク質も生かせるようになります。
よくある疑問
- 黄身のまわりが緑色になったゆで卵は、食べても大丈夫ですか?
- 広島県の解説は、この変色を「硫化黒変」と呼んでいます。体に害がある物ではないので、食べても問題ないとしています。見た目が気になるなら、ゆで時間を守り、ゆで上がったらすぐ冷水に入れると防ぎやすくなります。
- 半熟卵と温泉卵は、何が違うのですか?
- 固める順番が逆です。半熟卵は、白身に熱が入ったところで加熱をやめ、黄身に熱が届く前に止めて作ります。温泉卵は、黄身が固まる65〜70℃の湯に長くつけ、白身が固まりきらない温度で止めます。
まとめ
卵が固まるのは、毛糸玉のようなタンパク質が約60℃からほどけ、網を作るからです。白身は熱に弱いタンパク質から順に変わり、完全に固まるのは80℃近くです。黄身は65〜70℃で固まるので、その差が温泉卵を生みます。
次の休日は、温度計を1本用意して65℃と70℃の温泉卵を作り比べてみてください。5℃の差で白身の流れ方が変わるのを、自分の目で確かめられます。
参考にした資料