雑学

町が真っ赤に染まる?スペインのトマト投げ祭り

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
町が真っ赤に染まる?スペインのトマト投げ祭り

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スペイン東部の町ブニョールは、毎年8月の最終水曜日に1時間だけ真っ赤に染まります。トマト投げ祭り「ラ・トマティーナ」では、定員2万2000人の参加者が約120トンのトマトを投げ合います。

食べ物を投げ合う祭りは、ヨーロッパでは珍しくありません。オレンジやワイン、小麦粉を投げる祭りと比べると、トマティーナの特徴がはっきり見えてきます。1945年の始まりの日と今の姿の違いも、あわせて見ていきます。

正午から1時間だけの合戦

舞台はバレンシアから西へ約40キロ、人口およそ9000人の町ブニョールです。主催するブニョール町役場の公式サイトによると、2026年の開催は8月26日でした。

当日の流れは決まっています。10時ごろから、石けんを塗った柱に登って、てっぺんの生ハムを取り合う「パロ・ハボン」が始まります。11時にトマトを積んだトラックが通りに入り、12時の1発目の号砲で投げ合いが始まります。13時の2発目の号砲で終わり。投げ合いの時間は、きっかり1時間です。本番前の土曜日には、4〜14歳の子ども向けの「子どものトマティーナ」も開かれます。

投げるのは、ペラと呼ばれる品種のトマトです。公式サイトによると、国内の協同組合から仕入れる約12万キロで、味や見た目が生食用の基準に合わないものです。祭りで使わなければ、畑で捨てられてしまう余りものだと説明しています。

ヨーロッパの「投げ合う祭り」と比べる

食べ物や飲み物を投げ合う祭りは、スペインにもイタリアにもあります。代表的な4つを並べると、次のようになります。

ヨーロッパの投げ合う祭り(各祭りの公式サイト・Wikipediaをもとに作成)
祭り場所・時期投げる物量の目安由来
ラ・トマティーナスペイン・ブニョール/8月最終水曜日トマト約120トン1945年の騒ぎ
オレンジ合戦イタリア・イヴレーア/謝肉祭の3日間オレンジ約265トン(1994年)暴君に立ち向かった町の伝説
ワイン合戦スペイン・アロ/6月29日赤ワイン約2万リットル(2007年の推計)聖フェリクスを祀る巡礼
エル・エンファリナッツスペイン・イビ/12月28日小麦粉・卵記録なし200年以上続く冬の行事

表を見ると、トマティーナは意外にも「若い」祭りです。オレンジ合戦は、1194年の反乱で城を壊された領主の伝説を下敷きにしています。投げる物も豆からりんご、オレンジへと移り変わってきました。オレンジは、城に投げつけた石の代わりだとされています。今は9つのチームが徒歩で、馬車に乗った暴君の兵の役にオレンジを投げつけます。

アロのワイン合戦は、6世紀の聖人フェリクスゆかりの崖へ向かう巡礼の日に行われます。ワイン合戦の記録が新聞に初めて出るのは1949年です。イビのエル・エンファリナッツは、軍服姿の一団が町を「占拠」して、小麦粉と卵で戦う行事です。200年以上の歴史があります。

ほかの3つが聖人の日や伝説、祝日の行事に結びついているのに対し、トマティーナには宗教的な由来がありません。この違いが、のちに禁止される理由にもなりました。

1945年と今を比べる

公式サイトによると、始まりは1945年8月の最終水曜日です。町の守護聖人の祭りで、巨人と大頭の人形の行列に、若者たちが無理に入り込みました。その勢いで行列の参加者が転び、怒って周りに当たり散らします。近くに野菜の屋台があり、居合わせた人たちが、木箱のトマトを投げ合い始めました。騒ぎは警察が止めています。

翌1946年、若者たちは同じ日に、今度は家からトマトを持ってきました。ここから毎年の行事になります。

1950年代のはじめ、当局は祭りを何度か禁止しました。宗教や政治の理由がない、ただの騒ぎと見なしたのです。参加者は逮捕され、罰金も科されました。転機は1957年です。住民は大きなトマトを入れた棺を担ぎ、葬送行進曲を奏でる楽隊を従えて「トマトの葬式」を行いました。この抗議を経て、祭りは正式に認められます。

1945年のトマティーナと今のトマティーナ(ブニョール町役場の公式サイトをもとに作成)
比べる点1945年今
トマトの出どころ市場の屋台の木箱協同組合から仕入れる約12万キロ
参加者行列に居合わせた町の人有料チケットの定員2万2000人
時間警察が止めるまで12時から13時までの1時間
決まりなしトマトは潰してから投げる、など
位置づけただの騒ぎ国際的な観光価値を持つ祭り(2002年〜)

全国に知られたきっかけは、1983年にスペイン国営放送の番組「インフォルメ・セマナル」(RTVE)が流した報道でした。参加者はその後、年々増えていきます。2002年には、スペイン政府の観光当局から「国際的な観光価値を持つ祭り」に指定されました。

人気には副作用もありました。2012年には、人口9000人の町に約5万人が押し寄せ、通りが身動きの取れない状態になります。そこで町役場は2013年から定員を設け、チケット制に切り替えました。いまの定員2万2000人は、町の人口の2倍あまりです。

世界に広がったトマト投げ

トマティーナをまねた祭りは、ほかの国にも生まれています。

一方で、インドのカルナータカ州では、バンガロールとマイソールで計画されたトマティーナを州政府が禁止しました。食べ物を投げる祭りが、どこでも歓迎されるわけではありません。ブニョールの公式サイトも、トマトの出どころは「最もよく受ける質問の1つ」だとして、畑で捨てられる余りものを使っていると説明しています。

投げる前に潰すのが決まり

乱暴に見えて、決まりは細かく定められています。公式サイトが挙げる主な決まりは次のとおりです。

潰してから投げるのは、当たったときの衝撃を弱めるためです。公式サイトによると、ペラ種を使う理由も同じです。皮が柔らかく、当たっても怪我をしにくいのです。

見落としがちなのが目です。公式サイトは、トマトの酸から目を守るために、ゴーグルを着けるよう勧めています。ガラス製は避けるように、とも書いています。その酸は、片づけでは味方になります。トマトに含まれるクエン酸が、通りの汚れを落とす助けになるのです。投げ合いが終わると消防車が放水して通りを洗い、参加者は町役場が置くシャワーや、住民が貸してくれるホースで体を流します。

同じトマトでも、品種によって酸味や皮の固さは大きく違います。生食用とペラ種は何が違うのか、熟すと実の中で何が起きるのか。そうした話は、写真の多いトマトの図鑑で追うと分かりやすい分野です。

行く前に知っておきたいこと

ラ・トマティーナは、勢いだけの騒ぎではありません。正午から1時間という区切り、潰してから投げる決まり、2万2000人という定員。比べてみると、宗教的な由来を持たない若い祭りが、80年かけて自分たちで約束事を整えてきたことが分かります。

行くなら8月の最終水曜日です。チケットは町役場の公式サイトで売られていて、売り切れることもあります。公式サイトは、ツアー会社のチケットについて町役場は責任を負わないとしています。予約の前に、販売元がどこかを確かめてください。

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