雑学

タイでお金を踏んではいけない理由

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
タイでお金を踏んではいけない理由

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タイでは、お金を足で踏むことが強い失礼にあたります。紙幣にも硬貨にも国王の肖像が入っているうえ、タイでは足が体のいちばん低い部分とされているからです。

敬う相手の顔を、いちばん低い場所で押さえることになる。この2つが重なるため、落ちたお札を足で止めるだけでも周りの空気が変わります。ただし「踏んだだけで逮捕される」という説明には、確かな裏づけがありません。

結論:失礼の理由は「肖像」と「足」の2つ

お金を踏むのが失礼になる理由を、先に2つに分けておきます。

どちらか1つなら、問題は小さくて済みます。国王の肖像が入った写真集を手で開くのは、ふつうのことです。足で何かを指すのは行儀が悪いものの、それだけなら大事にはなりません。ところがお金を踏むと、敬う対象を最も低い部分で扱うことになり、2つが同時に起きてしまいます。

タイ国会のウェブサイトは、外国人向けの作法の一覧(Do's and Don'ts)で、国家・宗教・王室の3つを侮辱しないことを最初に挙げています。お金の扱いは、このうち王室への敬意に直接つながる話です。

国王の肖像は、毎日の暮らしでいちばん頻繁に手に取るお金に入っています。旅行者にとっても、王室への敬意がいちばん試されやすいのは、買い物や両替でお金を扱う場面です。

お金のどこに国王がいるのか

タイ中央銀行が発行する現行の第17シリーズは、20・50・100・500・1000バーツの5種類です。2018年に登場し、表はすべて空軍の制服を着たワチラロンコン国王(ラーマ10世)の肖像で統一されています。

裏まで見ると、王室との結びつきはさらにはっきりします。裏面には、いまの王朝(チャクリー王朝)の歴代国王が2人ずつ並んでいます。この王朝は、ラーマ1世が1782年4月6日に開きました。

タイの第17シリーズ紙幣(タイ中央銀行の資料をもとに作成)
額面大きさ裏面の国王
20バーツ72×138mmラーマ1世・2世
50バーツ72×144mmラーマ3世・4世
100バーツ72×150mmラーマ5世・6世
500バーツ72×156mmラーマ7世・8世
1000バーツ72×162mmラーマ9世・10世

額面が上がるほど新しい時代の国王になり、紙幣の横幅も6mmずつ長くなります。5枚そろえると、王朝の歴史をそのまま順にたどれる作りです。20バーツは2022年3月24日に、50バーツと100バーツは2025年11月21日に、プラスチックのような素材のポリマー紙幣にも切り替わりました。

硬貨も同じです。2018年には新しい国王の肖像が入った硬貨が、1・5・10・25・50サタンと1・2・5・10バーツの9種類そろって出ました。1バーツ硬貨や10バーツ硬貨の表にも、新しい国王の肖像があります。新しいお金が出たときも、前の国王ラーマ9世の肖像が入ったお金は引き続き使えるとされました。財布の中のどのお金を落としても、国王の顔が入っていることになります。

足は「いちばん低い」体の部分

もう1つの理由が、体の上下についての感覚です。タイ国会のサイトは、タイの人は頭を最も高く神聖で清らかな部分と考える、と説明しています。そのため人の頭に触れたり、頭の上に物をかざす行為は失礼にあたります。

反対に、足は低い部分です。同じサイトは、欲しい物を足で指すことを戒めています。人や食べ物、本をまたぐ行為も避けるよう求めています。在外タイ大使館の案内も、テーブルに足を載せないこと、足で物を指さないことを求めています。

足で扱ってはいけない物の中でも、国王の肖像はとくに重い対象です。お金を踏む行為が重く受け止められるのは、このためです。

よくある誤解:「踏んだら即逮捕」

「タイでお金を踏むと逮捕される」という話はよく出回っています。確かめられるのは、王室を守る法律があり、その解釈の幅が広いことまでです。

タイ刑法112条は、国王・王妃・王位継承者・摂政を中傷したり侮辱したりする行為を罰します。刑は1件につき3年から15年の禁錮です。1976年10月に、それまでの最長7年から引き上げられました。英国政府の渡航案内は、王室批判は違法で、法律は広く解釈され長い刑につながると注意しています。過去の王族への言及も対象です。

使われる件数も少なくありません。英語版ウィキペディアにまとめられた統計では、112条の事件は2007年の36件から、2015年には116件に増えています。年によって件数が大きく変わる法律で、外国人の旅行者が線引きを読み切るのは困難です。

外国人が実際に罪に問われた例もあります。2007年3月、酒に酔って国王の肖像のポスター5枚にスプレーで落書きしたスイス人の男性が、禁錮10年の判決を受けました。男性は翌月、国王の恩赦で釈放されています。

一方で、落としたお札をうっかり踏んだ旅行者が処罰されたという公的な記録は見当たりません。「踏んだら即逮捕」は言いすぎです。それでも、わざと踏んだり肖像をあざける使い方をしたりすれば、話は別になりえます。法の線引きは外から読みにくいため、足で扱わないのが一番安全です。

旅先で出会いやすい場面

知識として知っていても、とっさの場面で体が動いてしまうのが足です。旅行中に起こりやすい場面を挙げておきます。

映画館での起立と靴を脱ぐ作法は、タイ国会のサイトに書かれています。頭をなでないことは、在外タイ大使館の案内が「頭は体で最も高貴な部分」という理由で求めています。お金と同じく、王室への敬意が日常の場面に組み込まれている例です。

なお、紙幣の裏に並ぶ10人の国王が、それぞれどんな時代を生きたのか。ラーマ1世の建国から現在のラーマ10世までの流れは、タイの通史の本のほうが詳しく追えます。

よくある疑問

前の国王の肖像の紙幣はどうなったの?
2018年に新しいシリーズが出たとき、前のシリーズも引き続き使えるとされました。前の国王ラーマ9世の肖像が入ったお札も、扱い方の注意は同じです。
お金以外にも、足で扱ってはいけない物はある?
あります。タイ国会のサイトは、食べ物や本をまたがないよう注意しています。お寺の仏像に上ったりするのも厳禁です。「大事な物は足より上で扱う」と覚えておくと迷いません。
お金のほかに、国王の肖像で気をつける物は?
街なかに掲げられた国王の写真やポスターです。先に挙げたスイス人の男性の例は、まさにポスターへの落書きでした。写真を撮るときも、肖像をからかうようなポーズは避けてください。

まとめ

タイでお金を踏むのが失礼なのは、国王の肖像と「足は低い」という感覚が重なるからです。紙幣の表は5種類すべてが現国王で、裏には王朝の歴代国王が並びます。刑法112条は重い刑を定めていますが、うっかり踏んだだけで逮捕されたという記録は確かめられません。

タイに行くなら、お札や硬貨を落としたときは手で拾う、と1つだけ決めておいてください。両替したら、紙幣の裏の国王を表と見比べてみると、旅先の歴史が少し身近になります。

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