雑学

秋の満月の夜、川に光を浮かべるタイの祭り

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
秋の満月の夜、川に光を浮かべるタイの祭り

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ロイクラトンは、タイ旧暦12月の満月の夜に、灯籠を川や池に浮かべる行事です。「ロイ」は浮かべる、「クラトン」は灯籠を意味します。バナナの幹や葉で作った器に花・ろうそく・線香を飾り、水の女神へ感謝とおわびを伝えます。

今の暦では10月か11月、日本でいえば晩秋にあたり、2025年は11月5日の夜でした。バンコクだけで、翌朝までに39万個を超える灯籠が回収されています。

ロイクラトンは、いつ行われるの?

日付を決めるのは、タイの旧暦です。旧暦12月の満月の夜に行うので、今の暦では毎年日付が動き、10月末から11月の満月の日にあたります。タイの旧暦12月は、今の暦の12月とは重なりません。ここを取り違えると、時期を1か月以上も読み違えます。

なぜこの時期なのでしょうか。タイ国政府観光庁によると、旧暦12月の満月のころは、川の水位がいちばん高くなる時期です。雨季に降った水が集まり、川が一年で最も水をたたえます。満月の光と、水面に並ぶろうそくの火。この2つが重なる夜が、ロイクラトンです。

観光庁は、ロイクラトンを「毎年11月にタイ全土で」行われる祭りとして紹介しています。首都バンコクの川辺でも、北部のチェンマイでも、遺跡の町スコータイでも、同じ満月の夜に灯籠が流れます。

2025年は11月5日に行われ、バンコク都の職員は夜8時から翌朝5時まで、川や運河の110か所で灯籠を集めました。

灯籠には、何を載せて流すの?

クラトンの土台は、バナナの幹を輪切りにしたものと、折りたたんだバナナの葉で作ります。その上に花を飾り、ろうそくと線香を立てます。

タイランド財団の解説によると、自分の髪の毛や爪を入れる人もいます。悪い運を一緒に流すためです。硬貨を入れるのは施しの意味で、翌日には子どもたちが水の中から拾い集めます。

地方によっては、器そのものが違います。タイ国政府観光庁は、西部のターク県で、ヤシの実の殻で作った「サーイ」という灯籠を約1,000個、ピン川に流すと紹介しています。タイランド財団によると、この「ロイクラトン・サーイ」では数百の灯籠を長くつないで、光の列を作ります。サムットソンクラーム県のアムパワーでは、幅7〜8センチ、長さ20〜25センチほどの細いバナナの幹の灯籠に、油を染み込ませた線香と花を挿して、数万個を灯す祭りが復活しました。ナコーンパノム県には、明かりを灯した大きな舟を流す「ライ・ルア・ファイ」があります。

灯籠を流して、誰に祈っているの?

祈りを捧げる代表的な相手は、水そのものを表す女神プラ・メー・コンカーです。インドのガンジス川の女神ガンガーを、タイ語で呼んだ名前です。

灯籠には、大きく分けて2つの気持ちが込められます。1つは、1年の水の恵みへの感謝です。もう1つは、水を汚したり無駄に使ったりしたことへのおわびです。悪い運を灯籠に乗せて流す、という意味も重ねられています。

相手は女神だけではありません。タイランド財団の解説には、天上の仏塔に納められたブッダの髪や、インドのナンマター川の岸に残るとされるブッダの足跡へ届ける、「すべての水路は海へ通じる」として海で眠るヴィシュヌ神に捧げる、アショーカ王の師とされる高僧ウパグプタへの供物にする、先祖を敬う、といった考え方も並んでいます。ヒンドゥー教と仏教の両方が溶け込んだ行事です。

スコータイの女官が始めた、というのは本当?

起源としてよく語られるのは、スコータイ王朝(1238〜1438年)の女官ノッパマートが、蓮の花をかたどった灯籠を考えた、という物語です。出典は『ターオ・シーチュラーラック』と呼ばれる古典の書物です。

ところが歴史家のダムロン親王(1862〜1943年)は、この書物はラーマ3世の治世(1824〜1851年)に書かれたものだろう、と考えました。スコータイの時代から数百年後の作品ということになります。灯籠とノッパマートの結び付きも、後の時代に作られた可能性があります。

物語の真偽とは別に、ノッパマートは今も行事の顔です。各地のロイクラトンでは、彼女の装いをした女性たちが競う美人コンテストが開かれます。

水に供え物を浮かべる様子は、もっと古い時代にも描かれています。タイランド財団の解説では、カンボジアのバイヨン寺院に、1208年ごろの浮かべる供え物の浮き彫りがあるとしています。スコータイ王朝が興る前の時代です。

それでもスコータイは、今もロイクラトン発祥の地として親しまれています。歴史公園では毎年、朝の托鉢、灯籠の行列、王国の物語を光と音で描く夜の舞台が開かれます。スコータイ王朝から今のタイまでの流れは、通史をまとめた新書で追うと、この物語がどの時代のものとして語られてきたかが見えやすくなります。

空に飛ばすランタンも、ロイクラトンなの?

無数のランタンが夜空へ昇っていく写真は、ロイクラトンとは別の行事「イーペン」です。チェンマイを中心とするタイ北部で、同じ時期に行われます。

イーペンでは、熱気球のように空へ上がるランタンを、天上にあるブッダの遺骨への供物とします。寺や家も色とりどりの灯りで飾られます。水に浮かべるのがロイクラトン、空へ上げるのがイーペンです。チェンマイでは、ピン川に灯籠を流す行事と灯籠形の山車の行列も重なるため、2つが混同されやすくなります。空に昇る灯りを見たいのか、水面に並ぶ灯りを見たいのか。旅の行き先を選ぶときは、まずそこを決めておくと迷いません。

流した灯籠は、翌朝どこへ行くの?

流した灯籠は、その夜のうちに回収されます。バンコク都は、川や運河、池から集めた数を素材別に数えて公表しています。

バンコク都が回収した灯籠の数(Thai PBS World・Pattaya Mailの報道から作成)
年回収した数自然素材発泡スチロール
2024年514,590個98.39%1.61%
2025年391,027個82.76%(ほかにパン製10.01%)7.23%

2024年の数は前年から約2割(19.57%)減っています。逆算すると、2023年は約64万個が回収された計算です。2025年は、さらに24%減りました。自然素材の灯籠は細かく砕かれ、ノンケーム地区の有機肥料工場へ運ばれます。発泡スチロールなどの灯籠は、埋め立てで処分されます。

タイランド財団は、灯籠を流しすぎると、かえって水を汚す原因になると指摘しています。対策として挙げているのが、流す数を控えめにすることと、パンや果物で作った灯籠です。これらは早く分解され、水の生き物の餌にもなります。

ただし、場所によって正解は変わります。2025年、バンコク都は21区の33の公園を夜12時まで開放し、発泡スチロールの灯籠を厳しく禁じました。同時に、公園の池は水が入れ替わらないため、食べ残しが水を汚すパンなどの灯籠も避けるよう呼びかけています。勧めたのは、バナナの葉や幹の灯籠を「1家族に1つ」流すことでした。

まとめ

ロイクラトンは、川の水位がいちばん高くなる旧暦12月の満月に、水の女神へ感謝とおわびを伝える行事です。スコータイの女官ノッパマートの物語は19世紀の書物によるもので、空へ上げるランタンは北部のイーペンという別の行事です。

水への感謝から始まった行事は、回収と素材の工夫を通して、水を守る行事にもなりつつあります。その年の日付は、タイ旧暦12月の満月を調べれば分かります。旅行で参加するなら、バナナの葉やパンで作った灯籠を選んでみてください。

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