家の中に眠るお金、日本全体で数十兆円?
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銀行に預けず、家に置いたままの現金をタンス預金と呼びます。民間の試算では、その総額は2024年1月に60.0兆円まで膨らみ、新しいお札が出た後の9月には50.4兆円まで減りました。8か月で約9.6兆円の減少です。
ただし、これは実際に数えた値ではなく推計です。国のどこにも「タンス預金の統計」はありません。この記事では、推計の手がかりと増減の理由を、数字を並べて見ていきます。
タンス預金は誰にも数えられない
日本銀行が把握しているのは、世の中に出ているお札の総額までです。2025年の大晦日に、家庭や企業・金融機関などで年を越したお札は120.6兆円、枚数にして183.2億枚でした。
- 積み重ねた高さ:約1,832キロメートル(富士山の約485倍)
- 横に並べた長さ:約285万キロメートル(地球の約71周分)
- 日本の人口(約1億2,300万人)で割ると:1人あたり約98万円
もちろん、1人に約98万円ずつ配られているわけではありません。お札の一部は銀行の金庫や店のレジにあり、企業の手元にもあります。そのお札が家の引き出しにあるのか、レジにあるのかまでは追えません。だから「タンス預金は何兆円」という公式統計は作れず、数字はすべて推計になります。
お札の総額そのものは、いま減り続けています。日本銀行のマネタリーベース統計によると、お札の発行高(平均残高)は前年比で2024年に0.9%、2025年に2.0%減りました。2026年9月の平均残高は約114.6兆円です。
出回る量に比べて、動く量も大きいものです。2025年の1年間に日本銀行の窓口を出入りしたお札は、支払いと受け入れを合わせて182億枚、120.9兆円でした。年末に出回っていた量とほぼ同じ規模です。家の引き出しで眠るお札は、この流れの外にあります。
1万円札と千円札の差から推し量る
推計の手がかりは、お札の種類ごとの動きの差です。千円札は日々の買い物で使われ、1万円札は、まとめてしまい込むのに向いています。そこで、1万円札だけがほかのお札と違う動き方をしていれば、その差は使われずに眠っている分だと考えます。
第一生命経済研究所の熊野英生さんは、この考え方でタンス預金を試算しています。2024年10月のレポートでは、9月のお札の発行残高のうち、1万円札は前年比1.6%減でした。一方で千円札は3.9%増と、久しぶりに増えています。
キャッシュレス決済が広がっただけなら、1万円札も千円札も同じように伸びが鈍るはずです。同レポートは、1万円札だけが減っていることから、減っているのは日々の支払いに使うお金ではなくしまい込まれていたお金だと読んでいます。
数字で追うタンス預金
同研究所の試算を、年の順に並べるとこうなります。
| 時点 | 推計残高 | できごと |
|---|---|---|
| 2004年11月 | 23.7兆円 | 前回の新札発行。この月が底 |
| 2019年1月末 | 約50兆円 | 2019年4月、新札の発行計画を発表 |
| 2024年1月 | 60.0兆円 | 試算上のピーク |
| 2024年9月 | 50.4兆円 | 7月3日に20年ぶりの新札発行 |
2004年からの約15年で、残高はおよそ2倍に増えました。2019年のレポートは積み上がった理由として、異常な低金利が長く続いたことと、財政や社会保障への不安を挙げています。預けても利息がほとんど付かなければ、手元に置いても損をした気になりにくいわけです。
同じレポートは、このまま増え続ければ2023年ごろには72兆円くらいになる、という単純計算も示していました。実際のピークは2024年1月の60.0兆円で、見込みより約12兆円少なく止まっています。熊野さんは当時、タンス預金を減らすには預金金利が上がるのがいちばん効く、とも書いていました。金利1%の普通預金からあらゆる支払いができるなら、家に置くより預ける人が増える、という考え方です。
新札の発行は、それ自体が大きな事業です。2019年のレポートによると、銀行やコンビニなどのATMは約20万台あり、財務省はその改修費を1兆2,600億円と見積もっていました。そして新札は、タンス預金が積み上がる流れを一度止めました。2004年の前回の新札発行でも、タンス預金は一時7.5%減ったと同研究所は書いています。減少は2004年11月から2005年7月ごろまで、半年以上続きました。2019年の時点で熊野さんは、今回も3%ほど、約1.5兆円が動くと見ていました。実際の減少は約9.6兆円で、当時の見込みの6倍を超えています。
なぜ9.6兆円も減ったのか
2024年10月のレポートは、理由をいくつか挙げています。数字と合わせて並べます。
- 古いお札への不安:旧札でも1万円の価値は変わりません。それでも、古いお札で大量に持ち続けることが何となく不安になった、という見方です。1984年から続いた福沢諭吉の肖像が、渋沢栄一に替わった影響も大きかった可能性があります。
- 物価の上昇:消費者物価は、2020年1〜3月の平均100.4から2024年9月の108.8まで、8.4%上がりました。逆に言えば、現金の価値は約7.7%目減りしたことになります。1万円札1枚あたり約772円、1億円なら約772万円です。
- 金(きん)への移動:金の店頭小売価格は、2024年初めの1グラム10,507円から、10月23日の14,748円まで約40%上がりました。タンス預金の一部が金に移った可能性がある、と同レポートは見ています。
ただし、行き先ははっきりしていません。熊野さんは、金の市場はそれほど大きくないので10兆円近いお金の多くが金へ向かったとは考えにくい、と書いています。同レポートによると、タンス預金をする人は、金融機関に預けることを強く警戒する傾向があります。新しいお札で持ち直したのか、別の資産に移したのか。レポートは、その行き先を「非常にミステリアス」と表現しています。
お金と物価、貯金と投資の違いを基礎から押さえるなら、イラスト入りの入門書が分かりやすいです。インフレで現金の価値が目減りする仕組みも、この記事の数字と照らし合わせて読めます。
よくある疑問
- 古いお札は、新しいお札に替えないと使えなくなりますか?
- なりません。財務省は2023年6月の発表で、それまでの一万円・五千円・千円の日本銀行券は、新しいお札の発行後も引き続き通用すると説明しています。同じ発表で、「現行の日本銀行券が使えなくなる」などと語る振り込め詐欺に注意するよう呼びかけています。
- 家に置いておけば、相続のときに税務署から見えなくなりますか?
- いいえ。国税庁は相続税がかかる財産を、現金や預貯金・有価証券・土地・家屋などのほか、お金に見積もれる経済的価値のある全ての物と定めています。手元の現金も、この中に入ります。
まとめ
タンス預金は誰も数えていない、推計の数字です。手がかりは1万円札と千円札の動きの差で、第一生命経済研究所の試算では、2004年の23.7兆円から2024年1月の60.0兆円まで積み上がりました。新札が出た2024年には、9月までに約9.6兆円減っています。
増えた背景には長い低金利、減った背景には新札と物価の上昇がありました。タンス預金の増減は、家計が何を心配しているかを映す温度計です。次に日本銀行がお札の年末残高を発表したら、前の年と比べて増えたか減ったかを見てみてください。
参考にした資料