硬貨の縁のギザギザ、その意外な理由とは
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硬貨の縁のギザギザは、もともと金貨や銀貨の縁を削り取られるのを防ぐための仕掛けでした。造幣局はもうひとつ、「当時の最高額面の貨幣であることを示すため」という理由も挙げています。
そして現在のギザの目的は、そのどちらでもありません。造幣局の説明では、いまのギザは「他の貨幣と区別するため」と「偽造防止のため」にあります。ギザ十が8年で消えた理由も、100円玉が10円玉より小さい理由も、この「区別」で説明がつきます。
ギザは何のために生まれた?
金貨や銀貨は、素材の金属そのものに価値がありました。そこで、縁をやすりで少しずつ削り、削りくずを集めて溶かして売るという不正が横行します。
造幣局の説明によれば、ギザはこれを防ぐためにつけられました。細かい溝が縁にびっしり並んでいれば、削った瞬間に溝が途切れ、ひと目で分かります。飾りではなく、検査のための道具だったのです。
削られた硬貨は、額面どおりの銀を含んでいません。17世紀末のイングランドでは、出回っている手打ちの銀貨の多くが削られたりすり減ったりしていました。お金そのものが信用を失いかけていたのです。
ギザを発明したのはニュートン?
答えは「いいえ」です。ギザが国じゅうに広まったのは、17世紀末のイングランドでした。オックスフォード大学の研究プロジェクト「Newton & the Mint」によれば、1696年1月に議会が貨幣の立て直しを決め、1699年末までの大改鋳で古い銀貨が機械打ちの新硬貨に置き換えられます。このとき造られた銀貨は680万ポンドにのぼりました。
この大改鋳で効率と不正防止に取り組んだのが、王立造幣局にいたアイザック・ニュートンでした。ただしギザ自体はニュートンの発明ではありません。
縁に溝を刻む機械式の技術は、フランス人ピエール・ブロンドーが17世紀のうちに考案し、試していたものです。ねじ式のプレス機で縁まで刻んだ硬貨は形がそろい、偽造もしにくくなりました。「ニュートンがギザを発明した」という話は俗説です。
今のギザは何のためにある?
造幣局は、現在ギザがつけられている理由を「他の貨幣と区別するため」「偽造防止対策のため」と説明しています。素材の価値と額面が切り離された今、縁を削って得をする余地はありません。
ギザは削り取りを見破る仕掛けから、額面を見分ける手がかりへと役目を変えたのです。
5円玉や50円玉の穴も、区別と偽造防止のためにあります。穴にはもうひとつ、「原材料を節約するため」という大きな理由もあります。
では、100円玉のギザは何本あるのでしょうか。ネットには具体的な本数がよく出回っていますが、造幣局は公表していません。ギザが偽造防止の役目を持つためです。数えた人の数字はあっても、公式の数字はありません。
ギザ十はなぜ8年で消えた?
縁にギザのある10円玉、いわゆる「ギザ十」は、昭和26年(1951年)から昭和33年(1958年)に発行されたものです。当時は10円が最高額面の硬貨だったため、その印としてギザがつけられました。
ところが昭和30年(1955年)にギザつきの50円ニッケル貨が、昭和32年(1957年)にギザつきの100円銀貨が登場します。同じようなギザの硬貨が3種類並んだことで、見分けにくくなりました。
そこで昭和34年(1959年)、10円玉は100円銀貨と区別しやすいようにギザなしのデザインに変わります。同じ年、50円玉も穴あき・ギザなしに改められました。ギザ十が作られたのは、わずか8年間だけです。
100円玉が10円玉より小さいのはなぜ?
額面が大きいほど硬貨も大きい、とは限りません。10円玉の直径は23.5ミリですが、100円玉は22.6ミリ、50円玉は21ミリです。造幣局によれば、硬貨の大きさは額面だけで決めたものではなく、素材・大きさ・重さ・ギザ・穴の組み合わせで区別しています。
| 年 | 硬貨 | ギザ | 穴 | 直径 |
|---|---|---|---|---|
| 1951年 | 10円青銅貨 | あり | なし | 23.5mm |
| 1955年 | 50円ニッケル貨 | あり | なし | 25.0mm |
| 1957年 | 100円銀貨 | あり | なし | 22.6mm |
| 1959年 | 10円貨・50円貨を改める | どちらもなし | 50円にあり | — |
| 1967年 | 50円白銅貨 | あり | あり | 21.0mm |
| 1967年 | 100円白銅貨 | あり | なし | 22.6mm |
| 2021年 | 新しい500円貨 | 異形斜めギザ | なし | 26.5mm |
1967年に100円玉と50円玉が白銅に変わったのは、電子工業や自動販売機の広がりで銀が足りなくなったためです。このとき50円玉は、5円玉の22ミリより小さい21ミリになりました。5円玉より大きくすると、100円玉と見分けにくくなるからです。
表を縦に見ると、ギザは一度消えた50円玉に戻ってきています。ギザは「高い硬貨の印」ではなく、隣の硬貨と区別するための部品として、つけたり外したりされてきたのです。
外国の硬貨にもギザはある?
あります。アメリカでは10セント硬貨と25セント硬貨の縁にギザがあり、オーストラリアでも5・10・20セントと1・2ドル硬貨がギザつきです。縁の違いは、目の不自由な人が指先だけで額面を見分ける助けにもなります。
ユーロ硬貨は、縁の形を額面ごとに変えています。欧州中央銀行の説明では、2ユーロは細かいギザに文字を刻み、1ユーロは細かいギザの間に3か所なめらかな部分をはさみます。20セントはなめらかな縁に7つのくぼみ、10セントと50セントは大きめの切れ込みです。目の不自由な人が安心して使えるよう、大きさや重さとあわせて設計されています。
イギリスの1ポンド硬貨には、縁にラテン語で「decus et tutamen」と刻まれたものが多くあります。意味は「飾りであり、守りである」。縁の役目をそのまま言い表した言葉です。
500円玉のギザが斜めなのはなぜ?
500円玉の側面をよく見ると、溝が真っすぐではなく斜めに傾いています。造幣局によれば、向きを斜めにすることで偽造抵抗力が上がり、大量生産型の貨幣では世界初の採用でした。
さらに2021年11月1日に発行が始まった新しい500円貨では、上下左右の4か所だけ溝の形を変えた「異形斜めギザ」が使われています。財務省によれば、大量生産される貨幣への導入は世界初。造幣局が独自に開発した技術です。異形斜めギザもバイカラー・クラッドも、先に地方自治法施行60周年の記念500円貨で使われ、そのあと毎日使う硬貨に広がりました。
新しい500円貨は、縁だけでなく全体が偽造対策のかたまりです。2枚の金属板を貼り合わせた円板を、別の金属の輪にはめ込む「バイカラー・クラッド」で造られています。直径は旧貨と同じ26.5ミリで、重さは7.0グラムから7.1グラムに増えました。
表面にも仕掛けがあります。縁の近くの上下には「JAPAN」、左右には「500YEN」という小さな文字が刻まれています。硬貨を傾けると「JAPAN」と「500YEN」が入れ替わって見える潜像もあり、これは旧500円貨から受け継いだ技術です。
まとめ
ギザは、金貨や銀貨の削り取りを見破る道具として生まれました。17世紀にフランス人が技術を考案し、イングランドの大改鋳で広まります。いまの日本では、額面を区別し、偽造を防ぐための部品です。ギザ十が8年で消えたのも、50円玉にギザが戻ったのも、隣の硬貨と見分けるためでした。
財布から500円玉を取り出して、側面をゆっくり回してみてください。斜めの溝が整然と並ぶなかに、形の違う一角が4つ見つかります。
参考にした資料