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白髪はなぜ生える?髪の色のしくみ

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
白髪はなぜ生える?髪の色のしくみ

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白髪が生えるのは、髪に色をつける細胞の補充が追いつかなくなるからです。髪はもともと色のない毛で、黒く見えるのは、根元で色素を受け取ってから伸びてくるためです。

この仕組みが分かってきたのは、2000年代に入ってからです。平安末期の武将の逸話から2025年の研究まで、白髪をめぐる話を年の順にたどります。「抜くと増える」という話に根拠がないことも、あわせて確かめます。

昔の人も白髪を気にしていた

白髪を隠した人物として名高いのが、平安時代末期の武将、斎藤実盛です。源平の争いが始まったころ、実盛は70代だったとされます。

『平家物語』によると、実盛は寿永2年(1183年)に加賀国の篠原(いまの石川県加賀市)で木曽義仲の軍と戦い、討たれました。首を池の水で洗うと、黒かった髪が白髪に戻ります。老武者と侮られないよう、髪を染めて出陣していたのです。国立公文書館の展示は、それを知った義仲が涙した場面を紹介しています。

埼玉県熊谷市の妻沼聖天山歓喜院には、鏡と筆を手に、白髪を黒く染めようとする実盛の像があります。800年以上前から、白髪は「年齢が見える印」として意識されていました。

時代が下ると、別の種類の話も生まれます。フランス革命のさなかの1791年、王妃マリー・アントワネットは、国外へ逃げようとして捕らえられました(ヴァレンヌ事件)。その後、彼女の髪が一晩で白くなったという伝説が残っています。強い恐怖や悲しみで急に髪が白くなる話は「マリー・アントワネット症候群」と呼ばれますが、実際に起きたかは確かめられていません。

髪の色は根元で付く

一晩で白くなる話を考えるには、髪の色がどこで決まるかを知る必要があります。

髪の本体は、ケラチンというタンパク質でできた繊維で、それ自体に色はありません。色のもとはメラニンという色素です。黒や茶色になるユーメラニンと、赤や黄色になるフェオメラニンの2種類です。その量と割合で、黒髪・金髪・赤毛の違いが生まれます。肌の色を決めているのも同じメラニンです。

メラニンを作るのは、毛の根元にあるメラノサイトという細胞です。作られた色素は、髪を作る細胞へ受け渡され、伸びていく毛の中に取り込まれます。色が付くのは根元だけなので、いったん伸びた髪の色は途中で変わりません。

ハーバード大学医学部の解説も、1本の毛が途中で色を変えるのではなく、色のない新しい毛が生えて入れ替わるのだと説明しています。一晩で白くなるには、すでに伸びている毛の色が抜ける必要があり、この仕組みとは合いません。

伝説の説明として挙げられているのは、円形脱毛症の一種です。色のある毛だけが抜け落ちて、もともと混じっていた白い毛が残る。すると、急に白くなったように見える、という考え方です。ただし、これも十分に調べられた話ではありません。

2002年、色をつける細胞の「控え」が見つかる

メラノサイトは、髪が生え替わるたびに使われて減っていきます。では、何十年も黒い髪が生え続けるのはなぜか。答えを出したのが、現在は東京大学医科学研究所の教授である西村栄美さんたちです。

西村さんたちは、毛穴の中に控えている「色素幹細胞」を見つけました。報告はマウスで2002年、ヒトで2004年です。色素幹細胞は、普段は休んでいて、毛が生え替わるときに一部がメラノサイトになります。この補充が続くかぎり、色のついた髪が生えてきます。

2009年には、当時金沢大学にいた西村さんたちが、米国の科学誌セルに続きを発表しました。放射線などでDNAが傷つくと、色素幹細胞は控えの役をやめ、成熟した細胞になってしまう。マウスでは、それで補充役がいなくなり、早く白髪になりました。補充役がいなければ、根元で色を付けられないまま毛が伸びます。これが白髪です。ハーバード大学医学部は、白髪の主な要因を加齢と遺伝としています。

2020年と2023年、ストレスと「動けなくなる細胞」

ストレスで白髪が増えるという話は昔からありました。2020年1月22日、ハーバード大学のチームが科学誌ネイチャーに、その仕組みの1つを報告しています。

実験では、唐辛子の辛み成分に近い物質をマウスに注射して、強いストレスを与えました。すると交感神経からノルアドレナリンが大量に出て、色素幹細胞が一斉に働き出し、数日で使い切られてしまいました。マウスの毛は5日ほどで白くなっています。

2023年4月には、米ニューヨーク大学のチームがネイチャーに別の発見を発表しました。色素幹細胞は、毛包の中の区画を行き来しながら働きます。ところが年を取ると、その一部が移動できずに止まり、色を作る段階まで進めなくなるというものです。

どちらもマウスの研究です。ハーバード大学医学部は、マウスで起きたことが人で同じように起きるとは限らないと注意しています。実験で与えたのは短く強いストレスで、人が日々感じる長いストレスとも性質が違います。

抜かずに切るための道具

白髪を1本抜くと10本に増える、という話に根拠はありません。米アーカンソー大学医科学部の医師は、1つの毛穴から生える毛は1本だけなので、抜いてもその毛穴からまた白髪が1本生えるだけだと説明しています。増えたように見えるのは、年齢とともに白髪そのものが増えるからです。

同じ医師は、抜くと毛穴が傷つくとも書いています。繰り返すと、感染や跡、毛が生えない部分につながる場合があるそうです。どうしても気になる1本は、抜かずに根元近くで注意して切る、というのがこの医師の考え方です。そのとき役に立つのが、細かい所を切れる小さなはさみと、手元を大きく映す鏡です。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。

小さなはさみ:グリーンベル キャップ付ステンレス眉カットはさみ MI-217 約990円。全長約87mmの日本製で、刃先が細いカーブ刃です。キャップが付いていて、ポーチに入れて持ち歩けます。
向いている人:生え際やこめかみなど、目で見える所の1本を切りたい人。注意:眉用として売られているはさみです。刃先が肌に当たらないよう、確かめながら使います。

拡大鏡:ICHIFUJI 10倍拡大鏡 LEDミラー(吸盤付き) 約2,590円。LEDライト付きの10倍の鏡で、吸盤で壁に付けたり、卓上に置いたりできます。
向いている人:根元を明るく大きく見たい人。向かない人:顔全体を映したい人。10倍だけの鏡なので、普段使いの鏡とは別に持つことになります。

いま分かっていること

白髪をめぐる話を、年の順に並べるとこうなります。

白髪をめぐる年表
年できごと
1183年斎藤実盛が白髪を染めて篠原の戦いに出陣したと『平家物語』が伝える
1791年ヴァレンヌ事件。マリー・アントワネットの髪が一晩で白くなった伝説が生まれる
2002年西村栄美さんらがマウスで色素幹細胞を報告(ヒトでは2004年)
2009年西村さんらが、DNAの傷で色素幹細胞が控えの役をやめることをマウスで報告
2020年ハーバード大学がストレスで色素幹細胞が使い切られる仕組みをマウスで報告
2023年ニューヨーク大学が、年を取ると色素幹細胞が動けなくなることをマウスで報告
2025年東京大学医科学研究所が「老化分化」による色素幹細胞の排除を報告

最新の2025年の報告は、白髪の見方を少し変えるものです。東京大学医科学研究所などのグループは、DNAが傷ついた色素幹細胞が「老化分化」という仕組みで毛包から取り除かれることを、マウスで示しました。紫外線や発がん物質を受けると、この排除が働きにくくなり、皮膚がんの一種であるメラノーマにつながる細胞が残りやすくなるといいます。白髪は、危ない細胞を処分した跡かもしれない、という見方です。

白髪は「色が抜けた」髪ではなく、「色をつける係が足りなくなった」髪です。実盛の時代から800年以上たって、ようやくその係の正体が見えてきました。人での仕組みはまだ研究の途中です。鏡の前で白い1本を見つけたら、それは根元の細胞の世代交代が残した記録だと考えてみてください。

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