あくびはなぜうつる?「共感のサイン」説はまだ決着していない
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あくびがうつる理由は、まだ分かっていません。「共感の力の表れ」という説明がよく知られていますが、これを支える研究と、否定する研究の両方があります。
一方で、あくびそのものの働きについては、ここ20年ほどで実験が進みました。この記事では、あくびの伝染に関する研究を年代順に並べ、どこまでが分かっていて、どこからが未解決なのかを整理します。
結論:うつる理由は「未解決」
誰かのあくびを見ると、眠くなくても自分まで口が開く。この現象は再現しやすく、デューク大学の実験では、あくびをする人の動画を3分間見た328人のうち、222人が少なくとも1回あくびをしました。およそ3人に2人です。
うつるあくびは、相手の姿を見なくても起きます。あくびの音を聞くだけで起き、あくびについての文章を読むだけでも起きます。この記事をここまで読んで、すでに一度出た人もいるはずです。
ところが「なぜうつるのか」には、まだ定まった答えがありません。2017年、マッセンとギャラップはそれまでの研究を見直し、共感とあくびの伝染を同じものとみなす証拠はまだ揃っていない、と結論づけました。
あくびは何のために出るのか
うつる理由を考える前に、あくびそのものの役割を見ておきます。有力な説の1つが、ニューヨーク州立大学のアンドリュー・ギャラップらが唱える「脳を冷やす」説です。
大きく口を開けて深く息を吸うと、冷たい空気が入り、顎まわりの血の流れが増えます。温まった血液を入れ替えて、脳の温度を下げる仕組みだという考え方です。
2007年の実験では、参加者にあくびの動画を見せました。口で呼吸した人や、呼吸のしかたを指示されなかった人では、約48%にあくびがうつりました。鼻だけで呼吸するよう指示された人では、うつった人は1人もいませんでした。鼻呼吸には、脳へ向かう血液を冷やす働きがあると考えられています。
同じ論文の2つ目の実験では、額にパックを当てながら動画を見てもらいました。温かいパックや室温のパックでは41%にうつり、4℃の冷たいパックでは9%まで下がりました。脳が別の方法で冷えていれば、あくびの出番が減るという解釈です。
気温との関係を調べた研究もあります。ウィーン大学のマッセンらは2014年、ウィーンの屋外で歩行者にあくびの写真を見せ、夏と冬で比べました。ウィーンでは夏のほうがよく伝染し、先に調べた乾燥地のアリゾナでは冬のほうがうつりました。研究チームは、気温がおよそ20℃のときに伝染しやすく、体温に近い37℃前後や、氷点に近い寒さでは減ると説明しています。
よくある誤解「あくびは酸素不足のサイン」
「あくびは、脳に酸素が足りないときに出る」という説明は今もよく見かけます。ところが、この説は1980年代に実験で否定されています。
メリーランド大学のロバート・プロヴァインらは1987年、学生に3〜5%の二酸化炭素を含む空気や、100%の酸素を吸ってもらいました。呼吸は速くなりましたが、あくびの回数は変わりませんでした。呼吸の回数が2倍になるまで運動してもらった実験でも、あくびは増えませんでした。
酸素不足が原因なら、酸素を吸えば減るはずです。実験の結果は違ったため、研究の関心は脳の温度や、眠気と目覚めの切り替えへと移りました。
もう1つの誤解が「あくびがうつる人は共感力が高い」という話です。これは次の節で見るとおり、研究の結果が割れています。性格診断のように使える話ではありません。
研究を年代順に並べると
あくびの伝染に関する主な研究を、年代順に並べました。共感説を支える研究と、そうでない研究が交互に出てきます。
| 年 | 研究 | 対象 | 分かったこと |
|---|---|---|---|
| 1987 | プロヴァインら | 学生 | 二酸化炭素や酸素を吸っても、あくびの回数は変わらない |
| 2007 | ギャラップら | 大学生 | 鼻呼吸ではうつった人が0%、額を冷やすと9% |
| 2008 | ロンドン大学 | イヌ29頭 | 21頭が、人のあくびを見てあくびをした |
| 2011 | ノルシャとパラジ | 109人 | 家族、友人、知人、他人の順にうつりやすい |
| 2014 | デューク大学 | 328人 | 共感力との強い関係は見つからず、年齢で説明できたのは8% |
| 2014 | マッセンら | ウィーンの歩行者 | 気温20℃前後でうつりやすい |
| 2016 | ギャラップら | 19種109頭(人を含む) | 脳の大きい種ほど、あくびが長い |
共感説の柱になったのは、2011年のノルシャとパラジの観察研究です。2人は1年かけて、職場や食卓などで109人のあくびを記録しました。うつる割合は家族がいちばん高く、反応までの時間も親しい相手ほど短くなりました。性別や国籍では、この差を説明できませんでした。
これに対して2014年のデューク大学の研究は、328人の共感力や知能、眠気、時間帯を測って比べました。はっきり関係が出たのは年齢だけで、年を取るほどうつりにくくなります。ただし年齢で説明できたのは個人差の8%で、残りの理由は分かっていません。
表の最後の研究は、YouTubeの動画からあくびの長さを測ったものです。人のあくびは平均約6.5秒で、調べた19種の中でいちばん長く、マウスは約0.8秒でした。イヌは約2.4秒、ネコは約2秒です。
家で室温とあくびを記録するなら
うつるあくびは、身近な場面で観察できます。デューク大学の実験のように、あくびの動画を3分見て、自分が何回つられたかを数えてみてください。家族と並んで見たときと、ひとりで見たときを比べるのも1つの方法です。
気温20℃前後で伝染しやすいという研究に合わせるなら、部屋の温度もいっしょに書き留めます。暖房の効いた冬の部屋と、冷房を入れた夏の部屋では、数が変わるかもしれません。1回の記録では偶然に左右されるので、何日か続けて比べるのがコツです。結果は自分の体の記録であって、健康状態を判断する材料にはなりません。
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よくある疑問
- イヌや動物にも、あくびは伝染しますか?
- うつることが報告されています。2008年にロンドン大学が行った実験では、見知らぬ人がイヌの前であくびをすると、29頭のうち21頭があくびをしました。口を開けただけの動きでは、1頭もあくびをしませんでした。チンパンジーやオオカミでも、仲間どうしでうつる例が報告されています。
- 小さな子どもにも、あくびは伝染しますか?
- あくびそのものは、生まれる前の胎児にも見られます。ただ、他人のあくびに反応して出る伝染は、6歳ごろより前でははっきり出ないとする研究があります。うつるあくびは、成長とともに表れてくる反応だと考えられています。
まとめ
あくびがうつる理由は、いまも決着していません。親しい相手ほどうつるという研究がある一方で、328人を調べても共感力との強い関係は出ませんでした。あくびの役割としては「脳を冷やす」説が有力で、鼻呼吸や額の冷却でうつる割合が下がる実験があります。「酸素不足で出る」という説明は、1987年の実験で否定されています。
次に誰かのあくびが伝染したら、何秒で出たか、部屋が何度だったかを書き留めてみてください。相手が家族のときと、初対面の人のときで差が出るかどうか。研究者がまだ答えを出せていない問いを、家で確かめることができます。
参考にした資料
- PLOS ONE — Yawn Contagion and Empathy in Homo sapiens(Norscia & Palagi, 2011)
- Duke Health(デューク大学) — Contagious Yawning May Not Be Linked to Empathy
- PubMed — Why contagious yawning does not (yet) equate to empathy(Massen & Gallup, 2017)
- ニューヨーク州立大学オールバニ校 — What's in a Yawn?(鼻呼吸と額の冷却の実験)
- BioSpace — ウィーン大学ほかの発表(気温20℃前後でうつりやすい)
- Scientific American — The Bigger Your Brain, the Longer Your Yawn
- ワシントン大学 Neuroscience for Kids — Yawning(プロヴァインの実験)
- Wikipedia — Yawn(イヌのあくびの伝染・子どもの発達)