しゃっくりはなぜ出る?横隔膜のけいれんのしくみ
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しゃっくりの正体は、肺の下にある「横隔膜」という筋肉のけいれんです。医学では吃逆(きつぎゃく)と呼ばれます。
けいれんの直後に、のどの奥の声門がぱっと閉じ、流れ込む空気がせき止められて「ヒック」と鳴ります。ほとんどは自然におさまりますが、確実に止める方法は今も見つかっていません。この記事では仕組みから順に、よくある誤解と身近なきっかけまでを見ていきます。
しゃっくりの正体は横隔膜のけいれん
横隔膜は、胸とお腹を仕切っている薄い筋肉です。息を吸うときに下がって肺をふくらませ、吐くときにもとの位置へ戻ります。眠っているあいだも、この上下の動きは止まりません。
しゃっくりは、その規則正しい動きに割り込むように起こる、突然の収縮です。MSDマニュアルは吃逆を、横隔膜が意思と関係なくけいれんを繰り返したあと、声門が突然閉じるものと説明しています。
縮むのは横隔膜だけではありません。あばら骨のあいだにある肋間筋という呼吸の筋肉も一緒に引きつり、2つの動きが重なって空気が一気に吸い込まれます。けいれんは左右どちらか一方だけに起こることが多く、その場合は左側が多いとされます。
「ヒック」が鳴るまでの流れ
しゃっくりは、脳と横隔膜を結ぶ反射の回路で起きています。胃や食道などからの刺激が、迷走神経や横隔神経を通って延髄へ伝わります。そこから横隔神経が、横隔膜へ「縮め」という命令を送ります。専門家向けのMSDマニュアルは、しゃっくりは横隔神経か、横隔膜を動かす延髄の呼吸中枢が刺激されて起こると説明しています。ただし、なぜ刺激が加わるのかという原因は、多くの場合で分かっていません。
横隔膜が急に縮むと、空気が勢いよく肺へ流れ込みます。その約35ミリ秒後、つまり0.035秒ほどで声門が閉じ、空気の通り道をふさぎます。この急停止が、あの短い音のもとです。
瞬きやくしゃみと同じで、意思とは別のところで回っている反射です。息を吸う動きは自分で調節できるのに、しゃっくりだけ止められないのは、この回路が意思の外にあるからです。たいていの発作は30分もたたずにおさまります。
回数は人によって違い、1分間に数回くり返すのがよくある形です。2007年にはアメリカのフロリダ州で、1分間に約50回のしゃっくりが5週間以上続いた女性の例も報じられました。
横隔膜と肺、胃の位置関係は、文章だけではつかみにくいところです。体の中で横隔膜がどこにあり、呼吸のたびにどう動くのか。断面図や写真を並べた人体の図鑑で見ると、ぐっと分かりやすくなります。
しゃっくりは何のためにある?
大人のしゃっくりに、はっきりした役目は見つかっていません。手がかりは赤ちゃんにあります。
しゃっくりは、おなかの中にいる妊娠9週ごろから始まるとされます。早く生まれた赤ちゃんは、1日の約1%にあたる15分ほどを、しゃっくりをして過ごします。
2019年、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のチームは、在胎30〜42週で生まれた赤ちゃん13人の脳波を調べました。しゃっくりが出るたびに、脳には大きな波が3つ続けて現れました。3つ目の波は、音を聞いたときの反応に似ていました。脳が「ヒック」という音と、筋肉が縮む感覚を結びつけている可能性があります。研究チームの見方はこうです。しゃっくりは呼吸の筋肉の動きを脳に覚えさせ、のちに呼吸を自分で調節できるよう手助けしているのかもしれません。大人のしゃっくりは、赤ちゃんのころの反射の名残かもしれない、という見方です。
ほかにも、乳を飲むときに一緒に飲み込んだ空気を出すためという説や、えらで呼吸していた祖先の動きの名残という説があります。後者の説の根拠の1つは、胎児の体の作られる順番です。しゃっくりの動きを起こす神経の通り道は、ふつうの肺の呼吸の通り道より先にできます。どれも仮説の段階です。
よくある誤解
「驚かせれば止まる」:昔から語られる止め方ですが、裏づけのある方法ではありません。息を止める・紙袋を口にあてて呼吸する・乾いたパンや砂糖を飲み込む、といった方法も同じです。MSDマニュアル家庭版は、民間療法の多くは「効果がないか、わずかに効果がみられるに過ぎません」としています。なお専門家向けの同マニュアルは、鼻まで塞ぐ恐れがあるため、ビニール袋は使わないよう書いています。
まったく理屈がない訳でもありません。息を止めたり袋の中で呼吸したりすると、血液中の二酸化炭素が増えます。専門家向けのMSDマニュアルは、これが横隔膜の動きを抑える可能性があると説明しています。二酸化炭素が増えると、しゃっくりは抑えられる傾向があることも分かっています。ただ、どの方法も勧めるだけの確かな根拠はまだ無い、というのが同マニュアルの立場です。
「男性ばかりがなる」:しゃっくり自体は、男女で同じくらい起こります。ただし、長引くしゃっくりは男性に多いと報告されています。
「しゃっくりは病気ではない」:ほとんどは一時的で、原因もはっきりしません。一方で、何日も続くしゃっくりの背景には、食道・胃・胸・脳などの病気が見つかる場合もあります。長さで分けて考えるのが、医学の見方です。
イギリスの歌手クリストファー・サンズさんは、2007年から2009年まで27か月間、しゃっくりが続きました。原因は、脳の奥にある脳幹の腫瘍でした。
身近なきっかけと、続く長さの区分
一時的なしゃっくりの引き金として知られているのは、胃が急にふくらむことです。早食いや空気の飲み込みすぎ、炭酸飲料やアルコール、熱いものや辛いものが代表例です。大笑いのあとに始まることもあります。
医学では、しゃっくりを続いた時間で分けます。
| 区分 | 続く長さ | よく挙がる背景 |
|---|---|---|
| 一過性(急性) | 48時間以内 | 胃のふくらみ、アルコール、熱いものや刺激物 |
| 持続性 | 48時間(2日)を超える | 食道や胃の病気、腹部や胸の手術のあとなど |
| 難治性 | 1か月を超える | 持続性と同じく、さまざまな病気が背景になりうる |
持続性と難治性のしゃっくりはまれです。MSDマニュアル家庭版は、医師の診察を受ける目安として2つを挙げています。頭痛やしびれなど神経の症状をともなう場合と、2〜3日以上続く場合です。長引くしゃっくりには、医師がクロルプロマジンやバクロフェンなどの薬を使う場合があります。ただ、同マニュアルによれば、薬の効果はさまざまです。
よくある疑問
- しゃっくりの最長記録は何年ですか?
- ギネス世界記録では、アメリカのチャールズ・オズボーンさんの約68年です。1922年、豚の重さを量ろうとした時に始まり、1990年2月まで続きました。回数は推定で約4億3,000万回とされています。
- 赤ちゃんは、しゃっくりをよく起こしますか?
- 多く見られます。おなかの中で妊娠9週ごろから始まり、早く生まれた赤ちゃんは1日に15分ほどしゃっくりをしています。年齢が上がるにつれて、しゃっくりの回数は減っていきます。
まとめ
しゃっくりは、横隔膜のけいれんと、その約0.035秒後に声門が閉じる動きが重なって起こります。反射なので意思では止められず、確実な止め方も見つかっていません。多くは30分以内におさまり、医学では48時間と1か月を区切りに分けて考えます。
次にしゃっくりが出たら、胸とお腹の境目に手を当ててみてください。「ヒック」のたびに、その奥で横隔膜が縮んでいます。
参考にした資料