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ラッコは石で貝を割る、道具を使う数少ない動物

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
ラッコは石で貝を割る、道具を使う数少ない動物

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ラッコは、石を道具に使う数少ない動物です。仰向けに浮かんで胸に石をのせ、そこへ貝を打ちつけて割ります。野生で石をたたく道具として日常的に使う動物のうち、サルの仲間(霊長類)以外はラッコだけとされています。

道具は遊びではありません。2024年の研究では、道具をよく使うラッコほど歯の傷みが少ないことが分かりました。この記事では、石の使い方と道具が必要な理由、よくある誤解を順に見ていきます。

結論:石の道具を使う、サル以外で唯一の動物

野生で石をたたく道具として使うことが確かめられている動物は、ごくわずかです。英語版ウィキペディアの「ラッコの道具使用」の項目が挙げるのは、人間・チンパンジー・ヒゲオマキザル・カニクイザル・ラッコの5種です。この中で、サルの仲間でないのはラッコだけです。

さらに、同じ群れの中でも「道具をよく使う個体」と「ほとんど使わない個体」がはっきり分かれます。こうした個体ごとの道具の得意・不得意が記録されているのは、人間とバンドウイルカ、ラッコの3種だけだとされています。

石の使い方は2通り

ラッコの石の使い方には、大きく2つあります。

石を運ぶのは、前あしの下のたるんだ皮膚です。モントレーベイ水族館によると、ここが袋の役目をするので、獲物を入れたまま潜り続けられます。両手が空くので、次の獲物を探しやすくなります。石もここにしまっておけます。

数字で見るラッコの道具使い(英語版ウィキペディア「Tool use by sea otters」をもとに作成)
項目数字
1964年、カリフォルニアのポイント・ロボスでの観察6日間で道具の使用が30回
好んで使う石の大きさ6〜15センチ
ムール貝1個を割るのに打ちつける回数約35回
ある1頭の1回の食事石6個でムール貝44個
潜水のうち道具を使った割合アラスカのアムチトカ島1%、カリフォルニアのモントレー16%
群れの中で道具を使う個体の割合10〜93%
道具を使う個体が道具に使う時間1日の最大21%

石は形よりも大きさで選んでいるようです。また、アラスカとカリフォルニアでは、道具を使う割合が16倍も違います。同じ項目には、北太平洋のラッコは主にウニや魚を食べるので道具をあまり使わない、という説明もあります。

なぜ道具が必要なのか

ラッコには、クジラやアザラシのような厚い脂肪の層がありません。代わりに寒さを防ぐのは毛皮です。モントレーベイ水族館によると、毛は最も密なところで1平方インチ(約6.5平方センチ)あたり100万本を超え、動物の中でいちばん密な毛皮です。

脂肪がない分、体温を保つには食べ続けるしかありません。ラッコは1日に体重の約4分の1を食べます。体重30キロのラッコなら、毎日7キロ以上の計算です。硬い殻を素早く確実に割る技術は、生き残るための条件です。

そこで大事になるのが歯です。カリフォルニア大学サンタクルーズ校などの研究チームは、電波発信器を付けたカリフォルニアのラッコ196頭を追跡し、2024年5月に科学誌サイエンスで結果を発表しました。

メスは体が小さく、かむ力も弱いうえ、子育てで多くのエネルギーを使います。その不利を道具で埋めていたわけです。歯がすり減ったり欠けたりすると、食べられなくなって飢える恐れがあります。道具は、歯を守る保険の役目も果たしています。

好物のアワビやウニが減ると、ラッコはカニや二枚貝、殻の硬い小さな巻き貝を食べるようになります。研究チームは、殻の硬い獲物に頼るほど、道具の大切さが増すと説明しています。道具には石のほか、貝殻やごみも使われます。

研究の舞台になったカリフォルニアのラッコは、いま約3000頭です。1700〜1800年代の毛皮猟で激減し、1938年にビッグサーの近くで生き残りの約50頭が見つかりました。いまのカリフォルニアのラッコは、その子孫です。ウニを食べてケルプの森が食べ尽くされるのを防ぐため、まわりの生き物に大きな影響を与える「キーストーン種」と呼ばれています。

よくある誤解

「お気に入りの石を一生持ち歩く」という話はよく聞きます。ただ、確認されているのは「脇の下の皮膚に獲物や石をしまう」というところまでです。1つの石を生涯使い続けるという記録は、今回調べた資料には見当たりませんでした。

「手をつないで眠る」姿も有名です。広く知られるきっかけは、2007年にカナダのバンクーバー水族館で撮られた映像で、2か月で600万回以上再生されました。ただ、野生のラッコが流されないための工夫として知られるのは別の2つです。ケルプ(大型の海藻)に体を巻きつけることと、「ラフト」と呼ばれる群れで固まって休むことです。手をつなぐのは、あくまで見られることがある行動の1つで、毎晩の習慣として語るのは言いすぎです。

日本で会えるラッコ

日本の水族館のラッコは、ここ30年で大きく減りました。国内で初めてラッコが飼育されたのは1982年、静岡県の伊豆・三津シーパラダイスです。その後、各地の水族館に広がりました。ピークの1994年には、28施設で122頭が飼育されていました。2025年1月に福岡のマリンワールド海の中道のオス「リロ」が死に、国内に残るのは三重県の鳥羽水族館のメス2頭、メイとキラだけになりました(2025年時点の報道)。絶滅のおそれがある動物なので、新しく海外から迎えるのも難しい状況です。

一方で、野生のラッコに会える場所もあります。北海道東部の浜中町にある霧多布岬では、野生のラッコが定住して子を産んでいます。地元のNPOによると、1頭の母親が2018年から8頭の子を産みました。

ラッコの暮らしや、日本の野生ラッコを見守る人たちの取り組みは、写真と一緒に追うほうが伝わりやすい話です。水族館で会えるうちに予習しておきたいなら、ラッコだけを扱った本が役に立ちます。

よくある疑問

石がないときは、どうやって貝を割るのですか?
石の代わりに、空の貝殻や流木、捨てられたガラス瓶などを使うことがあります。道具を使わず、歯で直接かみ割る個体もいます。2024年の研究では、道具をあまり使わない個体ほど歯の傷みが目立ちました。
アラスカのラッコは、なぜあまり道具を使わないのですか?
潜水のうち道具を使う割合は、アラスカのアムチトカ島で1%、カリフォルニアのモントレーで16%でした。北太平洋のラッコはウニや魚を多く食べるため、道具をあまり使わないと説明されています。ウニはかみ砕けますが、硬い二枚貝や巻き貝は道具なしでは割りにくい獲物です。

まとめ

ラッコは胸の上の石を台にしたり、石を金づちにしたりして、硬い貝を割ります。野生で石をたたく道具として使う動物のうち、サルの仲間以外ではただ1種です。脂肪がなく、1日に体重の4分の1を食べる必要があるラッコにとって、道具は食事の効率を上げる手段です。同時に、歯を守る役目も果たしています。

鳥羽水族館や動画でラッコを見かけたら、胸の上の石と、打ちつける回数を数えてみてください。ムール貝1個に35回前後。その数字に、寒い海で生き抜くための工夫が詰まっています。

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