クラゲに脳も心臓もないって知っていますか?
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クラゲの体は、およそ95%が水です。アメリカ海洋大気庁(NOAA)によれば、固形の部分は全体の5%ほどしかありません。そのうえ脳も心臓も血液もありません。
それでもクラゲは、体じゅうに広がる神経の網で光やにおいを感じ、泳いで獲物を捕らえます。目を24個持つ種類や、夜に眠るように休む種類までいます。脳のない体でどう暮らしているのか、浮かびやすい疑問を順に取り上げます。
クラゲの体は、なぜ95%も水なの?
体のほとんどが、水を含んだゼリーでできているからです。NOAAの説明では、クラゲの体は3つの層でできています。外側の表皮、内側の胃の壁(胃層)、そしてその間にある厚く弾力のあるゼリー状の層です。この真ん中の層を「メソグレア(中膠)」と呼び、体の厚みの大部分を占めます。
骨も殻もないので、水の外に出すと形を保てません。NOAAは、水から上げたクラゲを「ずっと面白みのないかたまり」と表現しています。水の浮力に支えられて、初めてあの形になるわけです。重さ100gのクラゲなら、水を除いた部分は5gほどにすぎません。
消化のしくみも簡単です。体の中の空洞が胃と腸を兼ね、口と肛門の区別もありません。1つの穴から食べ物を入れ、同じ穴から残りを出します。クラゲはイソギンチャクやサンゴと同じ刺胞動物の仲間で、体は中心から放射状に広がっています。
脳がないのに、どうやって動いているの?
脳の代わりに、「神経網」と呼ばれる神経の網を使っています。神経の細胞が体に網の目のように広がり、司令塔を通さずに、刺激を受けた場所の近くで反応を起こします。NOAAによると、クラゲはこの単純な神経系で、においや光を感じ取ります。ほかの刺激にも応じられます。
体が放射状なのも、この仕組みと相性がよい点です。前も後ろもない体なので、どの方向から来た獲物や危険にも、同じように気づけます。傘を縮めては広げる動きをくり返し、水を押し出して進みます。
目はあるの?
ある種類がいます。ハコクラゲの仲間のトリペダリア・キストフォラは、24個の目を持っています。傘のふちに「ロパリウム」と呼ばれる感覚器が4つあり、それぞれに6個ずつ目が付いています。
6個の内訳は、レンズのある目が上下に1個ずつです。残りはレンズのないくぼみ型の目が1対と、すき間型の目が1対になります。2011年に「Journal of Experimental Biology」に載った研究は、この目が泳ぎ方をどう変えるかを調べました。
実験では、クラゲを4枚のLEDパネルで囲み、1枚だけ消して暗い方向を作りました。するとクラゲは傘を打つ回数を、1秒に約1.5回から約2.3回に増やしました。さらに暗い側の傘の収縮を遅らせ、暗がりから離れる向きに体を傾けたのです。脳がなくても、目からの情報で泳ぐ向きを決めていることになります。
心臓がないのに、息はどうしているの?
体の表面から、海水に溶けた酸素を直接取り込んでいます。クラゲの研究者レベッカ・ヘルムは、科学ニュースサイトのライブサイエンスでこう説明しています。体内の空洞が、食べ物の消化と、酸素や二酸化炭素を行き渡らせる役を兼ねているのです。
心臓が要らないのは、クラゲの体で生きた細胞が外側と内側の2つの層だけだからです。海洋科学者のジュリ・バーウォルドによると、クラゲの内側は細胞のないゼリーです。そのため体の中まで組織が詰まった動物ほど、酸素を必要としません。
ただし、しみ込ませるだけの方式は、血液で運ぶよりずっと遅いという弱点があります。バーウォルドは、そのためにクラゲが大きくなれる限界があるのだろうと話しています。
この「表面からしみ込ませる」方式は、生き物の呼吸の中でもとても古いやり方です。同じ記事によると、酸素を使う最初期の微生物も、拡散で酸素を取り込んでいました。この方式が現れたのは、約28億年前と考えられています。
| ないもの | 代わりの仕組み |
|---|---|
| 脳 | 体に広がる神経網が、その場で刺激に反応する |
| 心臓・血液 | 体の表面と体内の空洞から、酸素がしみ込む |
| 骨・殻 | 水の浮力と、ゼリー状のメソグレアで形を保つ |
| 胃と腸の区別 | 1つの空洞が消化をすべて受け持つ |
脳がないのに眠るの?
眠りに近い状態になる種類がいます。2017年9月、カリフォルニア工科大学のチームが、サカサクラゲの仲間カシオペアの研究を学術誌「Current Biology」に発表しました。
カシオペアは昼間、平均で1秒に1回ほど傘を打ちます。ところが夜になると、この回数がおよそ3分の1減りました。夜に体を持ち上げて動かすと、泳ぎ出して姿勢を立て直すまでに、昼より時間がかかりました。さらに、夜に水流を当てて休ませなかった翌日は、活動量が17%落ちました。
活動が減る、刺激への反応が鈍る、休めなかった分を取り戻そうとする。研究チームは、3つの条件がそろうことから「眠りに似た状態」だと結論づけました。脳を持たない動物で眠りに似た状態が確かめられたことで、眠りの起源は脳の誕生より古い可能性が出てきました。
「不老不死のクラゲ」は本当にいるの?
若返るクラゲなら本当にいます。ベニクラゲの仲間ツリトプシス・ドールニーは、傘の直径が最大で約4.5mmの小さなクラゲです。太平洋で生まれ、船のバラスト水などに乗って、いまでは世界中の温かい海に広がったとみられています。ふつうクラゲは、海底にくっつくポリプという姿から、泳ぐクラゲの姿へ育ちます。ところがこの種は飢えや急な水温の変化、傷などをきっかけに、クラゲの姿からポリプへ戻れます。
戻るときには、体の細胞が別の種類の細胞へ作り変わります。京都大学の久保田信さんは、飼っていた群れが2年のあいだに11回若返ったと報告しました。2022年には、この種の遺伝子を若返らない近縁種と比べた研究も、学術誌「PNAS」に載っています。
とはいえ、死なないわけではありません。自然の海では、多くが若返る前に食べられたり病気になったりして死ぬと考えられています。野生で若返る様子は、まだ観察されていません。
クラゲはいつから海にいるの?
5億年以上前からです。2023年8月、カナダのロイヤル・オンタリオ博物館などの研究者が、学術誌「英国王立協会紀要B」でバージェス頁岩の化石から「バージェソメドゥーサ・ファスミフォルミス」を発表しました。泳ぐクラゲとしては、知られている中で最古の種です。
博物館には200点近い標本があり、大きなものは長さ20cmを超えます。釣り鐘形の体を持ち、泳いでかなり大きな獲物を捕らえていたとみられています。脳も心臓もない体の基本は、このころにはもうできあがっていたのです。
いまの日本の海にも、さまざまなクラゲが暮らしています。海辺や水族館で見かけた種類を写真で見分けたいときは、日本のクラゲをまとめた図鑑のほうが詳しく調べられます。
まとめ
クラゲの体は約95%が水で、脳も心臓も血液もありません。神経網で刺激に応じ、酸素は体の表面からしみ込ませています。それでも24個の目で泳ぐ向きを決める種類や、夜に眠るように休む種類、ポリプへ若返る種類までいます。
次に水族館へ行ったら、傘のふちを見てみてください。小さな粒のように並んでいるのが、光や傾きを感じ取る感覚器です。脳のない体が5億年続いてきた理由の一端が、そこにあります。
参考にした資料
- NOAA National Ocean Service — What are jellyfish made of?
- Journal of Experimental Biology — Visual control of steering in the box jellyfish Tripedalia cystophora
- Phys.org — Researchers identify oldest known species of swimming jellyfish
- Scientific American — Jellyfish Caught Snoozing Give Clues to Origin of Sleep
- Live Science — How Do Animals Breathe Underwater?
- Wikipedia(英語版) — Turritopsis dohrnii