効かない薬でも効いてしまう?プラシーボ効果のふしぎ
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成分の入っていない薬でも、「効く」と思って飲むと、痛みなどの感じ方が変わることがあります。これがプラシーボ効果です。ただし偽薬でコレステロール値が下がったり、腫瘍が縮んだりはしません。効く範囲は限られています。
しかも「飲んだら良くなった」の中には、偽薬の力ではない部分もたくさん混ざっています。この記事では、その中身をどう見分けるか、そして期待の力を家で安全に確かめる方法を紹介します。
「効いた」に混ざっている4つのもの
プラシーボという言葉は、ラテン語で「私は喜ばせるだろう」という意味です。18世紀の終わりには医療の場で使われ始め、1811年の辞書では「患者のためになるより、喜ばせるための薬」と説明されていました。
偽薬を飲んで症状が軽くなったとき、その全部がプラシーボ効果とは限りません。少なくとも、次の4つが重なっています。
| 中身 | どういうことか | 偽薬がなくても起きるか |
|---|---|---|
| 自然な経過 | かぜのように、放っておいても治っていく | 起きる |
| 平均への回帰 | いちばんつらい時に受診するので、次に測ると平均に近づいて軽く見える | 起きる |
| 期待と条件づけ | 「良くなる」という思いや、過去に薬で楽になった経験が、感じ方を変える | 起きない(これがプラシーボ効果) |
| 成分の働き | 本物の薬に入っている物質による効き目 | 起きない(偽薬には無い) |
期待と条件づけの部分について、米国立衛生研究所(NIH)のサイトで公開されている医学解説書スタットパールズは、ドーパミンやオピオイドなど、脳内の複数の伝達物質が関わるとしています。
表の上の2行は、見落とされやすい部分です。1955年、ヘンリー・ビーチャーは論文「強力なプラシーボ」で、偽薬の力が大きいと主張しました。この論文は、偽薬と比べる試験が広まるきっかけになっています。ところが1997年に元のデータを調べ直した研究は、平均への回帰が考慮されておらず、プラシーボ効果の証拠は見つからなかったと結論しました。
偽薬と比べて確かめるしくみ
薬が本当に効いたかどうかは、「飲んだら治ったか」だけでは分かりません。表の4つを切り分けるために、新薬の試験は次のような手順で組み立てられます。
- 参加者を、くじ引きのような方法で2つ以上の組に分けます(ランダム化)。年齢や重さの偏りを、組の間でならすためです。
- 片方には本物の薬、もう片方には見た目も味も同じ偽薬を渡します。
- どちらを渡したかを、参加者にも、診察する医師にも知らせません(二重盲検)。期待が評価に入り込むのを防ぎます。
- 決めた期間のあと、両方の組の症状を比べます。偽薬の組よりはっきり良い結果が出て、はじめて「成分が効いた」と言えます。
この方法でも、自然な経過とプラシーボ効果は区別できません。そこで、何も渡さない「無治療」の組を加える研究があります。2001年に米国の医学誌NEJMに載った研究は、偽薬と無治療を比べた114件の試験を分析しました。死亡や回復のような「はい・いいえ」で数える結果では、偽薬の効果は見られませんでした。差が見られたのは、本人が感じ方を答える結果、特に慢性の痛みでした。
期待の力を家で確かめる
薬を使わなくても、期待が感じ方を変える様子は確かめられます。手本は、2008年に米国のカリフォルニア工科大学とスタンフォード大学が発表した実験です。20人にワインを飲んでもらい、実際は3種類のワインを、値札を変えて5種類として出しました。90ドルのワインは10ドルの値札でも出され、5ドルのワインは45ドルの値札でも出されました。
参加者は、値札が高いワインほど美味しいと答えました。脳の画像でも、心地よさにかかわる部分(内側眼窩前頭皮質)の活動が高まっていました。値札なしで飲み比べた別の機会には、5ドルのワインがいちばん高く評価されています。家では、ワインの代わりにお茶やジュースで試せます。
- 同じ種類の飲み物(たとえば同じペットボトルのお茶)を、2つのコップに同じ量ずつ注ぎます。
- 片方に「高級品」、もう片方に「特売品」と書いた紙を置きます。中身は同じだと、飲む人には伝えません。
- 家族に両方を飲んでもらい、どちらが美味しいか、10点満点で点数を付けてもらいます。
- 次に紙を外し、どちらがどちらか分からない状態で、もう一度点数を付けてもらいます。
- 2回の点数を並べます。最後に、中身が同じだったことを忘れずに伝えます。
1回目で「高級品」に高い点が付き、2回目で差が縮めば、ラベルへの期待が味の感じ方を動かしていたことになります。人数が少ないと偶然の差も出るので、何人かで試すと傾向が見やすくなります。
偽薬だと知らせても効くのか
「だまさないと効かない」。長年の通説でしたが、2021年に医学誌ペインで報告された臨床試験が、その前提を揺さぶりました。ハーバード大学系列のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターなどが、過敏性腸症候群の患者262人を対象に、6週間かけて行ったものです。
参加者は3つの組に分けられました。偽薬だと正直に伝えて渡す組、本物の薬か偽薬か分からない形で渡す組、何も渡さない組です。偽薬だと知って飲んだ組は、何も飲まない組より症状の改善が大きくなりました。分からない形で渡した組とは、はっきりした差がありませんでした。
片頭痛でも、似た報告があります。ハーバード大学医学部の解説によると、「偽薬」と書いた錠剤は、発作後の痛みを和らげる点で本物の薬の50%ほどの効果を示しました。どちらも、効き目が出たのは痛みや不快感といった、脳が感じ方を調整する症状です。病気そのものを治す話ではありません。
逆向きに働くノセボ効果
期待は悪いほうにも働きます。「副作用が出るかもしれない」と構えて飲むと、成分とは関係なく、だるさや痛みを感じることがあります。これがノセボ効果で、名前はラテン語のnocere(害する)から来ています。
2020年、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが、この点を確かめる試験の結果を発表しました。参加したのは、副作用を理由にコレステロールの薬(スタチン)をやめた60人です。1人ずつ12か月分のボトルを受け取りました。中身は本物の薬が4か月分、偽薬が4か月分、残り4か月分は空です。どの月が何かは本人に知らされません。
結果、本物の薬の月に報告された症状の約90%は、偽薬の月にも報告されていました。研究チームは症状は本物だとしたうえで、主に錠剤を飲むという行為が引き起こしていた、と説明しています。
偽薬の組と比べて確かめる考え方は、統計の言葉で整理すると見通しが良くなります。「その薬は本当に効いたのか」を数字で考える手順は、医療統計の入門書が対話形式で丁寧に追っています。
よくある疑問
- プラシーボ効果は、ただの気のせいですか?
- 感じ方の変化は、脳の働きにも表れています。ハーバード大学医学部の解説が紹介する研究では、ひざの慢性の痛みがある人の脳を調べました。偽薬で痛みが和らいだ人ほど、中前頭回という部分の活動が高まっていました。ただし、変わるのは痛みなどの感じ方で、数値で測る病気の状態ではありません。
まとめ
プラシーボ効果は、期待や過去の経験によって、痛みなどの感じ方が変わる現象です。「飲んだら良くなった」には、自然な経過や平均への回帰も混ざっています。そのため薬の効き目は、くじ引きで分けた組と偽薬で比べて確かめます。偽薬だと知らせても効いた試験がある一方、偽薬の月にも本物と同じ程度の副作用が出た試験もあります。
週末にでも、家族でお茶の「高級品」と「特売品」を飲み比べてみてください。ラベル1枚で、自分の舌がどれだけ動かされるかが分かります。
参考にした資料
- Harvard Health Publishing — The power of the placebo effect
- StatPearls (NCBI Bookshelf) — Placebo Effect
- Beth Israel Deaconess Medical Center — Open-Label (Honest) Placebo Works as Well as Double-Blind Placebo in Irritable Bowel Syndrome
- Wikipedia — Placebo(語源・1811年の定義・ビーチャー論文の再検証)
- American Family Physician — Is the Placebo Powerless?(Hróbjartsson & Gøtzsche 2001 の要約)
- Medical News Today — Wine Tastes Better When You Think It's More Expensive(Caltech・Stanford の研究)
- British Heart Foundation — No difference in side effects with a statin or dummy pill(SAMSON試験)