食べ物

果物は熟すとなぜ甘くなる?でんぷんの変身

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
果物は熟すとなぜ甘くなる?でんぷんの変身

※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先のショップで購入・申し込みをされると、紹介料が入ることがあります。

果物が熟して甘くなるのは、実に蓄えたデンプンが糖に変わるからです。青いバナナでは、デンプン約20%・糖約1.5%だった中身が、熟すとほぼ逆の割合に入れ替わります。変化のスイッチを入れるのは、果物自身が出すエチレンという気体です。

ただし、収穫後に甘くなるのは一部の果物だけです。イチゴやブドウは、待っても甘さが増えません。実が軟らかくなった変化を、甘さが増えたと錯覚する、という落とし穴もあります。

バナナの中身は数日で入れ替わる

日本植物生理学会の解説によると、緑色のバナナは果肉に20〜25%のデンプンを蓄えています。熟していくと、デンプンは約20%から約2%まで減り、糖は約1.5%から約20%まで増えます。2つの数字が、ほぼそっくり入れ替わる形です。

デンプンは、ブドウ糖が数多く結合した大きな分子です。大きすぎて舌の甘味センサーには反応しません。酵素がつながりを切ってショ糖やブドウ糖、果糖といった小さな糖に分けると、はじめて甘く感じられます。かたくて甘くないバナナが、数日で軟らかく甘くなる理由がここにあります。

糖の中身も途中で変わります。同じ解説によると、バナナの果肉にはショ糖・ブドウ糖・果糖が含まれ、熟し終わる頃にはショ糖の大部分がさらに分解されています。熟したバナナの甘さは、主にブドウ糖と果糖の甘さです。

デンプンを溜めておく作りには、運ぶ側の都合にも合う利点があります。青いうちに収穫しても、甘さの材料は実の中にすでに入っています。だからバナナや洋ナシは、かたく傷みにくいうちに収穫して運び、店や家庭で食べごろを迎えさせることができます。

スイッチを入れるのはエチレン

デンプンは、ひとりでに糖へ変わるわけではありません。合図を出すのが、植物ホルモンの一つ、エチレンです。

イミダス(集英社)の解説によると、熟すときに追熟が進む型の果実では、エチレンの発生量が1000倍以上に増えます。すると果実の呼吸量は2〜5倍になり、色・香り・軟らかさ・甘さが短い期間に一気に変わります。甘さが頂点を迎えたあとは、風味が急に落ちていきます。

エチレンの働きは、果物の研究より先に街の中で気付かれました。19世紀、ガス灯のガスが漏れる場所の近くでは、木が弱って葉を落とすことが記録されています。1924年にはアメリカのデニーが、柑橘の皮の緑色を抜くために使っていた灯油の煙から、ごく少量で熟すのを進める成分としてエチレンを突き止めました。果物が自分でエチレンを作っている化学的な証拠を、熟したリンゴのガスを集めて示したのは、イギリスのゲインです。1934年のことでした。

待てば甘くなる果物、ならない果物

すべての果物が追熟するわけではありません。エチレンの出し方で、大きく2つの型に分かれます。

追熟する果物としない果物(イミダス・秋田県の資料をもとに作成)
型主な果物収穫したあと
クライマクテリック型バナナ、リンゴ、洋ナシ、桃、トマト、アボカドエチレンが急に増え、置くと食べごろに近づく
非クライマクテリック型ミカン、ブドウ、イチゴ、サクランボエチレンをほとんど出さず、甘さは増えない

非クライマクテリック型は、デンプンをほとんど溜めていません。甘さの材料が実の中に残っていないので、収穫した時点の甘さが上限です。木の上で熟してから収穫し、早めに食べるのが向いています。

エチレンは気体なので、隣の果物にも届きます。秋田県の資料は、かたいキウイフルーツをリンゴと一緒にビニール袋に入れ、少し暖かい所に置くと追熟が早く進む、と紹介しています。キウイは20℃くらいで追熟すると、酸が抜けて糖度が上がり、香りも出ます。熟しても皮の色が変わらないので、少し軟らかくなった頃に1個食べて確かめるのが確実です。

秋田県の資料は、追熟が必要な果物として洋ナシ・バナナ・キウイ・マンゴー・アボカドを挙げています。こうした果物は、木につけたままでは、追熟後のような軟らかさや味が出ません。木の上で完成するのではなく、収穫後に置く日数まで含めて「熟す」果物です。西洋ナシ独特のとろける食感や甘い香りも、追熟を経て初めて生まれます。

同じ資料によると、洋ナシは品種によって室温15〜20℃で10〜30日ほど置くと食べごろになります。ラ・フランスは熟しても色がほとんど変わらないため、軽く押して少し軟らかさを感じた頃が目安です。

よくある誤解:軟らかい=甘くなった、ではない

追熟といえば「甘くなること」と思いがちですが、甘さの数字が変わらない果物もあります。

北海道大学の学位論文は、北海道で育てられているメロンの追熟を調べました。食べた人の評価では、追熟するほど「甘くなった」とされました。ところが果肉の糖度(Brix値)は、どの品種でも変わらないか、むしろ少しずつ下がっていました。甘さの成分の組み合わせにも大きな変化はありません。

論文は、果肉の軟化によって甘さの感じ方が変わったと結論づけています。収穫から追熟後までの軟化は、糖度が約3%上がったのと同じくらいの効き目があったそうです。舌が感じる甘さは、糖の量だけで決まるわけではありません。

アボカドもクライマクテリック型で、置けば軟らかくなります。ただし、甘さを楽しむ果物ではありません。「追熟する」と「甘くなる」は、分けて考えたほうが正確です。

甘さを数字で確かめる道具

メロンの例のように、舌の感じ方と糖の量はずれることがあります。数字で確かめたいときに使えるのが糖度計です。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。

糖度計:FieldNew 屈折式糖度計(Brix 0〜32%・校正液付き) 約2,680円。果汁を数滴たらしてのぞくと、目盛りでBrix値が読める手持ちの屈折計です。電池は使いません。
向いている人:青いバナナを毎日1切れずつ測って、糖度の上がり方を記録したい人。夏休みの自由研究にも使えます。同じ房のバナナを2日おきに1本ずつ測ると、数字の伸び方と皮の色の変わり方を並べて記録できます。注意:測るたびに果汁をしぼるので、実の一部を使います。Brixは本来「溶けている物の濃さ」を示す値で、糖以外の成分も少し含みます。

Brixは、100グラムの液に1グラムのショ糖が溶けている状態を1度とする単位です。果汁のように溶けている物の大半が糖なら、糖度の目安としてそのまま使えます。

自分でやるのが大変なら 果物や野菜を宅配で取り寄せてみたい人向けに、オイシックスには初回限定のおためしセットがあります。
オイシックスのおためしセットを見る

よくある疑問

バナナの黒い斑点は、甘くなった印ですか?
斑点そのものは糖ではありません。日本植物生理学会の解説によると、皮の細胞が老化して液胞が破れ、ポリフェノールが酵素で酸化されて茶色くなったものです。果肉の熟度と皮の褐変に直接の関係はなく、斑点が出る前の段階で糖はすでに約20%に達しています。
買ってきたイチゴを置いておくと、甘く感じる理由は何ですか?
イミダスの解説では、収穫後に酵素が細胞の壁を軟らかくし、香りの成分を作るためとされています。追熟とは別の変化で、糖が増えたわけではありません。

まとめ

果物が熟して甘くなるのは、エチレンの合図で、蓄えていたデンプンが糖に分解されるからです。バナナでは約20%のデンプンが約2%まで減り、糖が約20%まで増えます。デンプンを溜めないイチゴやブドウは、収穫後に甘さが増えません。

かたいキウイや洋ナシを買ったら、リンゴと一緒に袋に入れて室温で待ってみてください。食べごろは色ではなく、軟らかさと1個の試食で見極めます。

← 記事一覧へ戻る