ミントはなぜ口がひんやりする?脳の勘違いのしくみ
※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先の楽天市場で購入されると、紹介料が入ることがあります。
ミントのひんやり感は、口の温度が下がって起きるのではありません。ミントの成分メントールが、冷たさを感じ取る神経のセンサー「TRPM8」を直接開き、脳に「冷たい」と伝えさせているからです。
このセンサーは2002年に見つかり、関連する研究は2021年のノーベル生理学・医学賞に選ばれました。この記事では仕組みとよくある誤解を整理し、ハッカ油やミントのタブレットでひんやりを試すときの注意と道具を紹介します。
ひんやりの正体は、冷たさセンサー「TRPM8」
口や皮膚の神経の先には、温度を感じ取るタンパク質のセンサーが並んでいます。冷たさを受け持つのがTRPM8です。温度が下がると開き、神経に電気の信号を流して「冷たい」と脳へ伝えます。
見つけたのは、アメリカの2つの研究チームです。2002年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデビッド・ジュリアスさんのチームと、アーデム・パタプティアンさんのチームがそれぞれ別々に報告しました。どちらも「メントールが結び付く相手を探せば、冷たさのセンサーが見つかる」という発想で探しています。
ジュリアスさんのチームは、顔の感覚を受け持つ三叉神経の細胞を使って調べました。メントールと冷たさに反応したのは一部の小さな神経細胞で、両方に反応する細胞はほぼ重なっていました。その5割あまり(54.5%)は、トウガラシの辛み成分カプサイシンにも反応しています。
同じ論文によると、このセンサーは8〜28度の範囲の冷たさで開きました。岡崎統合バイオサイエンスセンターの研究者がまとめた温度生物学ハンドブックは、痛くない程度の冷たさ、23〜26度以下で開くと説明しています。
ノーベル財団の解説によると、人やマウスが痛くない冷たさを感じ始めるのは皮膚の温度がおよそ28度を下回ったあたりで、0.5度の変化も感じ分けられます。TRPM8の遺伝子をなくしたマウスは、こうした冷たさをうまく感じられなくなりました。
冷たさのセンサーは、温かさの感じ方にも関わっています。同じ解説によると、温かいと確かに感じるには、温かさのセンサーが働くだけでは足りません。TRPM8を持つ冷たさの神経の働きが、同時に抑えられる必要があります。ジュリアスさんと、2010年に触覚のセンサーPIEZOも見つけたパタプティアンさんの2人が、2021年のノーベル賞を受けました。
メントールは、センサーの「境目」を動かす
メントールは、TRPM8に結び付いてスイッチを開きます。温度は変わっていないのに、冷たさのセンサーだけが「冷たい」と報告する状態です。脳は届いた信号のとおりに判断するので、口の中が冷えたと感じます。
働きはそれだけではありません。メントールがあると、センサーが開き始める温度の境目が、高い側へずれます。温度生物学ハンドブックは、メントールなどがあると「より常温に近い温度で開く」と書いています。
ミントのガムをかんだあとに息を吸うと、いつもと同じ室温の空気がはっきり冷たく感じられます。境目が上がったぶん、ふだんなら何とも思わない温度でもセンサーが反応するからです。
この仕組みを最初に予想したのは、生理学者のヘンゼルとゾッターマンです。2人は1951年、メントールが顔の神経の冷たさへの反応を強め、反応し始める温度を暖かい側へずらすと報告しました。冷たさを伝える専用のタンパク質があるはずだ、という予想が確かめられたのは、約50年後の2002年です。
よくある誤解:ひんやりする=冷えている
メントールは、物の温度を下げる成分ではありません。センサーを化学的に開いて、冷たいという感覚だけを作ります。ミントで涼しく感じても、温度計で測れる冷たさとは別物です。
同じ「勘違い」は熱さの側でも起きます。トウガラシの辛み成分カプサイシンが開くのは、熱を感じるセンサーTRPV1です。ジュリアスさんのチームが1997年に見つけ、43度を超える熱で開くことを確かめました。本当は熱くないのに口が燃えるように感じるのは、このためです。
| センサー | 反応する温度 | 反応する身近な成分 | 発見 |
|---|---|---|---|
| TRPM8 | 約8〜28度の涼しさ・冷たさ | メントール(ミント・ハッカ) | 2002年 |
| TRPV1 | 約43度を超える熱 | カプサイシン(トウガラシ) | 1997年 |
| TRPA1 | 動物の種類によって冷たさや熱にも | わさび・からし・シナモン・にんにく・しょうが | 2004年 |
辛さやひんやり感は、舌の味覚ではなく、温度や痛みを伝える神経の感覚です。わさびの「ツン」とくる辛さには、TRPA1という別のセンサーが関わっています。
ハッカ油でひんやりを試すときの注意
ハッカ油は、ハッカから取った油で、メントールを多く含みます。健栄製薬のハッカ油は、メントールが30%以上です。濃い液なので、ガムやタブレットと同じ感覚で扱うと刺激が強すぎます。メーカーの使用上の注意から、守りたい点をまとめます。
- 原液をそのまま皮膚に使わない
- 目や目の周り、粘膜に付けない
- 燃えやすいので、火の近くで使わない。使うときは換気する
- 一度に大量に使わない。においで気分が悪くなったら、すぐにやめる
- 床や家具、大理石などは、材質によって変色するおそれがある
メーカーは用途に応じて薄めて使うよう案内していて、薄め方は用途ごとに違います。体に使う場合は、皮膚の状態や体質に不安があれば医師に相談してください。メントールに温度を下げる働きはないので、暑い日に体を冷やす手段とは分けて考えてください。
ひんやりを試せる道具
ハッカ油と、手軽なミントのタブレットを1点ずつ選びました。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。
ハッカ油:健栄製薬 ハッカ油P(20ml) 約750円。1滴ずつ落とせる滴下式で、メーカーは香り付けやお風呂、部屋の芳香などの用途を挙げています。
向いている人:少量ずつ薄めて使い分けたい人。向かない人:薄めずに肌へ直接付けたい人(原液を皮膚に使わないよう注意書きがあります)。小さな子どもの手の届かない所に保管します。
ミントのタブレット:アサヒグループ食品 ミンティア ブリーズ リフレッシュブルー 30粒×8個 約1,780円。持ち歩けるミント味のタブレットのまとめ買いです。
向いている人:上の「ガムのあとに息を吸う」を、手軽に確かめてみたい人。注意:甘味料などの原材料や注意書きは、商品ページとパッケージで確かめてください。
よくある疑問
- ハッカ油は料理や飲み物にも使えますか?
- 香り付けの用途が表示されているハッカ油なら使えます。健栄製薬は、紅茶やリキュールの香り付けに使う場合、ようじの先がぬれた程度の量から試すよう案内しています。1滴でもかなり強く香るので、入れすぎに注意してください。
- ミントのあとに冷たい水を飲むと、いつもより冷たく感じるのはなぜ?
- メントールでTRPM8の境目が暖かい側へずれているからです。センサーが普段より反応しやすい状態で本物の冷たさが加わるので、冷たさを強く感じやすくなります。空気でも水でも、温度そのものは変わっていません。
まとめ
ミントのひんやり感は、メントールが冷たさのセンサーTRPM8を直接開くことで生まれる感覚です。温度は下がっていません。1951年に予想され、2002年にセンサーが見つかり、2021年のノーベル賞につながりました。
ハッカ油を使うなら、薄めて少量から始め、目や粘膜に付けないことを守ってください。次にミントのガムをかんだら、かみ終えたあとに大きく息を吸ってみてください。その涼しさは、口の中ではなく、センサーと脳の中で作られています。
参考にした資料
- NCBI Bookshelf — TRPM8: The Cold and Menthol Receptor
- NobelPrize.org — The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2021 プレスリリース
- PMC — Hot to touch: the story of the 2021 Nobel Prize in Physiology or Medicine
- McKemy, Neuhausser & Julius — Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation(Nature, 2002)
- 温度生物学ハンドブック — TRPM8(鈴木喜郎・岡崎統合バイオサイエンスセンター)
- NobelPrize.org — Scientific Background: Discoveries of receptors for temperature and touch(2021)
- 健栄製薬 — ハッカ油(組成・使用上の注意)