悪魔の仮面で町を練り歩く、ボリビアの祈りの踊り
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ボリビアのオルロでは、悪魔の仮面をかぶった2万8千人以上が町を踊り歩きます。ディアブラーダと呼ばれるこの踊りは、大天使ミカエルが悪魔を打ち負かす物語を演じるものです。
悪魔の踊りはボリビアだけのものではありません。隣のペルーにもよく似た踊りがあり、日本の「なまはげ」も、恐ろしい仮面で人々の前に現れます。この記事では、似たものと並べながら、オルロの悪魔の正体を見ていきます。
4キロの道を20時間踊る祭り
オルロは標高およそ3,700メートルの高地にある鉱山町です。ユネスコによると、カーニバルは10日間続きます。中心となる入場行列「エントラーダ」では、4キロの道のりを約20時間、途切れることなく踊り進みます。
参加するのは2万8千人を超える踊り手と1万人の楽師で、およそ50の団体に分かれています。行列が向かう先は、ソカボンの聖母をまつる聖堂です。ソカボンは坑道を指す言葉で、「坑道の聖母」という意味になります。
祭りは2001年にユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作」に選ばれ、2008年に無形文化遺産の代表一覧表に載りました。沿道に集まる観客は約40万人とされ、行列では20種類ほどの踊りが続きます。その中でも主役はディアブラーダです。
ボリビアとペルー、2つの悪魔の踊り
ディアブラーダは、ボリビアとペルーの両方で踊られています。ペルー側の中心は、ティティカカ湖のほとりの町プーノです。毎年2月に開かれるカンデラリアの聖母の祭りで、悪魔の踊りが披露されます。この祭りも2014年に、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
ユネスコの資料では、2026年の祭りは2月1日から15日まで。踊りは2つのコンテストの形で披露され、地域から数千人の踊り手と楽師が集まります。踊り・音楽・仮面づくりの技は、3つの地域の連盟が協力して受け継いでいます。
| オルロ(ボリビア) | プーノ(ペルー) | |
|---|---|---|
| 祭り | カーニバル(10日間) | カンデラリアの聖母の祭り(2月) |
| ユネスコ登録 | 2001年に傑作宣言、2008年に代表一覧表 | 2014年に代表一覧表 |
| 規模 | 踊り手2万8千人超・楽師1万人 | 数千人規模の踊り手と楽師 |
| 主な担い手 | 鉱山町の住民と踊りの団体 | ケチュア人とアイマラ人 |
| 最初の踊りの団体 | 1904年 | 1918年 |
どちらが本家かをめぐっては、両国の研究者の見方が分かれています。ボリビア側は、先住民ウル人の儀礼にさかのぼると主張します。ペルー側には、プーノのルパカ人のあいだで16世紀後半に始まった、とする説があります。
音楽と振り付けを定めた団体が生まれた年は、記録で比べられます。オルロでは1904年、ペドロ・パブロ・コラレスが「グラン・トラディシオナル・イ・アウテンティカ・ディアブラーダ・オルロ」を結成しました。ペルー側の最初の団体「ロス・バポリノス」は1918年です。踊りはその後、チリの祭りにも広がりました。
鉱山の神と聖母が重なるまで
なぜ悪魔が主役なのでしょうか。手がかりは、オルロが銀とスズを掘って栄えた鉱山町だという点にあります。
ボリビアの鉱山では、坑道の奥に「ティオ(おじさん)」と呼ばれる像が置かれてきました。ティオは地下の主で、鉱夫を守る存在です。鉱夫たちはコカの葉や酒、たばこを供えて、無事と鉱脈を願います。ティオの名は、スペイン語で神を意味する「ディオス」が変化した語だという説があります。悪魔に近いスパイ(Supay)と同じ存在とされることもあります。
オルロのカーニバルでルシファーを演じる踊り手は、このティオを表すと広く受け止められています。恐ろしい悪魔は、追い払う相手であると同時に、鉱山の富を握る相手でもあるのです。
ユネスコの説明では、踊りの元は先住民ウル人の祭りにあります。ウルの神ティウをたたえる「リャマ・リャマ」という踊りが、のちのディアブラーダです。17世紀、スペインの植民地当局はこうした儀礼を禁じました。それでも祭りは消えず、キリスト教の形を借りて続きます。2月2日の聖燭祭に合わせた行事になったのは、この経緯によります。
オルロでいちばん豊かな銀鉱の坑道に、聖母の絵が現れた——そんな言い伝えも残っています。年は1756年とされますが、確かめられる記録はありません。鉱山の神と坑道の聖母が、一つの聖堂で重なりました。
祭りのあとにも、アンデスの信仰は顔を出します。カーニバルの記録をまとめたWikipediaによると、人々は巡礼の1週間後に町の南の「ヘビ」と北の「ヒキガエル」、東の「アリ」を訪ねます。ヒキガエルの丘(ハンパトゥ・コリュ)などは、土地を守る神々に数えられています。聖母への祈りと、山や丘への祈りが、同じ祭りの中に並んでいるのです。
日本のなまはげと比べると
恐ろしい仮面の存在が人々の前に現れる行事は、日本にもあります。秋田県男鹿半島のなまはげです。男鹿市によると、大晦日の晩に集落の青年たちがなまはげに扮し、「泣く子はいねがー」と叫びながら家々を回ります。
| ディアブラーダ(ボリビア) | なまはげ(日本) | |
|---|---|---|
| 時期 | カーニバル(2〜3月ごろ) | 大晦日の晩 |
| 仮面の正体 | 悪魔(ルシファー、サタン、七つの大罪) | 来訪神 |
| 演じる人 | 踊りの団体に属する踊り手 | 各集落の青年 |
| 行う場所 | 町の大通りから聖堂へ | 集落の家々 |
| 物語の結末 | 大天使ミカエルが悪魔に勝つ | 家の主人がもてなし、なまはげは帰る |
| 文化財の登録 | 2008年 ユネスコ代表一覧表 | 1978年 国の重要無形民俗文化財/2018年 ユネスコ代表一覧表 |
いちばん大きな違いは、仮面の側が善か悪かです。なまはげは怠け心を戒め、病や災いを払い、山と海の恵みをもたらす神とされます。ユネスコは2018年、なまはげを含む10の行事を「来訪神:仮面・仮装の神々」として登録しました。鹿児島県の甑島のトシドンや悪石島のボゼ、沖縄県の宮古島のパーントゥも、その仲間です。どれも年の初めや季節の変わり目に、仮面や仮装をした神が人々を訪ねる行事です。
一方、ディアブラーダの悪魔は倒される役です。行列の先頭には、ルシファーとサタンが「チナ・スパイ」と呼ばれる女の悪魔たちを従えて現れます。踊りは中世ヨーロッパの神秘劇の形を残し、剣を持つ大天使ミカエルが善を、ルシファーとサタンが悪を受け持ちます。周りの小悪魔たちは傲慢・強欲・色欲・憤怒・暴食・嫉妬・怠惰という七つの大罪を演じ分け、最後は毎年ミカエルが勝ちます。
共通点もあります。どちらも仮面をかぶるのは地元の人で、恐ろしい姿を借りて共同体の願いを伝えています。なまはげは家族の無病息災を、オルロの踊り手は聖母への誓いを担っています。
いま残っているもの
ユネスコは、オルロのカーニバルが抱える課題も挙げています。伝統的な鉱業と農業の衰退や高原の砂漠化、人の流出、そして世代間の隔たりです。踊りを支えてきた鉱山町の暮らしそのものが、変わりつつあります。
それでも毎年、2万8千人を超える踊り手が仮面をかぶり、20時間かけて聖堂へ向かいます。オルロやプーノがアンデスのどんな土地にあり、人々がどう暮らしているのかを写真で見比べるなら、世界の国を紹介する図鑑が入り口として役に立ちます。
次にオルロの映像を見る機会があれば、仮面の種類に注目してみてください。どの悪魔がどの罪を演じているか、そして先頭で剣を掲げるミカエルがどこにいるかが見分けられると、20時間の行列が一つの劇として見えてきます。
参考にした資料