世界の屋根ヒマラヤが、かつて海の底だった証拠とは
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エベレストの山頂に立つ人は、かつて海の底だった岩の上に立っています。標高約8,600メートルから上の岩は石灰岩で、三葉虫やウミユリなど、海の生き物のかけらが含まれています。
ヒマラヤは、海の底に積もった地層が大陸の衝突で押し上げられてできた山脈です。山ができたあとに海が来たのではなく、海だった地面が山になりました。この記事では、その証拠と仕組みを問いの形で順に見ていきます。
エベレストの山頂の岩は、何でできているの?
山頂から標高約8,600メートルまでを占めるのは、「チョモランマ層」と呼ばれる地層です。中身はおもにオルドビス紀の石灰岩で、灰色から白っぽい色をしています。オルドビス紀は、およそ4億8500万年前から4億4400万年前までの時代です。
石灰岩は、貝殻や骨格に含まれる炭酸カルシウムが積み重なってできる岩です。山頂近くで採った石灰岩を調べると、三葉虫やウミユリ、貝形虫(カイミジンコの仲間)のかけらが見つかりました。三葉虫は、海にだけすんでいた節足動物です。ウミユリは名前に「ユリ」と付きますが植物ではなく、ウニやヒトデに近い動物で、今も深い海で暮らしています。どちらも、陸では生きられない生き物です。スイスの地質学者アウグスト・ガンサーは、この地層に目に見えないほど細かいウミユリのかけらがあると最初に報告した人です。
2019年には、エベレスト周辺のオルドビス紀中ごろの石灰岩が、暖かい海で生まれたと結論づけた研究も発表されています。登山ルートの難所「サードステップ」の足元には、厚さ約60メートルの「スロンボライト」の層もあります。浅い海で、シアノバクテリアという微生物が泥をまとめて作った岩です。
化石を含む石灰岩そのものは、珍しい岩ではありません。珍しいのは、それが地球でいちばん高い場所にあることです。国際地質科学連合(IUGS)は2022年10月、エベレストのオルドビス紀の岩を「地球でいちばん高いところにある岩」として、世界の地質遺産100選に加えました。
山頂から下へ、岩はどう重なっているの?
エベレストは、性質の違う地層が積み重なった山です。上ほど新しく、下ほど古い地層が並んでいます。
| 標高 | 地層 | おもな岩 | 海の名残 |
|---|---|---|---|
| 約8,600m〜山頂 | チョモランマ層 | オルドビス紀の石灰岩 | 三葉虫・ウミユリ・貝形虫のかけら |
| 8,200〜8,600m | イエローバンド | カンブリア紀中ごろの大理石など | 8,300m付近の大理石に、最大5%のウミユリのかけら |
| 7,000〜8,200m | ノースコル層 | 片岩・千枚岩 | 深い海の堆積物が、熱と圧力で変わった岩 |
| 7,000m以下 | ロンブク層 | 片麻岩、花こう岩 | 約2000万〜2400万年前に入り込んだ花こう岩 |
イエローバンドの主な岩は大理石です。大理石は、石灰岩が熱と圧力を受けて変わった岩です。つまり8,000メートルを超える高さに、浅い海と深い海、両方の痕跡が重なっていることになります。
その海は、どこにあったの?
インドとアジアの間にあった「テチス海」です。いまのインドは、昔はアジアから遠く離れた南の大陸でした。米国地質調査所(USGS)によると、約2億2500万年前のインドは、オーストラリアの沖にある大きな島でした。
インドがオーストラリアや南極から離れたのは、約1億3000万〜1億2500万年前とされます。約8400万年前から北への移動が速まり、およそ6,000キロを旅しました。USGSは、約8000万年前のインドがアジアの約6,400キロ南にあったと説明しています。
インドが北へ進む間、テチス海の底には生き物の殻や泥が積もり続けました。ヒマラヤの北側には、この海の堆積物が原生代の終わりから始新世まで、何億年分も重なって残っている地帯があります。地質学では「テチス・ヒマラヤ」と呼ばれる部分です。
海の底は、どうやって8000メートルまで上がったの?
インドがアジアにぶつかり、間の海底を押し縮めたからです。衝突の前、インドを乗せたプレートは年18〜19.5センチという速さで北へ進んでいました。約5500万年前、その速さが年4.5センチに落ちます。アジアにぶつかり、それまでの速さでは進めなくなったためです。衝突が始まった時期は研究によって幅があり、USGSは約4000万〜5000万年前としています。
ぶつかった後も、インドは北へ押し続けました。行き場を失った海の堆積物は、折れ曲がったり、別の地層の上にずれ上がったりしながら積み重なります。衝突以来、地殻は合わせて約2,500キロも縮んだと見積もられています。
海の証拠は、ヒマラヤの山々だけに残っているわけではありません。USGSは、チベットの中心都市ラサの約50キロ北でも、海の生き物の化石を含む桃色の砂岩が見つかると紹介しています。テチス海がこの辺りまで広がっていた跡です。
年18センチなら、100万年で180キロ進みます。数センチの動きでも、数千万年続けば、海の底を空の高さまで運べるのです。
ヒマラヤは、いまも高くなっているの?
高くなっています。インドとユーラシアのプレートは、今も年約17ミリの速さで近づいています。
2024年、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームが、別の理由も示しました。エベレストの東を流れるアルン川は、約8万9000年前に下流のコシ川の水系とつながりました。それ以来、川が谷を深く削り、周りの地面が軽くなりました。重さが減った地殻は、浮かぶように持ち上がります。研究チームは、この働きでエベレストが15〜50メートル高くなったと見積もりました。GPSで測ると、山頂は今も年最大2ミリほど上がっています。同じ働きで、隣のローツェやマカルーも持ち上がっています。アルン川にいちばん近いマカルーは、少し速く上がると考えられています。
高さそのものも測り直されています。2020年12月8日、ネパールと中国は共同で、エベレストの標高を8,848.86メートルと発表しました。それまで広く使われていたのは、1954年の測量で得られた8,848メートルです。新しい値は、それより約86センチ高い数字です。
山に登らなくても、海の名残は見られるの?
見られます。ネパールのカリ・ガンダキ川の川原では、黒い石の中に渦巻きの殻が入った化石が採れます。テチス海にいたアンモナイトの化石で、現地では「シャーラグラーマ」と呼ばれます。ヒンドゥー教では、ヴィシュヌ神の姿として大切にされてきました。
日本でも、博物館の岩石・化石の展示で石灰岩やアンモナイトに出会えます。岩の種類や地層の重なり、プレートの動きは、写真と図で見ると理解しやすい話です。プレートの動きを図で解説した入門書を手元に置くと、山の岩がどこで生まれたかを自分でたどれます。
まとめ
エベレストの山頂は、4億年以上前の暖かい海でできた石灰岩です。インドが北へ旅する間にテチス海の底へ積もった地層が、大陸の衝突で押し上げられ、8,000メートルを超える高さに届きました。衝突は今も続き、川が谷を削る働きも加わって、山頂は年数ミリずつ上がっています。世界の屋根は、完成した山ではなく、今も動いている途中の山です。
次に石灰岩の石垣や博物館の標本を見かけたら、その岩が海で生まれたことを思い出してみてください。ヒマラヤの山頂も、同じ海の岩です。
参考にした資料
- Wikipedia(英語版) — Geology of the Himalaya
- ScienceDirect(Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology) — First documentation of Middle Ordovician warm-water carbonates in the Mount Jolmo Lungma (Mount Everest) area
- Encyclopaedia Britannica — Mount Everest
- Wikipedia(英語版) — Mount Everest(Geology の項)
- USGS — The Himalayas: Two continents collide
- ScienceDaily(University College London) — A river is pushing up Mount Everest's peak
- ARY News — China, Nepal jointly announce revised height of Mount Everest(2020年12月8日)
- Wikipedia(英語版) — Shaligram