陸を深くえぐるフィヨルド、氷河がつくった絶景とは
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フィヨルドは、氷河が海面より下まで削った谷に、氷が解けたあと海水が入り込んでできた細長い入り江です。ノルウェーのソグネフィヨルドは長さ205キロ、深さは1303メートルに達します。
氷が谷を削り、そのあとに海が入り込む。二段構えでできあがった地形です。川がつくった谷が沈んだリアス海岸とは、生まれ方がまったく違います。
氷河の谷に海が入った入り江
フィヨルドは、海が陸地に深く切り込んだ細長い入り江です。両側には数百メートル級の崖がそびえ、水路は曲がりくねりながら奥へ続きます。
見られる場所はノルウェーだけではありません。グリーンランド・アラスカ・カナダ・チリ・ニュージーランド・アイスランド・南極など、かつて氷河におおわれた高緯度の海岸に共通して分布しています。
本場のノルウェーには、フィヨルドが1,200ほどあります。入り江をすべてたどると海岸線は約2万9千キロですが、入り江を無視すると約2,500キロしかありません。海岸線の9割以上を、フィヨルドの出入りが占めている計算です。
中でも有名なのが、ユネスコの世界遺産「西ノルウェーのフィヨルド群」に選ばれたガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルドです。二つは120キロ離れていて、ネーロイフィヨルドの一帯は海から100キロほど内陸に入った場所にあります。それだけ奥まで、海が谷を伝って入り込んでいるのです。
氷河はどうやって谷を削るのか
川が削った谷は、断面がV字になります。細い流れが一本の線を、下へ下へと掘り下げていくからです。
氷河の削り方はまったく違います。谷の幅いっぱいを厚い氷が満たし、底と両側の壁を同時に削るのです。壁はえぐられて急になり、底は平らに広がります。こうして生まれるのがU字型の谷です。
削る方法は二つあります。一つは、谷底や壁の岩を大きな塊ごと引きはがすこと。もう一つは、氷に取り込んだ岩や砂を氷河の底で引きずり、やすりのように岩盤を磨くことです。
氷河が谷を削り込む深さは、海面では止まりません。厚く積もった氷はきわめて重く、海面よりはるか下まで谷底を掘り下げます。
氷が解けたあと、空になった谷に海水が流れ込みました。岸からわずかに離れただけで水深が数百メートルに達するのは、このためです。
この谷は、一度の氷期でできたものではありません。氷河が谷を深く削り込むには1万年から10万年以上かかり、何度もの氷期をまたいで進みました。どれだけ速く削れるかは、岩の種類と氷の厚さで大きく変わります。
氷が解けると、話はもう一段進みます。氷の重しと削られた土砂がなくなった地殻は、ゆっくり持ち上がっていきます。フィヨルドは、氷・海・陸地の三つが動いた結果として今の形になっています。
入口が浅く、奥が深い
フィヨルドには、奥のほうが深く入口のほうが浅い、という変わった特徴があります。入口の海底には、岩盤や氷河が運んだ土砂でできた高まりが残っています。シル(敷居)と呼ばれる地形です。
ノルウェーの大百科事典によれば、ソグネフィヨルドは最も深いところで1,303メートルあるのに、外洋につながる入口の敷居は水深100〜200メートルしかありません。差は1,000メートル以上です。小さなボルスタフィヨルドでは、深さ160メートルの奥に対し、入口の敷居はわずか1.5メートルです。奥の深い水が外洋の水と入れ替わりにくいのは、この敷居がふたの役割をするからです。
入口の敷居と、外洋より深く掘られた谷底。この二つは、フィヨルドが氷河でできたことの最も強い証拠とされています。川や波ではこの形は作れません。
浅い入口は、潮の流れも速めます。ノルウェーのサルトストラウメンは、世界で最も強い潮流とよく言われる場所です。
崖の上から滝が落ちる景色も、氷河の仕業です。本流の大きな氷河ほど深く削るため、合流していた小さな谷は高い位置に取り残されます。この「懸谷」の出口に滝ができます。アメリカのヨセミテ国立公園のブライダルベール滝も、懸谷から落ちる滝です。
懸谷は海の中にもあります。ソグネフィヨルドの支流イッケフィヨルドの入口は深さ50メートルしかありませんが、同じ地点の本流は約1,300メートルの深さです。支流の谷が、本流の谷より1,000メートル以上高い位置に取り残されています。
よくある誤解
一つ目は「フィヨルドと名のつく場所はすべて氷河の谷」という思い込みです。ノルウェー語やデンマーク語の fjord は英語より意味が広く、細長い入り江全般を指します。東ノルウェーでは細長い湖にも使い、デンマークでは浅い潟まで fjord と呼ぶことがあります。ノルウェー内陸の湖ミョーサも、地元では「フィヨルド」と呼ばれることがあります。首都の名を冠したオスロフィヨルドも、地殻が裂けてできた地溝で、氷河が削った谷ではありません。
二つ目は「入り組んだ海岸はみなフィヨルドの仲間」という誤解です。日本の三陸海岸や志摩半島の英虞湾のようなリアス海岸は、氷河ではなく川が削った谷に海が入り込んだものです。
| 項目 | フィヨルド | リアス海岸 |
|---|---|---|
| 谷を削ったもの | 氷河 | 川 |
| 谷の断面 | U字 | V字 |
| 海が入った理由 | 海面下まで削られた谷に、氷が解けて海水が入った | 海面が上がったり陸地が沈んだりして、川の谷が沈んだ |
| おもな場所 | ノルウェー、チリ、ニュージーランドなど高緯度 | スペインのガリシア地方、日本の三陸・志摩など |
三つ目は「フィヨルドは氷河が去ったあとの地形」という見方です。南極半島のラルマン・フィヨルドや、アラスカのグレーシャーベイ国立公園にあるジョンズホプキンス入江では、今も氷河が海へ流れ込んでいます。ノルウェーのネーロイフィヨルドやニュージーランドのダウトフルサウンドのように、氷が去って谷だけが残ったものもあります。
日本で見られる氷河の跡
日本にフィヨルドはありません。それでも、氷河が谷を削った跡は北アルプスに残っています。
富山県の薬師岳の東側には、氷河が削り取ったお椀形の谷「圏谷(カール)」が並んでいます。この圏谷群は国の特別天然記念物です。標高は1,750〜2,930メートルで、ここにはフィヨルドの谷と同じく、氷が岩を削った形がそのまま残っています。
リアス海岸の英虞湾は、真珠の養殖で知られる入り江です。地図で英虞湾とソグネフィヨルドを並べると、どちらも細かく入り組んで見えます。違いは、谷を削ったのが川か氷かです。
よくある疑問
- 世界で一番長いフィヨルド、深いフィヨルドはどこですか?
- 長さではカナダのナンセン海峡からタンカリー・フィヨルドへ続く水路が約420キロ、グリーンランドのスコアズビー湾が約382キロです。深さでは南極のスケルトン入江が1,933メートルで、ソグネフィヨルドを600メートル以上上回ります。
- 「フィヨルド」という言葉はどこから来たのですか?
- ノルウェー語で、古ノルド語の fjǫrðr に由来します。もとは湖のような水域を指す言葉でした。英語で浅瀬の渡り場を意味する ford とは、「渡る」を意味する同じ古い語根にさかのぼります。
まとめ
フィヨルドは、氷河が1万年から10万年以上かけて海面下まで削ったU字谷に、海が入り込んだ入り江です。入口の浅い敷居と奥の深い谷底が、氷河でできた証拠になります。名前に「フィヨルド」とあっても氷河の谷とは限らず、日本のリアス海岸は川の谷が沈んだ別の地形です。
地図でノルウェーやチリ、ニュージーランドの海岸線を拡大してみてください。同じ形をした細長い入り江がいくつも並んでいます。それが、氷河が通った跡です。
参考にした資料