科学

船はなぜ鉄なのに浮く?浮力のちから

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
船はなぜ鉄なのに浮く?浮力のちから

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鉄の船が浮くのは、船の形がたくさんの水を押しのけ、その水の重さと同じ力で下から押し返されているからです。浮くか沈むかを決めるのは材質ではなく、鉄と中の空気を合わせた「平均の重さ」です。

この仕組みは、台所の流しで確かめられます。この記事では、アルミホイルと塩水を使った2つの実験を手順つきで紹介し、それが実際の船のどこに生きているかを見ていきます。

押しのけた水の重さが、上向きの力になる

水に物を入れると、その物の水に沈んだ部分のかさだけ、水が押しのけられます。このとき物には、押しのけた水の重さと同じ大きさの上向きの力がはたらきます。これが浮力で、アルキメデスの原理と呼ばれます。

書き残したのは、紀元前3世紀の古代ギリシャの数学者アルキメデスです。著書『浮体について』の第1巻に、この原理が初めて書かれました。第2巻では、船体に似た形の物体がどんな向きで安定して浮くかまで調べています。

風呂であふれた湯を見て「エウレカ(分かったぞ)」と叫び、裸で走り出したという逸話は有名です。ただし、これは俗説です。話を書いたのは約200年後のローマの建築家ウィトルウィウスで、アルキメデス自身の著作には出てきません。

船の世界では、この原理がそのまま船の重さの物差しになっています。「排水量」は、船が浮いたときに押しのける水の重さのことです。アルキメデスの原理により、この値は船そのものの重さに等しくなります。軍艦の大きさを「排水量○○トン」と言うのはこのためです。

アルミホイルで確かめる

同じ重さの金属でも、形しだいで浮いたり沈んだりします。台所にあるアルミホイルで試せます。

  1. アルミホイルを約25センチ四方に2枚切る(同じ大きさなので重さも同じ)
  2. 1枚目を手のひらで固く握り、指で押しつぶして小さな玉にする
  3. 2枚目は、ふちを2センチほど折り上げて四角い舟の形にする
  4. 洗面器か流しに水を張り、玉と舟を静かに水面へ置く
  5. 浮いた舟に1円玉を1枚ずつ乗せ、沈むまでの枚数を数える

玉は沈み、舟は浮きます。玉の中に空気が残っていると浮くことがあるので、なるべく固く潰してください。アルミニウムは1立方センチメートルあたり2.70グラムで、水の約2.7倍の重さがあります。玉にすると、押しのける水がほんの少ししかありません。

舟の底は約21センチ四方、深さは2センチです。沈みきるまでに押しのけられる水は、21×21×2で約880立方センチメートル。水1立方センチメートルは約1グラムなので、理屈の上では約880グラムまで支えられる計算です。

実際には、舟が少し傾いた所でふちから水が入り、もっと早く沈みます。底を広くした舟や、ふちを高くした舟も作り、何枚まで乗ったかを比べてみてください。かさが大きいほど、たくさん乗るはずです。

決め手は、鉄と空気を合わせた平均の密度

1立方センチメートルあたりの重さを密度といいます。密度が水より小さい物は浮き、大きい物は沈みます。身近な物の密度を並べると、次のようになります。

身近な物の密度(OpenStax University Physics の表をもとに作成)
物1立方センチメートルあたり真水に入れると
松の木約0.37グラム浮く
氷(0℃)約0.92グラム浮く(大部分は水の中)
真水(4℃)1.00グラム(基準)
海水(0℃)約1.03グラム(真水より重い水)
アルミニウム2.70グラム沈む
鉄7.86グラム沈む

鉄だけを見れば、水の約7.9倍です。ところが船の中身は、ほとんどが空気の入った空洞です。船全体の重さを、空洞まで含めたかさで割ると、平均の密度は水より小さくなります。

数字で試してみます。1辺1メートルの立方体の箱を、厚さ5ミリメートルの鉄板で作るとします。鉄板の体積は6面でおよそ0.03立方メートル、重さは約236キログラムです。箱全体のかさは1立方メートルなので、平均の密度は水の約4分の1。この箱は、真水なら底から24センチほど沈んだ所で浮かびます。

水に沈む深さの割合は、この平均の密度と水の密度の比と同じです。荷物を積めば平均の密度が上がり、船はそのぶん深く沈みます。

塩水で確かめる:海と川で沈み方が変わる

浮力は、押しのけた水の重さで決まります。同じかさでも重い水を押しのければ、浮力は大きくなります。ストローで作る簡単な比重計で、真水と塩水の差が見えます。

  1. 太めのストロー(長さ約20センチ)の片方の端を油粘土でふさぎ、粘土を少し足して重りにする
  2. コップに真水を入れ、ストローを粘土側を下にして立てて浮かべる。倒れるなら粘土を足す
  3. 水面の高さに合わせて、ストローに油性ペンで印を付ける
  4. 別のコップに水500ミリリットルを入れ、塩約18グラムをキッチンスケールで量って溶かす
  5. ストローを塩水に移し、印と水面の位置を比べる

塩水では、印が水面より上に出ます。塩水のほうが重いので、少し沈むだけで同じ浮力が得られるからです。手順4の塩の量は、海水に近い濃さです。東京大学大気海洋研究所の講義資料によると、平均的な海水1キログラムには約35グラムの物質が溶けています。真水1リットルに塩35グラムを溶かすと、体積も少し増えるため、密度は1立方メートルあたり約1028キログラムになります。

実際の船も同じ動きをします。そのため船の横腹には、積みすぎを防ぐ満載喫水線(プリムソルマーク)が描かれています。基準は夏の海水用の線Sです。熱帯の海水用の線Tは、夏の満載時の喫水の48分の1だけSより上にあります。真水用の線Fも、Sより上に引かれます。冬の海水用の線Wは、反対にSより下です。

川の港で線Fまで積んでも、海に出れば船体は少し浮き上がり、線Sの高さに近づきます。この表示を初めて法律で義務づけたのは、イギリスの1876年商船法でした。議員サミュエル・プリムソルが、1873年に著書『Our Seamen(われらの船乗り)』で積みすぎの危険を訴えたことが後押しになっています。

船が沈むのは、空洞に水が入るとき

船体に穴があくと、空洞を満たしていた空気が水と入れかわります。かさは変わらないのに重さだけが増え、平均の密度が水を超えてしまいます。アルミホイルの舟に、ふちから水が入って沈んだのと同じことです。

船の内部が水密の壁でいくつもの区画に仕切られているのは、このためです。浸水を一部の区画に閉じこめれば、残りの空洞で平均の密度を水より小さく保てます。

区画の仕切り方や、波で傾いた船が元に戻る「復原力」の仕組みは、断面図で見ると一気に分かりやすくなります。船の構造を図で追いたいなら、船のしくみを図解した事典が役に立ちます。

よくある疑問

氷が水に浮くのも、同じ理由ですか?
同じです。0℃の氷の密度は1立方センチメートルあたり約0.92グラムで、水よりわずかに小さいので浮きます。ただし差が小さいため、大部分は水の中です。米国沿岸警備隊の国際氷山監視の解説は、氷山の約8分の7が水面の下にあるとしています。
重い船ほど、深く沈むのですか?
同じ形の船なら、重いほど深く沈みます。船は、押しのけた水の重さが自分の重さと等しくなる深さで止まるからです。逆に、重い船でも船体が大きければ、浅い喫水で浮かびます。大きな船が重い荷物を運べるのは、それだけ多くの水を押しのけられるからです。

まとめ

鉄の船が浮くのは、押しのけた水の重さと同じ浮力を受け、鉄と空気を合わせた平均の密度が水より小さいからです。海水は真水より約3%重いので、同じ船でも海では浅く、川では深く沈みます。

まずはアルミホイルを2枚切り、玉と舟で結果が変わるかを試してみてください。舟に1円玉が何枚乗ったかを記録したら、次は塩水で同じ舟を浮かべてみると、乗る枚数の違いが分かります。

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