科学

服にくっつく植物の実が、マジックテープを生んだ?

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
服にくっつく植物の実が、マジックテープを生んだ?

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服にくっついて離れない植物の実。その厄介な性質から、面ファスナーは生まれました。考えたのはスイスの技術者ジョルジュ・ド・メストラルで、きっかけは1941年、犬を連れて山へ出かけた帰り道です。

ひらめきから製品になるまでには、約10年かかりました。日本では1960年、クラレが「マジックテープ」の名で生産・販売を始めています。この記事では、発明の歴史を時代順にたどり、最後に長持ちさせるコツと選び方を紹介します。

1941年、服についたゴボウの実

ジョルジュ・ド・メストラルは1907年、スイスのローザンヌ近くで生まれました。12歳でおもちゃの飛行機を考えて特許を取った、発明好きの電気技師です。

1941年、ド・メストラルは飼い犬を連れてアルプスへ狩りに出かけました。帰ってみると、自分の服にも犬の毛にも、ゴボウの実(ひっつき虫)がびっしりくっついています。

ゴボウの仲間は、実のまわりを先の曲がった細いとげで包んでいます。動物の毛や人の服に実を運ばせて、種を遠くまで届けるための仕掛けです。ふつうなら払い落として終わりですが、ド・メストラルは実を顕微鏡でのぞきました。

そこに見えたのは、何百もの小さなかぎでした。かぎが、服の糸の輪や犬の毛に引っかかっていたのです。「かぎ」と「輪」を人工的に作れば、何度でも留め外しできる留め具になる。これが面ファスナーの出発点です。

1941〜1955年、製品になるまでの10年

アイデアは簡単でも、作るのは簡単ではありませんでした。ド・メストラルはフランスの織物の町リヨンを訪ね、職人に協力を頼みます。ある職人が綿で2本の帯を織ると、確かにくっつきました。ところが綿はすぐにすり切れ、実用になりません。

そこで合成繊維を試し、たどり着いたのがナイロンです。ナイロンを熱い赤外線の下で縫うと、かぎの形に固まることが分かりました。まず輪を織り、その輪を切ってかぎにする。この作り方の機械化には手間取り、量産のめどが立つまで、ゴボウの実を見た日から数えて約10年かかりました。

スイスで特許を出願したのは1951年、認められたのは1955年です。アメリカでも、1955年9月13日に特許が成立しました。名前の「ベルクロ(Velcro)」は、フランス語のベロア(ビロード)とクロシェ(かぎ)をつないだ造語で、ド・メストラルは会社にも同じ名を付けました。

1958年〜、世界へ、そして日本へ

1958年、アメリカの新聞のコラムは、この留め具を「ファスナーのないファスナー」と紹介しました。やがて宇宙飛行士やスキーヤー、ダイバー、子ども服のメーカーが使い始めます。

宇宙での利用が有名になったため、「NASAが面ファスナーを発明した」と言われることがあります。これは誤りです。発明はあくまでド・メストラルで、NASAは使い手の1つでした。

日本では1960年、クラレが生産・販売を始めました。商品名の「マジックテープ」は、2本の布がピタリとくっつき、自在に付け外しできる「魔法のテープ」という意味です。1964年には、東海道を走る高速鉄道の座席のヘッドレストカバーに使われ、名前が全国に広まりました。

「マジックテープ」はクラレの登録商標で、一般的な名前は面ファスナーです。海外では「ベルクロ」の名で通っています。呼び名は3つでも、仕組みはどれも同じかぎと輪です。

面ファスナーの年表
年出来事
1907年ド・メストラル、スイスに生まれる
1941年アルプスでの狩りの帰り、服についたゴボウの実を顕微鏡で観察
1951年スイスで特許を出願
1955年スイスで特許成立。アメリカでも9月13日に成立
1958年米紙が「ファスナーのないファスナー」と紹介
1960年日本でクラレが「マジックテープ」の生産・販売を開始
1964年東海道の高速鉄道のヘッドレストカバーに採用
1978年特許が切れ、安い類似品が一気に広まる
1990年ド・メストラル死去(82歳)
1999年ド・メストラル、全米発明家殿堂入り

1978年に特許が切れると、各国で安い類似品が作られるようになりました。ド・メストラルの会社ベルクロは、今も面ファスナーを作り続けています。

かぎと輪が、何度も留まる仕組み

面ファスナーは、ふつう2枚1組で働きます。片方は先が曲がったかぎが並ぶフック面(オス)、もう片方は細かい輪が密集したループ面(メス)です。押し当てると、無数のかぎが輪をつかまえます。引きはがすと、かぎがしなって輪から外れ、また元の形に戻ります。接着剤のように減って消える物がないため、何度でも留め直せます。

素材も変わってきました。ド・メストラルが行き着いたのはナイロンでしたが、クラレのいまの標準タイプはポリエステル製です。幅は16〜100ミリの7種類、色は39色あります。

弱点もはっきりしています。かぎに糸くずや髪の毛がたまると、留まる力が落ちます。輪は使ううちに伸びたり切れたりします。フック面が、目の粗いニットなどの布を引っかけてしまうこともあります。長持ちさせるコツは次の3つです。

  1. 洗濯の前に閉じる:クラレは、家庭の洗濯機で洗うときはフックとループを閉じた状態で洗濯ネットに入れるよう案内しています。ほかの洗濯物を傷めず、糸くずも付きにくくなります
  2. かぎのごみを取る:フック面に糸くずがたまったら、指先や細いブラシでかき出します
  3. 付ける位置を考える:手芸用品店の説明では、縫い付けるときは肌や服に当たりにくい側にフック面を付けます。角を丸く切っておくと、引っかかりも減ります

粘着テープ付きの面ファスナーは、洗濯に耐えられない場合があります。クラレは、柔らかい塩化ビニール素材には粘着タイプを勧めていません。素材に含まれる成分が粘着剤と反応し、くっつく力が弱まるためです。

面ファスナーを選ぶなら

手芸や服の手直しに使いやすい、クラレの製品を2つ選びました。どちらも縫い付けて使うタイプです。

標準の2枚組:クラレ エコマジック 縫製用 25mm幅×20cm 約136円(2026年10月時点の楽天市場の表示)。フック面とループ面が1本ずつ入った、縫い付け用の1組です。色は20色あり、洗濯やドライクリーニングもできます(洗濯時は閉じた状態で)。
向いている人:上履きや袋物などに、ミシンで少しだけ付けたい人。注意:手縫いでは硬く感じることがあり、販売店はミシンを勧めています。

1本で留まるタイプ:クラレ フリーマジック 20mm幅 白(1m単位) 約308円(2026年10月時点の楽天市場の表示、1mあたり)。1本のテープの同じ面に、フックとループの両方が並んでいます。ループがフックより高く作られているため、表面が柔らかく、糸くずも付きにくい構造です。
向いている人:赤ちゃんの服や介護用の肌着など、肌に触れる場所に付けたい人。フックとループの付け間違いもありません。注意:強く押し当てないと留まりにくい作りです。この商品の色は白です。

いまも続く、ゴボウの実の発想

生き物の形や仕組みをまねて道具を設計することを、バイオミメティクス(生物模倣)と呼びます。面ファスナーは、その代表的な例です。1941年に服についたゴボウの実が、約10年の試行錯誤を経て、1955年に特許になりました。日本でも1960年から、靴や服、鉄道の座席まで留め続けています。

次に服へひっつき虫がついたら、払い落とす前に先端を眺めてみてください。細く曲がったかぎが、虫眼鏡でも見えることがあります。ド・メストラルが顕微鏡で見たのと同じ形です。

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