タクシーで音楽を流すと運転手が料金を払う、フィンランドの話
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フィンランドでは、タクシーの車内で客に音楽を聞かせると、運転手の側が使用料を払います。2026年の料金は1台あたり月7.86ユーロ(税別)。1年に直すと約94ユーロです。
根拠は、2002年12月3日にフィンランド最高裁が出した判例KKO:2002:101です。客を乗せた車内で流す音楽は「公の演奏」にあたる、と判断されました。この記事では、料金・判決・お金の行き先を数字で追います。
月7.86ユーロの内訳と、ほかの業種との差
フィンランドの音楽使用料は、役割の違う2つの団体が集めています。作曲家・作詞家・音楽出版社の分を受け持つのがテオスト。録音で演奏した人と、レコードを作った製作者の分を受け持つのがグラメックスです。
2団体は「musiikkiluvat.fi」という共同の窓口で、まとめて許諾を売っています。2026年の価格表に載っているタクシーの料金は次のとおりです。
| 項目 | グラメックス | テオスト | 合計 |
|---|---|---|---|
| ラジオ・CD・音楽プレーヤー | 3.90ユーロ | 3.96ユーロ | 7.86ユーロ |
| テレビなど映像機器の追加分 | - | 1.29ユーロ | 1.29ユーロ |
音の出どころは問われません。ラジオでも、CDでも、スマートフォンにつないだプレーヤーでも同じ料金です。車内に映像の画面を付ける場合だけ、テオストの分に1.29ユーロが上乗せされます。価格表によると、これに付加価値税が加わり、契約は1か月単位です。
月7.86ユーロを12か月払うと94.32ユーロ。ラジオを流すだけでも、年に100ユーロ近い費用になります。
この金額は、高いのでしょうか、安いのでしょうか。同じ価格表から、ほかの業種の最も小さい区分を並べてみます(いずれも2団体の合計・1か月・税別)。
| 使う場所 | 1か月の合計 |
|---|---|
| タクシー1台 | 7.86ユーロ |
| 小型バス(定員1+22人まで) | 9.39ユーロ |
| 大型バス(定員1+22人を超える) | 10.48ユーロ |
| ランチ営業の飲食店(1〜6席) | 16.68ユーロ |
| 飲食店(1〜6席) | 23.87ユーロ |
| 店舗(売り場1〜30平方メートル) | 23.98ユーロ |
タクシーは表の中で最も安い区分です。座席が6つまでの小さな飲食店と比べても、3分の1ほどにとどまります。客の数や広さに応じて料金が変わり、ゼロにはならない。これがフィンランドの決め方です。
表のバスの区分は、乗客の定員で2段階に分かれています。運転席を含めて1+22人が境目で、大型になると月1ユーロほど上がります。タクシーには、こうした定員の区分がありません。台数で数える、いちばん単純な決め方です。
2002年の判決と「22ユーロ」
きっかけは1人の運転手の拒否でした。ヘルシンキのタクシー運転手協会で会長を務めていたラウリ・ルオトネン氏が、テオストから届いた1997年分と1998年分の請求を払わなかったのです。
テオストの主張はこうです。客に向けて車内で音楽を流すのは、レストランやパブで流すのと変わらない。運転手の側は、自分の車の中は私的な空間だと考えていました。
裁判は3段階で進みました。
- 地方裁判所: タクシーはだれでも乗れるので、客の顔ぶれは前もって限られていない。だから公の演奏にあたる
- 控訴裁判所: 地裁の判断を変えなかった
- 最高裁判所(2002年12月3日): 公の演奏にあたると認め、支払う金額だけを改めた
最高裁が重く見たのは、音楽が運転手の仕事の中で流されていたことと、客の範囲がまったく限られていないことでした。当時の報道によると、運転手が払う使用料は年22ユーロとされました。ルオトネン氏は判決のあと、多くの運転手がラジオを消す結果になる、と予想しています。
この22ユーロと、今の年94ユーロをそのまま比べることはできません。2002年の裁判で争われたのは、作曲家の側を受け持つテオストの請求でした。今の料金には、演奏家とレコード製作者の側を受け持つグラメックスの分も入っています。
数人しか乗れない車でも「公の場」になる理由
判決には、もう1つ大事な一言があります。タクシーに一度に乗れる人数が限られていることは、結論に関係しない、という点です。
数字で考えると分かりやすくなります。1回の乗車で乗る客は数人でも、1台のタクシーは1日に何組もの客を乗せます。その客は運転手の家族でも友人でもなく、前もって選ばれた相手でもありません。
フィンランドの著作権法も、この考え方をはっきり書いています。第2条は、利益を目的として「比較的大きな閉じた集まり」に向けて演奏することも、公衆への演奏に含めると定めています。会員制の店のように入れる人が限られていても、商売として大勢に聞かせれば、許諾が必要になるという意味です。
日本の著作権法にも、よく似た考え方があります。第2条第5項は「公衆」に「特定かつ多数の者」を含むと定めています。1回ごとの人数ではなく、だれに向けてどんな目的で聞かせるのかで決まる。この点は2つの国で共通しています。
集まったお金の行き先
タクシーの料金は、曲を作った人と、曲を鳴らした人の両方に分かれて届きます。
- テオストの分: 作曲家・作詞家・編曲家・音楽出版社へ
- グラメックスの分: 演奏した人に50%、レコード製作者に50%
規模も数字で見ておきます。テオストが2025年に集めた著作権使用料は、過去最高の9230万ユーロでした。このうち店や乗り物で流れる背景音楽の分は1160万ユーロです。会員に配った額は7960万ユーロで、2025年末の会員数は4万4076人でした。背景音楽の分は全体の約13%にあたり、タクシーの料金もこの中に入ります。
この決まりは今も生きています。2026年10月にも、フィンランドの家計情報誌タロウスタイトがグラメックスの担当者の話として「タクシーでラジオを流すには許諾が必要で、1台月7.86ユーロかかる」と伝えました。判決から20年以上たっても、車内の1曲には値段が付いたままです。
グラメックスは、演奏家や製作者などと6万500件の契約を結んでいます。分配で支払う最低額は5ユーロと決まっています。1台月数ユーロのタクシー料金も、こうした分配の仕組みに乗って届きます。
フィンランドで車を利用するなら、料金の目安や配車アプリの使い方も気になるところです。現地の交通の使い方は、旅行ガイドブックが詳しくまとめています。
よくある疑問
- 運転手が1人で走っているときに聴く音楽も有料ですか?
- 対象外です。最高裁が公の演奏と認めたのは、客を乗せている間に流す音楽です。グラメックスも、私的に開く結婚式や葬儀では許諾が要らないと説明しています。
- ラジオ局が使用料を払っているのに、車内でも払うのですか?
- 払います。ラジオ局が払うのは放送する分で、タクシーが払うのは、その放送を客に聞かせる分です。価格表でも、ラジオとCDは同じ料金の区分に入っています。
まとめ
フィンランドのタクシーは、客を乗せて音楽を流すなら、1台あたり月7.86ユーロ(税別)を払います。2002年の判例KKO:2002:101が、「一度に数人しか乗れなくても、仕事として客に聞かせれば公の演奏」と決めたからです。
次にどこかの店や乗り物で音楽が流れていたら、その1曲がだれに向けて鳴っているのかを考えてみてください。作った人と鳴らした人の両方に、小さな額が少しずつ届いています。
参考にした資料
- Finlex(フィンランド法令データベース) — 最高裁判例 KKO:2002:101
- Musiikkiluvat.fi(テオスト・グラメックス共同窓口) — Pricelist 2026(タクシーの背景音楽料金)
- Gramex ry — Q&A(使用料の配分と許諾が必要な場面)
- Minilex — KKO:2002:101 の要旨(タクシーでの音楽の公の演奏)
- Deeth Williams Wall — Finnish Taxi Drivers to Pay Copyright Fees to Listen to Radio(2002年12月)
- WIPO Lex — Finland Copyright Act (404/1961) 英訳(第2条第4項)
- Teosto — Teosto in 2025(著作権使用料9230万ユーロ)
- e-Gov法令検索 — 著作権法(第2条第5項)
- Taloustaito — Mitä maksaa musiikin soittaminen taksissa?(2026年10月)