ラジオで流す曲の一定割合を自国の音楽にする、カナダの決まり
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カナダの民間ラジオ局は、1週間に流すポピュラー音楽の35パーセント以上をカナダの曲にしなければなりません。放送局の心がけではなく、国のラジオ規則(Radio Regulations, 1986)に書かれた義務です。
どの曲が「カナダの曲」かは、MAPLという4つの条件で決まります。この記事では、手元の曲をMAPLで判定する方法と、ラジオ局ごとに違う割合の決まりを順に見ていきます。
「カナダの曲」を決める4つの文字
判定に使うのは、MAPLと呼ばれる4つの条件です。放送と通信を監督する政府機関CRTC(カナダ・ラジオテレビ通信委員会)は、次のように説明しています。
- M(Music):曲をすべてカナダ人が作曲した
- A(Artist):歌や演奏の主役がカナダ人
- P(Performance):演奏をすべてカナダ国内で録音した。または国内で演奏し、国内で生放送した
- L(Lyrics):歌詞をすべてカナダ人が書いた
4つのうち2つ以上を満たせば、その曲はカナダの曲として数えられます。1つだけでは足りません。
ここでいう「カナダ人」は、国籍を持つ人だけではありません。永住者や、曲作りや演奏の直前6か月間カナダに住んでいた人も含まれます。
例外もあります。1972年1月より前に録音された曲は、1つ満たせば認められます。古い曲ほど、録音の記録がそろっていないからです。カナダ人が作曲した曲を楽器だけで演奏した場合も、カナダの曲になります。
手元の曲をMAPLで判定する手順
MAPLの判定は、CDのブックレットや配信サービスの曲情報があれば、家でもできます。カナダ出身の歌手の曲を1つ選んで、次の順に確かめてみてください。
- 作曲者の名前を調べ、全員がカナダ人ならMに印を付ける
- 歌っている人(演奏の主役)がカナダ人なら、Aに印を付ける
- 録音したスタジオの場所を調べ、すべてカナダ国内ならPに印を付ける
- 作詞者の名前を調べ、全員がカナダ人ならLに印を付ける
- 印が2つ以上ならカナダの曲、1つ以下ならそうではない、と判定する
やってみると、Aの印は付けやすいのに、MとLで迷うことが多いはずです。作曲や作詞に外国人が1人でも加わると、「すべてカナダ人」という条件から外れるからです。Pも当てはまるとは限りません。ロサンゼルスやロンドンで録音された曲は、カナダ人の歌手でも印が付きません。
有名な歌手のアルバムが外れた理由
この「迷う所」で実際に起きたのが、ブライアン・アダムスの一件です。カナダ出身のアダムスは、1991年にアルバム『Waking Up the Neighbours』を発表しました。
アルバムの曲は、南アフリカ出身のプロデューサー、ロバート・ジョン・ラングと共同で作られました。録音も、多くがカナダの外で行われています。そのため満たせたのはAの1つだけで、当時の規則では1曲もカナダの曲に数えられませんでした。アダムスは規則を「恥だ」と批判しています。
CRTCは同じ1991年に規則を足しました。1991年9月1日より後に録音した曲なら、外国人と共作したカナダ人が作曲と作詞の両方で半分以上の権利を持てば足ります。そのうえでAかPを満たせば、カナダの曲として認めます。権利の割合は、カナダのSOCANやアメリカのBMIなど、著作権を管理する団体の記録で確かめます。
判定の手間を省くために、MAPLには円を4つに区切った形のマークがあります。区切った4つの区画が、M・A・P・Lの4条件にあたります。デザインしたのは、1964年にトロントで創刊された音楽業界誌RPMのスタン・クリーズです。
1992年のRPMには、CRTCの発表を伝える記事が載りました。マークはクリーズが作って所有している、という内容です。RPMの許可を得れば、英語とフランス語の音楽業界のどちらでも使えます。同じ記事は、Pの条件が録音した「場所」で決まることも念を押しています。カナダ人のプロデューサーが手がけても、外国で録音すればPにはなりません。
マークがレコードに付いていれば、ラジオ局の担当者は、どの条件を満たす曲かをすぐに見分けられます。中古店などでカナダの歌手のレコードやCDを見つけたら、ジャケットに丸いマークがないか探してみてください。
ラジオ局の種類で変わる割合
35パーセントは、民間局のポピュラー音楽の数字です。局の種類や音楽の分野によって、求められる割合は変わります。
| 対象 | カナダの曲の割合 |
|---|---|
| 民間局・コミュニティ局・大学局のポピュラー音楽 | 1週間で35%以上 |
| 民間局の平日午前6時〜午後6時 | 35%以上 |
| 公共放送CBC/ラジオ・カナダのポピュラー音楽 | 1週間で50%以上 |
| 民間局のクラシック・ジャズなど(特別分野の音楽) | 10%以上 |
| 多言語放送局の外国語番組の時間 | 7%以上 |
| フランス語局が流す歌もの | 65%以上をフランス語の曲に |
平日の昼の決まりには理由があります。規則ができた当初、局はカナダの曲を、聴く人の少ない深夜や早朝にまとめて流しました。この時間帯は「ビーバー・アワー」とからかわれました。そこで、よく聴かれる平日の昼にも同じ割合を求めるようにしたのです。
楽器だけの曲が多い局は、割合が下がります。1週間の曲の35%以上が器楽曲なら20%、50%を超えれば15%です。1981年より前の曲を中心に流す局も、条件付きで30%まで下げられます。古いカナダの曲は、新しい曲に比べて数が限られるからです。
割合はどうやって確かめるのか
CRTCは、局の放送を録音した記録を取り寄せて調べます。2001年のCBCへの決定では、無作為に選んだ1週間の放送を確かめる、と書かれています。このときはモントリオールの局が、ポピュラー音楽50%の条件を満たしていないと指摘されました。
同じ確かめ方は、インターネットでカナダのラジオを聴けば自分でも試せます。
- 平日の午前6時〜午後6時(カナダの現地時間)に、カナダの民間局の放送を1時間聴く
- 流れた曲の題名と歌手を、すべて書き出す
- 歌手の出身を調べ、カナダの歌手の曲に印を付ける
- 印の付いた曲の数を、流れた曲の数で割る
歌手の出身だけで数えているので、結果はおおよその値です。それでも3曲に1曲ほどは、カナダの歌手の曲が流れるはずです。
規則の歴史は50年を超えます。CRTCは1970年に、AM局に週30%のカナダの曲を求める規則を決めました。割合はその後も見直され、1999年1月3日からは35%になっています。英語とフランス語が並ぶカナダの成り立ちや暮らしは、規則づくりの背景でもあります。写真と地図で国の姿をつかむなら、国の図鑑が手がかりになります。
よくある疑問
- カナダの歌手の曲なら、何でもカナダの曲になりますか?
- なりません。歌手がカナダ人ならAの1つを満たすだけです。作曲・作詞・録音場所のどれかもカナダでなければ、2つ以上という条件に届きません。ブライアン・アダムスのアルバムは、この理由で外れました。
まとめ
カナダのラジオでは、ポピュラー音楽の35%以上(公共放送は50%以上)をカナダの曲にする決まりがあります。カナダの曲かどうかは、作曲・歌い手・録音・作詞の4条件のうち2つ以上を満たすかで決まります。
好きなカナダの歌手の曲を1つ選び、MAPLの印をいくつ付けられるか数えてみてください。印が1つで止まる曲があれば、それが1991年に規則が足された理由そのものです。
参考にした資料
- CRTC(カナダ・ラジオテレビ通信委員会) — Canadian content requirements for Canadian music on radio stations
- CRTC(カナダ・ラジオテレビ通信委員会) — The MAPL system uses music, artist, lyrics and performance to define Canadian songs
- Wikipedia — Canadian content
- Justice Laws Website(カナダ司法省) — Radio Regulations, 1986
- CRTC — Decision CRTC 2001-530(CBC Radio Twoの地域局の免許更新)
- The Canadian Encyclopedia — Recording Industry
- The Canadian Encyclopedia — RPM
- RPM(1992年3月7日号) — CRTC clarifies ownership of MAPL logo and system