雑学

現金お断りの国がある?キャッシュレス先進国スウェーデン

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
現金お断りの国がある?キャッシュレス先進国スウェーデン

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スウェーデンは、世界でもっとも現金を使わない国のひとつです。中央銀行の2025年の調査では、店で直前に払った買い物を現金で済ませた人はわずか5%でした。15年前は40%だった数字です。

ところが2026年7月、食料品店と薬局に現金の受け取りを義務づける法律が施行されました。キャッシュレスの先頭を走った国が、現金を残す方向へかじを切っています。15年前のスウェーデン、そして今の日本と比べながら、その中身を見ていきます。

15年で現金はどこまで減ったか

スウェーデン中央銀行(リクスバンク)は、国民の支払い習慣を定期的に調べています。2025年の調査は9月8日から19日に行われ、18〜84歳の2008人が答えました。まず、以前の調査と並べてみます。

スウェーデンの支払い習慣の変化(リクスバンク調査)
項目以前2025年
店での直前の支払いが現金40%(15年前)/10%(2023年)5%
店での直前の支払いにスマホのカード(Apple Payなど)9%(2023年)18%
過去1か月にSwishを使った82%(2023年)91%
現金を引き出すことがある71%(2023年)56%
現金が減るのは良くないと感じる36%(2022年)ほぼ半数

カードで払う人は、実物のカードとスマホに入れたカードを合わせて約92%に達します。過去1か月にネットで買い物をした人も80%で、2018年の56%から大きく伸びました。

受け取る側の変化も数字に出ています。店で現金を使おうとした人のうち、約3人に1人が「現金を断られた」経験をしていました。10世帯のうち7世帯は、現金が無くても困らないと答えています。

減り方を長い目で見ると、流れが変わったのは2000年代の後半です。リクスバンクの2013年の報告によると、出回っている現金の額はGDP比で1950年の10%近くから、2011年には2.6%まで下がりました。それでも金額そのものは1950年から毎年増え続け、減り始めたのは2007年ごろからです。Swishが登場したのは、その5年後でした。

それでいて、現金が減ることを良くないと感じる人は、2022年の36%からほぼ半数まで増えました。使う人は減ったのに、なくなることへの不安は強まっているのです。

店はカード、個人間はSwish

スウェーデンの支払いを語るうえで欠かせないのが、送金アプリ「Swish(スウィッシュ)」です。2012年に、北欧の大手銀行ノルデアなど6つの銀行が、決済の仕組みを運営するバンクジーロと組んで始めました。どの銀行の口座どうしでも、すぐにお金を送り合えます。

2025年の調査では、91%が過去1か月にSwishを使っていました。ただし、店での直前の支払いにSwishを使った人は2%だけです。店はカード、友人への割り勘や個人間のやり取りはSwish、という住み分けができています。

リクスバンクは、スウェーデンとノルウェーが「流通する現金の量がGDPに比べて世界でもっとも少ない国」だとしています。ほかの国も減る方向にありますが、2つの国は群を抜いています。

日本と比べるとどうか

日本のキャッシュレス化も進んでいます。経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率は、新しい国内指標で58.0%でした。持ち家の家賃相当分まで分母に含む、国際比較用の従来指標では46.3%です。

ただし、スウェーデンの数字は「直前の店での支払いに何を使ったか」を個人に聞いた調査です。日本の数字は、消費全体の金額のうちキャッシュレスがどれだけかを推計したものです。同じ物差しではないので、表は傾向を比べるものとして見てください。

日本が2025年12月に指標を見直したのには理由があります。従来の指標は分母に持ち家の「帰属家賃」を含み、その額は約57兆円、全体の約17%にのぼります。実際には誰も払っていない家賃なので、それを外した国内指標を新しい基準にしました。2024年の実績は、従来指標で42.8%、国内指標で51.7%でした。

スウェーデンと日本の比較
項目スウェーデン日本
代表的な数字店での直前の支払いは現金5%、カード約92%(2025年)キャッシュレス決済比率58.0%(2025年・国内指標)
キャッシュレスの主役カード(スマホに入れたカードを含む)クレジットカードがキャッシュレス全体の82.7%
スマホでの支払い・送金Swish(過去1か月の利用91%)コード決済がキャッシュレス全体の10.2%
現金の受け取り2026年7月から食料品店と薬局に義務お札は受け取りを拒めない法貨。硬貨は額面の20倍まで
国の方向現金を使える状態を法律で守る2030年に65%、将来は80%(国内指標)を目指す

日本銀行によると、お札には「支払いに使われたとき、相手が受け取りを拒めない」強制通用力が法律で与えられています。硬貨は、法律で額面の20倍までと決められています。10円玉なら20枚、200円分までです。

スウェーデンの新しい法律にも、硬貨は25枚までという上限があります。現金を守る国と、キャッシュレスを進める国で、硬貨の扱いが似ているのは興味深い点です。

現金を守る法律の中身

新しい法律は2026年5月28日に公布され、7月1日に施行されました。英字ニュースサイト「The Local Sweden」によると、議会ではすべての政党が賛成しています。

対象は、食料品を売る小売店と薬局のうち、店員がいるレジのある実店舗です。そこで品物やサービスを売るとき、お札と硬貨での支払いを受け付けなければなりません。

義務には上限と例外があります。受け付けるのは、1回の支払いが「物価基礎額」の10分の1以下で、硬貨25枚以内のものです。物価基礎額は2026年で5万9200クローナなので、1回5920クローナまでが対象になります。

例外は2つです。1つは、現金を扱うと店の安全を保てない場合。もう1つは、現金を扱う費用のせいで店を続けられない場合です。このほか、個別の取引で正当な理由があれば、店は現金を断れます。

あわせて、銀行には全国どこでも現金を預け入れられる体制を整える、より明確な義務が課されました。

なぜ引き返したのか

理由は大きく2つあります。1つは、デジタルに取り残される人の存在です。議会の審議では、ある議員が「50万人のスウェーデン人がデジタル排除の状態にある」と述べました。高齢者や障害のある人、住まいのない人などが例に挙がっています。

もう1つは、非常時の支払い手段です。スウェーデン民間防衛・レジリエンス庁(MSB)がリクスバンクと共同で作った案内は、大人1人あたり1000クローナほどの現金を、いろいろな額面で家に置くよう勧めています。1週間分の生活必需品を買える目安です。

案内は、現金をアプリやカード、電子IDがなくても誰でも使える唯一の支払い手段と位置づけています。カードが当たり前になった国だからこそ、現金が使えなくなる事態を先に考えたわけです。

現金とキャッシュレスのこれから

スウェーデンは、現金払いが5%まで減った今も、現金をなくす道は選びませんでした。普段はカードとSwishで払い、現金は「使える状態」を法律で守る。キャッシュレスと現金を両立させる形です。

日本はキャッシュレス決済比率58.0%で、2030年の65%を目指している途中です。スウェーデンほど現金が減る前に、使えなくなったら困る人はいないか、店が現金を断るのはどこまで許されるのかを考える時間があります。

手始めに、自分の財布を見てみてください。カードやスマホが使えない日に、何日分の買い物ができるか。その答えが、自分にとっての現金の役割です。

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