雑学

子供の名前は当局に届け出る、スウェーデンの名づけのルール

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了8分
子供の名前は当局に届け出る、スウェーデンの名づけのルール

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スウェーデンでは、子どものファーストネームと姓を、生まれてから3か月以内に税務庁へ申請して登録します。名前のリストはなく、1件ずつ「不快感を与えないか」「本人が困らないか」で審査されます。

審査の線引きは、通った名前と通らなかった名前を並べるとよく見えます。もう1つスウェーデンらしいのが姓です。いちばん多い姓はアンデション(Andersson)で、上位には「-son」で終わる姓がずらりと並びます。この記事では、名前の審査と姓の歴史を、比べながらたどります。

届け出は3か月以内、姓も申請する

スウェーデンの子どもは、少なくとも1つのファーストネームと1つの姓を持つ決まりです。親は生後3か月以内に、税務庁(Skatteverket)へ申請します。国内で生まれた子なら、税務庁から郵送される住民登録の抄本に申請書が同封されてきます。

名前を税務庁が扱うのは、住民登録(folkbokföring)を担当しているのが税務庁だからです。出生も名前も、同じ役所の台帳に載ります。

根拠は、2017年7月1日に施行された人名法(2016:1013)です。この法律で、姓が生まれたときに自動で決まる仕組みはなくなりました。姓も親が選んで申請します。3か月以内に姓の申請がなければ、子どもは産んだ親の姓を名乗ることになります。

ファーストネームは1つでも複数でもかまいません。あとから足したり、並び順を変えたり、一部を消したりもできます。在外公館の案内によると、ファーストネームの変更には250クローナの手数料がかかります。なお、国が公開するリストから名前を選ぶデンマークの仕組みは、デンマークの命名ルールの記事で紹介しています。

通った名前、通らなかった名前

人名法の第28条は、ファーストネームとして認めない名前を3つ挙げています。不快感を与える恐れがあるもの、名乗る本人に不都合が生じると考えられるもの、そのほかの理由で名前として不適当なものです。税務庁が断っても、行政裁判所に不服を申し立てられます。実際の判断を並べると、次のとおりです。

スウェーデンで審査された名前の例(Wikipedia・The Local・The Register の報道から作成)
名前年結果理由・経緯
Brfxxccxxmnpcccclllmmnprxvclmnckssqlbb111161996年却下43文字。読みは「アルビン」と主張
A1996年却下当時は1文字の名前が認められなかった
Google2005年認めるミドルネームとして登録
Metallica2007年認める税務庁は不適当としたが、裁判所が覆す
Q2009年認める下級審2つで却下されたが、最高行政裁判所が認める
Allah2009年却下宗教的に不快感を与えるおそれ
Pilzner2017年却下ビールのピルスナーと同じく、子ども向きでない
Lucifer2020年却下悪魔を連想させる。ガブリエルやミカエルは可

いちばん有名なのは、1行目の43文字です。1991年生まれの男の子の両親は、期限を過ぎても名前を届け出ず、ハルムスタッドの地方裁判所から5,000クローナの罰金を科されました。1996年5月、両親は名づけの規制への抗議としてこの名前を提出します。裁判所は名前を認めず、罰金もそのまま。続けて出した1文字の「A」(これも読みはアルビン)も退けられました。

13年後に流れが変わります。イェムトランド地方の両親が求めた「Q」について、2009年に最高行政裁判所は「本人が不快になるとも、名前として明らかに不適当とも言えない」と判断しました。1文字の名前は、このときから認められています。

表を比べると、線を引いているのは名前の珍しさではないと分かります。GoogleやMetallicaのような商標やバンドの名前は通り、悪魔やお酒を連想させる名前は通りません。見られているのは「その名前で一生を送る子どもが困らないか」です。ただし審査は1件ごとで、同じ「Allah」も2018年末の時点で245人がファーストネームとして名乗っていました。

いちばん多い姓はアンデション

スウェーデンの姓の上位は、「-son」で終わる名前が占めています。統計局(SCB)によると、2021年末の時点でいちばん多い姓はアンデション(Andersson)で、約22万2,000人です。ヨハンソン(Johansson)も多く、91の自治体では最多です。上位にはカールソン、エリクソン、ニルソンなども並びます。

理由は、昔の名乗り方にあります。かつては父の名前に「son(息子)」や「dotter(娘)」を付けて名乗るのがふつうでした。アンデシュの息子ならアンデション、その子がヨハンなら孫はヨハンソンと、世代ごとに姓が変わります。代々同じ姓を受け継いでいたのは、貴族の家だけでした。

スウェーデンの姓の移り変わり(SCB・Wikipedia などの資料から作成)
時代姓の付け方主なできごと
1800年代より前父の名+son/dotter。世代ごとに変わる代々の姓は貴族だけ
1800年代同じ「-son」を代々残す家や、新しい姓を作る家が増える自然にちなむ姓も生まれる
1901年初めての全国的な名前の規則貴族の家名を名乗るのを防ぐのが主な目的
1920〜1952年役所も代々の姓を勧める新しい姓が約6万4,000件登録される
2017年〜姓も親が選んで申請する人名法(2016:1013)施行

1900年代の前半には、記録を整えたい役所の後押しもあって、多くの家が代々の姓に切り替えました。兵役に就いた男性が、シュトリード(Strid=戦い)やラスク(Rask=素早い)のような勇ましい姓をもらうこともありました。表記の違いを別々に数えると、いまスウェーデンには約75万9,000の姓があります。

姓は「2,000人」で線が引かれる

大人が姓を変えるときにも、決まりがあります。人名法第16条は、法律に沿って2,000人以上が名乗っている姓なら、だれでも変更できるとしています。反対に、名乗る人が2,000人に満たない姓は守られていて、特別な理由がなければ認められません。

新しい姓を作ることもできます。条件は、1語であること・ファーストネームとして使われていないこと・ほかの名前と紛らわしくないことなどです。申請は1回に1案だけで、手数料は1,800クローナ。申請された名前は、官報に1か月間公告されます。却下されても手数料は戻りません。税務庁によると、手数料がかかる変更の処理には約23週間かかります。2つの姓を並べる「二重姓」も認められていますが、姓は2つまでです。

名前の日と、いまの人気の名前

スウェーデンの暦には、毎日2つずつ名前が割り当てられた「名前の日」があります。この日を祝う習慣もあります。18世紀から王家の名前が暦に加えられ、1901年に大きく改められました。1986年に1日3つの名前の暦ができ、1993年に2つへ減らされます。今の暦は、2001年にスウェーデン・アカデミーがまとめたものです。

新しく生まれた子の人気の名前は、税務庁が毎年公表しています。2025年生まれの子の上位5つは、女の子がヴェラ・アストリッド・アリス・オリヴィア・エルサ。男の子はノア・フーゴ・リアム・ニルス・アルフレッドでした。名前の申請に3か月の猶予があるため、集計は翌年の6月中旬(2026年は6月15日)に更新されます。

名前の登録が税務庁の仕事であるように、スウェーデンの役所や法律の仕組みには、日本と違うところが多くあります。そうした社会の成り立ちを順に知るには、スウェーデンの子どもたちが学校で使う教科書を読むのが近道です。

名前から見えるスウェーデン

スウェーデンの名づけは、リストではなく1件ずつの審査です。3か月以内に申請し、第28条の3つの条件に触れなければ、GoogleやQのような名前も通ります。一方で姓には、父の名に「son」を付けた昔の名乗りが、アンデション約22万人という形で残っています。

スウェーデンの人と知り合ったら、名前の日がいつかを聞いてみてください。暦をめくれば、その人の名前が載っている日が見つかります。

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