雑学

ビッグ・ベンは時計台の名前じゃない?本当の意味

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
ビッグ・ベンは時計台の名前じゃない?本当の意味

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ロンドンの時計台をビッグ・ベンと呼ぶのは、正確ではありません。ビッグ・ベンは、塔の中に吊るされた重さ13.7トンの鐘につけられた愛称です。

塔の正式な名前は、2012年からエリザベス・タワーです。この鐘は一度割れて造り直され、2代目にもひびが入りました。1834年の大火事から2022年の大修理まで、塔と鐘の歩みを時代順にたどります。

1834年 火事から始まった時計塔

物語は火事から始まります。1834年10月16日、ロンドンの旧ウェストミンスター宮殿が炎に包まれ、大部分が焼け落ちました。

新しい議事堂の主任建築家は、チャールズ・バリーです。時計塔の細かなデザインは、協力者のオーガスタス・ピュージンが手がけました。ピュージンは1852年に亡くなっており、この塔が最後の設計になりました。

塔の工事は1843年9月28日に始まり、1859年に完成します。高さは96メートル。英国議会によると、ロンドンの2階建てバスを21台積み上げた高さです。鐘のある鐘楼までは334段の階段を上ります。

1844〜1859年 「1日1秒」をめぐる時計づくり

塔に置く時計には、厳しい条件がつきました。王室天文官のジョージ・エアリーが、時を告げる1打目を「1日の誤差1秒以内」にするよう求めたのです。

この難題に挑んだのが、時計学者のエドマンド・ベケット・デニソンです。設計はデニソンとエアリーが担い、時計職人エドワード・ジョン・デントが製作を請け負いました。デントの死後は息子のフレデリック・デントが引き継ぎ、1854年に時計を完成させます。

デニソンの工夫は、「二重三脚重力式脱進機」という仕組みです。風が針を押すなど、外からの力が振り子に伝わるのを防ぎます。これが塔の大時計を正確に動かす鍵になりました。

時計は1859年4月に据え付けられ、5月31日に動き始めました。振り子の長さは4.4メートルで、1振りに2秒かかります。いまも精度の調整には古い1ペニー硬貨を使います。振り子に1枚足すと、時計は1日に5分の2秒進みます。

1856〜1863年 割れた鐘と「ビッグ・ベン」の名

時計より苦労したのは鐘でした。最初の鐘は1856年8月6日、イングランド北部のストックトン・オン・ティーズで鋳造されます。重さは約16.3トン。ところがロンドンでの試し打ちの最中に割れてしまいました。

1858年4月10日、ロンドンのホワイトチャペル鐘鋳造所が鋳直します。2代目は約13.7トンと軽くなりました。1859年7月11日、この鐘が初めてロンドンの街に鳴り響きます。

喜びは2か月しか続きませんでした。1859年9月、2代目にもひびが入ったのです。鋳造所の責任者ジョージ・ミアーズは、デニソンが「指定された最大の重さの2倍を超えるハンマー」を使ったせいだと主張しました。

鐘は数年間鳴らされず、修理の方法が工夫されました。ひびの周りの金属を四角く削り取り、鐘を8分の1回転させて、ハンマーの当たる位置をずらしたのです。ハンマーも軽いものに替えられ、いまの重さは200キロです。ひびは今も埋められていません。私たちが聞いているのは、割れた鐘の音です。

愛称の由来も、この時期の謎です。有力なのは、議事堂の再建を監督した公共事業長官ベンジャミン・ホールにちなむという説です。鐘には彼の名が刻まれ、1856年10月22日のタイムズ紙も、ホールにちなんで「ビッグ・ベン」と呼ぶ案を報じました。もう一つは、同じ異名を持つボクサーのベン・カントにちなむという説です。どちらも決め手はなく、由来は決着していません。

塔の呼び名にも混乱が残りました。当時の下院議員はセント・スティーブンズ・ホールに集まっていたため、記者は議会のニュースを「セント・スティーブンズからの知らせ」と書きました。そこから時計塔を「セント・スティーブンズ・タワー」と呼ぶ人が出ましたが、正式名ではありません。同じ名前の塔は、一般の入口の上に別に立っています。

1918〜1977年 世界に届く音

ビッグ・ベンの音は、国の出来事と結びついていきます。第一次世界大戦中は鐘が止められ、休戦の日の1918年11月11日に再び鳴りました。

1923年12月31日からは、BBCがラジオのニュースの始まりに、鐘の音を生中継するようになりました。ロンドンの鐘の音が、ラジオを通じて国中の家に届くようになったのです。

1941年5月10日から11日にかけてのドイツ軍の空襲では、時計と塔が被害を受けました。

国王の国葬では、鐘が年齢の数だけ鳴らされます。1910年のエドワード7世は68回、1936年のジョージ5世は70回、1952年のジョージ6世は56回でした。

最大の故障は1976年8月5日に起きました。鐘を鳴らす装置の部品が壊れ、9か月の間に合計26日止まります。完全に動き出したのは、1977年5月9日でした。

2012〜2022年 エリザベス・タワーと大修理

2012年、塔に正式な名前がつきました。エリザベス2世の即位60年(ダイヤモンド・ジュビリー)を記念し、下院が6月2日に改名を決め、9月12日にキャメロン首相が「エリザベス・タワー」への改名を発表します。建物の反対の端には、ヴィクトリア女王にちなむヴィクトリア・タワーが立っており、その例にならった形です。

2017年8月21日の正午の鐘を最後に、ビッグ・ベンは長い沈黙に入ります。塔の大修理で、中で働く人の安全を守るためでした。ほぼ途切れずに鳴ってきた157年で、最も長い沈黙です。

修理費は当初の2,900万ポンドから6,900万ポンドへ膨らみ、予算の総額は約8,000万ポンドに達しました。4面の文字盤のガラスは、すべて新しくなりました。1面あたり324枚、合わせて1,296枚です。

2022年9月、エリザベス2世の国葬の日には、鐘は96回鳴らされました。96歳で亡くなった女王の年齢です。修理を終えたビッグ・ベンは、2022年11月13日から再び毎時の鐘を鳴らしています。

エリザベス・タワーとビッグ・ベンの年表
年できごと
1834年旧ウェストミンスター宮殿が火事で焼ける
1843年時計塔の工事が始まる(設計バリー、ピュージン)
1854年フレデリック・デントが時計を完成させる
1856年最初の鐘を鋳造。試し打ちで割れる
1858年ホワイトチャペル鐘鋳造所が鋳直す
1859年時計が動き出し、鐘が初めて鳴る。9月にひび
1923年BBCが鐘の音の生中継を始める
1941年空襲で時計と塔が被害を受ける
1976年最大の故障。翌年5月に再開
2012年塔がエリザベス・タワーに改名される
2017年大修理のため鐘が止まる
2022年11月に毎時の鐘が戻る

いまも残る、割れた鐘の音

ビッグ・ベンは、ひびを抱えたまま160年以上鳴り続けている鐘です。音の高さは「ミ(E)」。15分ごとに鳴る4つの小さな鐘と合わせて、あのおなじみの旋律を作ります。

塔の正確さも健在です。2024年の大みそかには、真夜中の1打目が正しい時刻から約1000分の5秒以内に鳴りました。塔の頂上近くにはエアトン・ライトという明かりがあり、議会が開かれているあいだ灯ります。

次にニュース映像であの音を聞いたら、映っている塔ではなく、中で鳴っている鐘を思い浮かべてみてください。ビッグ・ベンと呼んでいいのは、そちらだけです。

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