自然

世界一深いバイカル湖に、淡水の2割が眠っている?

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
世界一深いバイカル湖に、淡水の2割が眠っている?

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バイカル湖の最深部は1642メートルで、世界で最も深い湖です。水の量は約2万3600立方キロメートル。地表にある凍っていない淡水のおよそ2割が、この一つの湖に入っています。

深さも水の量も、年齢も生き物の数も、桁が違います。この記事では数字を順に並べながら、なぜこれほどの水がここに集まったのかを説明します。答えは、湖の底で今も広がり続ける大地の裂け目にあります。

最深部1642メートル、その下に7キロの泥

バイカル湖はロシアのシベリア南部、モンゴルとの国境に近い場所にあります。長さは636キロメートル、幅は最大で79キロメートル。細長い三日月の形をした湖です。

深さに関わる数字を並べると、次のようになります。

目を引くのは平均水深です。ほとんどの湖は岸から中央へ向かってゆるやかに深くなるため、平均すると最深部よりずっと浅くなります。バイカル湖は平均でも744メートルあり、湖全体が深い谷になっていることがわかります。

しかも湖底はそこで終わりではありません。水の底には厚さ約7キロメートルの泥や砂が積もっていて、固い岩盤までは水面から8〜11キロメートルあります。陸にある裂け目としては、地球で最も深い場所です。

世界の深い湖(最大水深)
湖場所最大水深
バイカル湖ロシア1642m
タンガニーカ湖アフリカ東部1470m
カスピ海中央アジアなど(塩湖)1025m
ボストーク湖南極(氷の下)約900m
田沢湖日本・秋田県423m

2位のタンガニーカ湖も、アフリカの大地が裂けてできた湖です。深い湖の上位は、どれも地殻の動きと深く関わっています。

年に約4ミリ広がる裂け目

バイカル湖は、川がえぐった谷でも氷河が削った窪地でもありません。大陸の地殻が左右に引き裂かれてできた溝に、水がたまったものです。こうした溝を地学ではリフト(地溝)と呼びます。

この裂け目は今も年に約4ミリメートルずつ広がっています。1年では気づかない幅ですが、100万年続けば4キロメートルになります。

ふつう湖は、流れ込む川が運ぶ土砂で少しずつ浅くなります。やがて湿地になり、最後は平地に変わっていきます。バイカル湖の底にも7キロメートル分の泥がたまりました。それでも埋まりきらないのは、底が沈んで広がる速さが、土砂のたまる速さを上回ってきたからです。

その結果、湖の年齢は2500万〜3000万年に達しました。今ある湖のなかで世界最古とされます。古くて深いという2つの特徴は、同じ1本の裂け目から生まれています。

琵琶湖の約860杯分の水

水の量を身近な湖と比べてみます。日本最大の湖、琵琶湖の貯水量は275億立方メートル(27.5立方キロメートル)です。

バイカル湖と琵琶湖を比べる
項目バイカル湖琵琶湖倍率
面積約3万1700km²約669km²約47倍
最大水深1642m約104m約16倍
水の量約2万3600km³27.5km³約860倍

面積は約47倍なのに、水の量は約860倍。この差を生んでいるのが深さです。広さが同じくらいの湖でも、深さが10倍なら水の量もおよそ10倍になります。

北米の五大湖と比べても同じことが言えます。五大湖は面積では世界最大の湖のまとまりですが、5つを合わせた水の量は約2万2700立方キロメートル。バイカル湖1つの方がわずかに多くなります。

水の出入りも数字にすると特徴がはっきりします。流れ込む川は最大で330本ほどあるのに、流れ出る川はアンガラ川ただ1本です。湖の水がすべて入れ替わるまでにかかる時間は、およそ330年と見積もられています。平均すれば、今の湖にある水は元禄のころに流れ込んだ計算です。入れ替わりが遅い湖は、一度汚れると元に戻るまでに長い時間がかかります。南岸のバイカリスクにあった製紙工場は、排水による汚染で40年以上も議論を呼び、2013年に破産して操業を終えました。

なお「淡水の2割」という数字は、資料によって19〜23パーセントと幅があります。分母になる世界の湖や川の水の総量が、資料ごとに違う方法で見積もられているためです。どの資料でも、1つの湖としては飛び抜けた割合であることに変わりはありません。

水の透明さも数字で表せます。冬の透明度は30〜40メートル、プランクトンが増える夏でも5〜8メートルです。この透明さを支えているのが、体長2ミリほどの甲殻類エピシュラ・バイカレンシスです。湖の生き物の重さの8〜9割をこの種が占めるとされ、年に最大1000立方キロメートルの水をこし取ります。湖の水すべてを約23年で一巡する速さです。

さらにバイカル湖は、深い場所まで酸素が届く珍しい湖です。タンガニーカ湖や黒海は上と下の水が混ざりにくく、底のほうは酸素が乏しくなっています。バイカル湖では水深300メートルより深いところでも水温が3.1〜3.4度で安定し、底まで生き物がすんでいます。

生き物を数で見る

2500万年以上、ほかの水系から切り離されてきたことで、この湖では独自の生き物が数多く育ちました。記録されている数は次のとおりです。

ヨコエビは、エビに近い小さな甲殻類の仲間です。バイカル湖では1つの湖のなかで350を超える種と亜種に分かれ、浅瀬から深い底まで、それぞれの場所に合った形に変わってきました。

魚のなかで最も量が多いのは、ゴロミャンカという固有の魚です。主に水深100〜500メートルの暗い層にすんでいます。一方、漁でとれる魚の多くは、オームリというサケ科の固有種です。

なかでも有名なのが、現地でネルパと呼ばれるバイカルアザラシです。体長は1.1〜1.4メートル、体重は63〜70キロほど。水深400メートルまで潜ることができ、50歳を超えて生きる個体も確認されています。

一生を淡水で過ごすアザラシの「種」は、世界でバイカルアザラシだけです。フィンランドのサイマー湖などにも淡水にすむアザラシはいますが、こちらは海にも仲間がいるワモンアザラシの亜種にあたります。

こうした価値が認められ、バイカル湖は1996年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。

よくある疑問

海から遠い湖に、なぜアザラシがいるのですか?
はっきりした答えはまだ出ていません。北の海から川を遡ってきたという説があります。大昔はバイカル湖が大きな水域を通じて海と結ばれていた、とする説もあります。湖にすみ着いてからの期間は、約200万年と見積もられています。
冬は湖が全部凍るのですか?
湖面はおおむね1月から5月まで凍ります。氷の厚さは平均で0.5〜1.4メートル、氷が盛り上がった場所では2メートルを超えます。凍るのは表面だけで、その下では深い水がゆっくりと動き続けています。

まとめ

バイカル湖の数字は、すべて1本の裂け目につながっています。年に約4ミリずつ広がる大地の溝が、1642メートルの深さと2500万年を超える年齢を生みました。深いから琵琶湖の約860杯分の水がたまり、古いから固有の生き物が育ちました。

地図でシベリアの南に細長い三日月を探してみてください。その1本の線の下に、地球の淡水の2割が眠っています。

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