落ちる途中で水が消える?世界一のアンヘルの滝
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南アメリカのベネズエラにあるアンヘルの滝は、落差979メートル。落ちる水の多くが、地面に届く前に霧のように変わってしまう滝です。途中でどこにも触れずに落ちる部分だけで807メートルあり、世界一高いビルとほぼ同じ高さです。
水が消えて見えるのは、蒸発ではなく、水が細かい粒にちぎれるからです。世界の高い滝や水量の多い滝、日本の滝と比べると、この滝の特別さがよく分かります。
世界の高い滝と比べる
アンヘルの滝の総落差979メートルは、1949年に測られた数字です。アメリカのジャーナリスト、ルース・ロバートソンが率い、ナショナルジオグラフィック協会が資金を出した調査隊が現地に入りました。測量士のペリー・ローリーが記録したのが、3,212フィート、つまり979メートルでした。ロバートソンの報告は、同じ年の『ナショナル ジオグラフィック』誌11月号に載っています。
このうち807メートルが、崖から一気に落ちる部分です。残りは、下の岩場を流れ下る段や急流です。
| 滝 | 国 | 総落差 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アンヘルの滝 | ベネズエラ | 979m | 一気に落ちる部分が807m |
| ツゲラ滝 | 南アフリカ | 948m(公式) | 5段に分かれ、最長の段は411m |
| トレス・エルマナス滝 | ペルー | 914m | 3姉妹を意味する名の滝 |
| オロウペナ滝 | アメリカ(ハワイ) | 900m | 米国でいちばん高い滝 |
| ユンビジャ滝 | ペルー | 896m | — |
| ヴィンヌフォッセン | ノルウェー | 845m | 一気に落ちる部分は575m |
表を見ると、2位以下も900メートル前後に並んでいます。アンヘルの滝が抜きん出ているのは、総落差よりも、途切れずに落ちる807メートルのほうです。この長さで並ぶ滝は、ほかにありません。
ただし総落差の世界一には、議論が残っています。2016年、チェコの調査隊がツゲラ滝を測り、983メートルという数値を出しました。データは世界の滝のデータベースに送られましたが、まだ確認されていません。ツゲラ滝はドラケンスバーグ山脈にあり、大雨のあとに最もよく見える季節性の滝です。そもそも滝の高さには決まった測り方がなく、どこから、どこまでを1つの滝と数えるかで数字が変わります。
807メートルという長さは、ドバイにある世界一高いビル、ブルジュ・ハリファ(829.8メートル)とほぼ同じです。その屋上から水を落とし続けている、と考えると規模がつかめます。
水量の多い滝と比べる:霧のでき方の違い
大きな滝の多くは、霧のような水しぶきをまといます。ただ、霧ができる理由は滝によって違います。
| 滝 | 落差 | 幅 | 平均の水量 | 霧ができる主な理由 |
|---|---|---|---|---|
| アンヘルの滝 | 979m | 細い1本の流れ | 乾季(12〜3月)は少ない | 長く落ちるうちに水がちぎれる |
| ヴィクトリアの滝(ザンビア・ジンバブエ) | 108m | 1,708m | 毎秒1,088トン | 大量の水がしぶきを上げる |
| イグアスの滝(アルゼンチン・ブラジル) | 最大82m | 2.7km | 毎秒1,756トン | 大量の水がしぶきを上げる |
ヴィクトリアの滝の水しぶきは、ふだんでも400メートル以上の高さに上がり、50キロ先から見えることもあります。現地のロジ語の名前「モシ・オア・トゥニャ」は、「雷鳴とどろく煙」という意味です。トンガ語では「沸き立つ水」と呼ばれます。こちらの霧は、幅1.7キロにわたって落ちる大量の水が生むしぶきです。
イグアスの滝は、水位によって150〜300本ほどの滝に分かれます。最大の「悪魔の喉笛」は幅80〜90メートルの細長い谷で、川の水のおよそ半分がここに落ちます。2014年6月9日には、毎秒4万5,700トンという記録的な水量を観測しました。高さで勝負するアンヘルの滝とは、まったく逆の迫力です。
アンヘルの滝の霧は、落ちる途中で生まれます。落ちる距離が長いほど、水の柱は空気の抵抗で細かい水滴にちぎれていきます。さらに、落ちる水そのものが下向きの風を起こし、崖にぶつかって舞い上がります。この乱れた空気が水滴を吹き散らすため、滝の下半分は白くぼやけて見えます。
霧は、目に見えないほど細かい水の粒です。湯気のように水が気体になって消えたわけではありません。散った水は下の岩に雨のように降り、ふたたび集まって川に戻ります。水の量が減る乾季には、滝つぼまで届く水がさらに少なくなります。
日本の滝と比べる
日本でいちばん高い滝は、富山県の称名滝で、落差350メートルです。ただし4つの段に分かれていて、一気に落ちる最長の段は126メートル。春の雪どけの時期には、すぐ隣に落差約500メートルのハンノキ滝が現れます。ただし一年中流れているわけではありません。そのため、日本一には数えられていません。
一段で落ちる滝の代表は、和歌山県の那智の滝です。ほぼ垂直の崖を、約133メートル落ちます。日本が治めている地域では、一段の滝として最も高い滝です。
- アンヘルの滝の総落差:称名滝の約2.8倍
- アンヘルの滝の一気に落ちる部分:那智の滝の約6倍
那智の滝の6つ分を、途中で一度も岩に触れずに落ちていく。日本の滝を見慣れた目には、想像しにくい長さです。
滝は、崖を削りながら少しずつ姿を変えていきます。北米のナイアガラの滝は、約1万年前に氷河が退いたあとに生まれ、いまも1年に約30センチずつ上流へ後退しています。称名滝は、およそ10万年前には今より約15キロ下流にあり、1年に約10センチずつ上流へ後退してきたと考えられています。アンヘルの滝の崖も割れ目の多い砂岩で、将来は岩の塊が崩れて、滝の位置が動くとみられています。
生まれた場所を比べる:テーブルのような山
アンヘルの滝は、水の出どころも少し変わっています。
水が落ちるのは、アウヤンテプイという山の砂岩の崖です。テプイとは、頂上が平らな台地になった、テーブルのような形の山のことです。大西洋から北東の貿易風が湿った空気を運び、台地にぶつかって上昇し、冷えて雨を降らせます。
雨の一部は台地の上を川になって流れます。残りは岩の割れ目にしみ込みます。滝の水の多くは、砂岩の地層の継ぎ目に沿ってできた空洞から崖の途中にわき出し、そのまま落ちていきます。
落ちた水はケレパ川からチュルン川、カラオ川へと流れ、最後は南アメリカの大河オリノコ川に入ります。一帯は、ユネスコの世界遺産カナイマ国立公園に含まれています。
名前に残る、1人の飛行士
滝の名前は、アメリカ人の飛行士ジミー・エンジェルにちなみます。彼が上空からこの滝を見たのは、1933年11月16日でした。
1937年10月9日、エンジェルは山頂への着陸に挑みます。ところが車輪が湿地にはまり、飛行機は動かなくなりました。一行は11日かけて歩き、ようやく人里にたどり着きます。残された機体は33年後にヘリコプターでつり上げられ、修復されて、いまはシウダー・ボリバルの空港に展示されています。
ベネズエラ政府の地図に「サルト・デル・アンヘル(アンヘルの滝)」と載ったのは、1939年12月です。いっぽう先住民ペモンの人たちは、この滝を「ケレパクパイ・メル」と呼んできました。「いちばん深い場所の滝」という意味です。2009年には、当時のチャベス大統領がこの名前への変更を唱えましたが、正式な改名には至りませんでした。
写真や映像で見るときは、滝つぼではなく崖の中ほどに注目してみてください。水の筋が白くぼやけ始めるあたりが、水が霧に変わる境目です。
参考にした資料