科学

これ以上下がれない温度がある?絶対零度の話

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
これ以上下がれない温度がある?絶対零度の話

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温度には下限があります。マイナス273.15度、絶対零度と呼ばれる点です。ケルビン目盛では0ケルビンにあたり、ここより低い温度は存在しません。

絶対零度には近づけても、たどり着くことはできません。人類が出した最も低い温度として知られるのは38ピコケルビン、1兆分の38ケルビンです。なぜ底があるのか、そこで何が起きているのかを、数字で順に見ていきます。

温度の正体は粒の動き

温度は「熱い・冷たい」という感覚を数値にしたものではありません。物質をつくっている原子や分子が、どれだけ激しく動いているかを表す量です。

暖かい空気の中では、空気の粒が速く飛び回っています。冷やすという作業は、この動きを鈍らせることにほかなりません。そして動きの遅さには行き止まりがあります。だから温度にも底ができるのです。

底から数えると、身の回りの温度はずいぶん高いところにあります。

身の回りから宇宙まで、温度をケルビンで並べる(NIST・NASA・ウィキペディアから作成)
もの・場所ケルビンセ氏
太陽の表面約5,800K約5,500度
室温約294K約21度
水が凍る温度273.15K0度
冬の朝(マイナス10度)263.15Kマイナス10度
宇宙マイクロ波背景放射2.725K約マイナス270度
ブーメラン星雲約1K約マイナス272度
絶対零度0Kマイナス273.15度

室温の約294ケルビンに比べると、宇宙を満たす背景放射の2.725ケルビンは100分の1以下です。ケルビンとセ氏の目盛は幅が同じで、出発点だけが273.15ずれています。ケルビンの数字から273.15を引けばセ氏になります。

背景放射の2.725ケルビンは、NASAのCOBE衛星が0.03%の精度で測った値です。背景放射そのものは、1964年にペンジアスとウィルソンが見つけました。

マイナス273.15度という底

絶対零度はマイナス273.15度です。この点をゼロとして数え直したものがケルビン目盛で、絶対零度が0ケルビンにあたります。カ氏ではマイナス459.67度です。

この値は、最初から正確に分かっていたわけではありません。底の位置の見積もりは、時代とともに下がってきました。

アモントンとケルビンの見積もりの差は約33度。気体を冷やしたときの圧力や体積の減り方を延ばしていくと、どこでゼロになるかで底を探ったのです。

2019年の改定の前は、ケルビンは水の三重点を基準にしていました。氷・水・水蒸気が同時に存在できる温度を273.16ケルビンと決め、その273.16分の1を1ケルビンとしていたのです。いまは特定の物質に頼らず、自然の定数で温度の目盛が決まっています。

動きが完全に止まるわけではない

「絶対零度ではすべての運動が止まる」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、絶対零度で残る動きは量子力学的な零点運動だけだと説明しています。つまり、零点運動というゆらぎは残ります。

量子力学の不確定性原理により、位置と速さを同時に完全には決められないためです。ヘリウムがふつうの圧力ではいくら冷やしても固体にならず、高い圧力をかけて初めて固まるのは、この残ったゆらぎが理由です。

消えるのは、熱として数えられる分の動きだけなのです。絶対零度の近くでは、ふだんは見えない量子の性質が表に出てきます。電気抵抗が消える超伝導や、粘り気のない液体になる超流動がその例です。

ヘリウムの数字を並べると、底の近くで起きることがよく分かります。

ヘリウムを初めて液体にしたのは、オランダのライデン大学のカメルリング・オネスで、1908年7月のことでした。液体ヘリウムはいま、病院のMRIで使う超伝導磁石を冷やす役目を担っています。

近づけても、たどり着けない

絶対零度は目標にはできますが、到達はできません。熱力学第三法則が、有限の回数の操作では絶対零度に達せないことを示しています。

冷たくなるほど次の一段を下りるのが難しくなり、階段の幅がどこまでも細かくなっていくためです。研究の現場では「到達したか」ではなく「どこまで近づけたか」を競うことになります。その記録は、想像よりずっと底に迫っています。

記録の表に出てくる単位を先に確かめておきます。

人工的につくった低温の例(各研究機関の発表から作成)
年実験温度
2014年イタリアのCUORE実験。約400キロの銅の容器(1立方メートル)を冷却0.006K(6ミリケルビン)
2015年マサチューセッツ工科大学。ナトリウムとカリウムの分子の気体(星間空間の100万倍以上冷たい)500ナノケルビン
2018年ドイツのブレーメン大学。ルビジウム原子の量子気体を落下塔で冷却(論文は2021年)38ピコケルビン

CUOREは、イタリアのグラン・サッソ国立研究所の地下にある実験です。2014年10月、1立方メートルの銅の容器を6ミリケルビンまで冷やし、15日以上その温度を保ちました。ニュートリノの性質を調べるための冷却です。

ブレーメン大学のチームは2018年8月、落下塔で量子気体を自由落下させ、磁場を切ったり入れたりして気体の広がりをほぼ止めることで冷やしました。地上の実験室では、落ちていく気体を観察できるのは22ミリ秒ほどしかありません。落下塔を使うと、それが秒の単位に延びます。38ピコケルビンを保てたのは約2秒。国際宇宙ステーションのような無重力の環境なら、最大17秒ほど保てると見込んでいます。

温度計で測ったわけではありません。原子の動きがきわめて遅いことから、この温度が求められています。粒の動きが温度の正体だからこそ成り立つ測り方です。

よくある疑問

マイナスのケルビン温度はありますか?
絶対零度より冷たい温度という意味では、ありません。ただし磁場の中の原子のスピンなど特殊な系では、計算上「負の温度」が現れます。これは絶対零度より冷たいのではなく、どんな正の温度よりも熱い状態を表しています。
宇宙で一番冷たい場所はどこですか?
自然の場所として知られているのは、約1ケルビンのブーメラン星雲です。宇宙全体を満たすマイクロ波背景放射の2.725ケルビンより低い温度です。実験室では、それよりはるかに低い38ピコケルビンまで達しています。

まとめ

冬の朝のマイナス10度も、絶対零度から数えれば263ケルビンです。私たちが寒いと感じている場所は、温度の底からずいぶん高いところにあります。次に氷点下の予報を見たとき、273を足してケルビンに直してみてください。

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