科学

氷に塩をかけるとなぜ冷える?温度のふしぎ

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
氷に塩をかけるとなぜ冷える?温度のふしぎ

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氷に塩をふりかけると、温度は0度で止まらず、最も低くてマイナス21度近くまで下がります。塩が氷の溶ける温度を引き下げ、氷が溶けるときに周りから熱を奪うからです。

冷やしているのは塩そのものではなく、「溶ける」という現象のほうです。この記事では氷だけの場合と塩を混ぜた場合を比べ、さらに塩の種類やほかの冷やし方とも比べながら、仕組みを見ていきます。

氷だけと、塩をかけた氷を比べる

水は0度で凍り、氷は0度で溶けます。氷だけを置いておくと、周りの熱で少しずつ溶けますが、温度は0度より下がりません。ところが水に何かが溶けていると、凍る温度と溶ける温度の境目が0度より下にずれます。これを凝固点降下(ぎょうこてんこうか)といいます。

氷の表面では、水分子が氷にくっつく動きと、氷からはがれる動きがつり合っています。塩が溶けた水では、塩の粒が氷の結晶に入り込めません。結果として水は、より低い温度にならないと凍れなくなります。下がる幅は溶けている粒の数で決まり、水1キログラムに1モルの粒が溶けると約1.86度下がります。食塩は水の中でナトリウムイオンと塩化物イオンの2つに分かれます。砂糖のように分かれない物質と比べると、同じモル数でおよそ2倍効くわけです。

温度が下がるのは、溶けるときに熱が要るからです。1グラムの氷を溶かすのに必要な熱は約334ジュール。1グラムの水を1度温める熱(約4.18ジュール)のおよそ80倍です。

塩をかけた氷は0度を下回っても溶け続け、この大きな熱を周りから奪い続けます。イリノイ大学の物理の解説によると、氷と塩をマイナス18度ほどまで冷やすのに、溶ける必要がある氷は全体の6分の1ほどです。

どこまで下がるかは、溶けてできた塩水の濃さで決まります。同じ解説では、濃さ10%の食塩水はマイナス6度ほど、20%ではマイナス16度ほどで凍ります。米国連邦道路庁の資料によると、濃さ約23%で下限に達し、その温度はおよそマイナス21度です。この点を共晶点(きょうしょうてん)と呼びます。ここを越えて塩を足しても、溶け残るだけで温度は下がりません。

塩の種類で比べる

氷の溶ける温度を下げるのは、食塩だけではありません。冬の道路にまく凍結防止剤には、いくつかの塩が使われています。カナダ政府の道路用の塩に関する評価書は、主な塩の値を次のように並べています。

塩の種類ごとの比較(カナダ政府の評価書より)
塩下げられる限界(共晶点)道路で効く温度の目安
塩化カリウムマイナス10.5度マイナス3.89度
塩化ナトリウム(食塩)マイナス21度0〜マイナス15度
塩化マグネシウムマイナス33.3度マイナス15度
塩化カルシウムマイナス51.1度マイナス23度より下

塩化カルシウムの共晶点が低いのは、水の中で3つのイオンに分かれるからです。食塩が2つに分かれるのに対し、同じ量でも溶けている粒の数が多くなります。濃さ約30%の塩化カルシウム水は、マイナス51度まで液体のままです。

粒の数の違いは、計算でも確かめられます。2022年の化学教育の論文が示した予測値では、水1キログラムに1モルを溶かした食塩水はマイナス3.7度ほどで凍ります。同じ1モルの塩化カルシウム水では、マイナス5.6度ほどです。1.86度に粒の数の2と3をかけた値と、ほぼ一致します。食塩を3モルに増やすと予測値はマイナス11.2度、5モルではマイナス18.6度まで下がります。

溶けるときの熱にも違いがあります。米国連邦道路庁の資料によると、塩化カルシウムの粒は水に溶けるときに多くの熱を出します。食塩が溶けるときの熱の出入りは小さく、イリノイ大学の解説も、氷と塩が冷える主な理由は溶解の熱ではないと説明しています。冷えるのは、あくまで氷が溶けるからです。

ほかの冷やし方と比べる

マイナス21度という数字が、どれくらい冷たいのか。身近な冷やし方と並べると、次のようになります。

冷やし方ごとの温度の比較
冷やし方温度の目安冷える仕組み
氷だけ0度氷が溶ける熱を奪うが、0度より下がらない
家庭用冷凍庫(星3つ)食品の温度がマイナス18度以下電気で冷やし続ける
氷+食塩最も低くてマイナス21度ほど凝固点降下と、氷が溶ける熱
ドライアイスマイナス78.5度二酸化炭素の固体が、液体を経ずに気体になる

シャープの解説では、冷凍室の星3つの表示は、食品の温度がマイナス18度以下になる性能を表します。氷と塩を混ぜた寒剤(かんざい)は、条件が揃えばそれより低い温度を作れます。だから冷凍庫がなくても、材料を入れた袋や容器を氷と塩の中で振り続ければ、アイスクリームが固まります。氷だけでは0度どまりで、砂糖や乳脂肪を含むアイスの材料は固まりません。

この方法は、化学の授業の題材にもなっています。2022年に化学教育の専門誌に載った報告では、高校や大学の一般化学向けに、濃さの違う食塩水の氷でアイスクリームを作る実験が紹介されました。濃い食塩水の氷ほどアイスがしっかり固まり、逆さにしたスプーンから落ちにくい結果でした。報告によると、塩水が濃いほど、温度が共晶点にとどまる時間が長くなります。

ドライアイスはずっと低い温度ですが、扱いには注意が要ります。消費者庁の注意喚起では、マイナス78.5度の物に素手で触れると凍傷を起こすおそれがあり、気体になると体積が約750倍にふくらむとされています。

冬の道路にまく塩と比べる

凍結防止剤として道路にまく塩も、氷の溶ける温度を下げる同じ理屈で働いています。ただし、台所の実験と道路とでは条件が違います。表の「共晶点」は、理想的な条件で溶かせる限界です。実際の道路では、気温が低いほど塩の働きが遅くなります。米国連邦道路庁の資料は、マイナス9度より低いと食塩を使うのは実用的でないと考える道路管理者もいると紹介しています。

北陸地方整備局の研究発表会の論文によると、防氷剤には一般に塩化ナトリウムと塩化カルシウムが使われています。日本では価格の面から輸入の天日塩が使われ、海外では岩塩が多く使われています。同じ論文は、日本の積雪寒冷地域が国土の約62%を占めるとしています。広い地域に毎冬まくには、効く温度の幅だけでなく値段も大切になるわけです。

同じ食塩でも、作り方で効き目が違います。同じ論文によると、地中や塩湖から掘り出す岩塩は、水を含まない塩で防氷の性能が最も優れています。塩田で海水などを蒸発させた天日塩のうち、水を含む形の物は、性能が水を含まない塩の62%ほどです。海水を釜で煮詰めるせんごう塩は高価なので、防氷剤には使われません。また、マイナス15度より暖かい氷の表面には液体の薄い層があります。マイナス7度より暖かいと層が厚くなり、タイヤが滑りやすくなるとされています。

台所で比べてみる

氷と塩と温度計があれば、この違いは台所で確かめられます。ボウルを2つ用意し、片方には氷だけを入れます。もう片方には氷と塩を入れてかき混ぜ、数分おきに温度を読みます。それだけで、0度で止まる氷と、その下へ進む氷の差が見えてきます。塩の量を変えて何度まで下がるかを記録すれば、自由研究にもなります。

手作りアイスのような実験を、原理の図解と一緒に試したい人には、実験を集めた図鑑が手引きになります。同じ「冷える」でも、何が熱を奪っているのかを意識して比べると、結果の見え方が変わります。

氷を溶かすはずの塩が、氷を冷たくする。一見あべこべなこの現象は、「溶けるには熱が要る」という単純な事実の表れでした。次に冬の道路で白い粒を見かけたら、それが共晶点の手前で働いている塩だと思い出してください。

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