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タマムシの体はなぜ見る角度で色が変わるのか

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
タマムシの体はなぜ見る角度で色が変わるのか

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タマムシの体が見る角度で色を変えるのは、殻の表面に重なった薄い膜が、光をはね返し合って色を作っているからです。色素の色ではなく、形が生む「構造色」です。

ヤマトタマムシの緑の部分には16層、紫のすじには12層の膜が積み重なっています。この記事では殻の中の構造から法隆寺の玉虫厨子の今まで、浮かびやすい疑問を順に取り上げます。

タマムシの色は、色素の色ではないの?

色素の色ではありません。絵の具やインクの色は、光の一部を吸収して残りを返すことで生まれます。赤い絵の具が赤く見えるのは、赤以外の光を吸収しているからです。

タマムシの殻には、緑や紫の色素が塗られているわけではありません。表面の細かい構造に当たった光が、はね返り合って色になります。神奈川県立生命の星・地球博物館は、構造色を「色素をもった色の反射ではなく」、光の回折・屈折・干渉・散乱によって微細構造がもたらす色だと説明しています。

同じ博物館の展示室には、ヤマトタマムシのほかにも構造色の例が並んでいます。青く輝くモルフォチョウ・カケスの青い羽・虹色に光るオパールなどです。シャボン玉の表面が虹色に見えるのも、薄い膜で光が干渉する同じ仲間の現象です。

殻の中は、どうなっているの?

薄い膜が何枚も積み重なっています。オランダのフローニンゲン大学と浜松医科大学の研究チームが、2004年の夏に浜松医科大学の構内で採ったヤマトタマムシを調べ、2011年に英国王立協会の学術誌で報告しました。

電子顕微鏡で殻の断面を見ると、緑の部分は16層、紫のすじの部分は12層でした。積み重なりの全体は、どちらも厚さ約1.3マイクロメートル。1ミリの約800分の1です。

膜の材料は、甲殻類の殻などにも使われるキチンに、黒い色素のメラニンが混ざったものです。メラニンは明確な層に分かれず、多い所と少ない所が波のように繰り返しています。そのため、光の曲がり方(屈折率)がわずかに違う層が交互に重なる形になります。繰り返しの1周期は、緑の部分で約160ナノメートル、紫の部分で約205ナノメートルでした。

研究チームは、この層の屈折率を約1.7と見積もっています。それまでの研究で使われてきた2.0より小さい値です。緑の部分で見積もられた2種類の層の値は1.59と1.67で、差はわずか0.08です。それでも層を何枚も重ねると、はね返る光が積み重なって色になります。

なぜ見る角度で色が変わるの?

膜は1枚ごとに光の一部をはね返します。はね返った光どうしは、波の山と山が重なれば強め合い、山と谷が重なれば打ち消し合います。強め合った色だけが目に届くので、特定の色が鮮やかに見えます。

見る角度を変えると、光が膜のあいだを行き来する道のりが変わります。そのため、強め合う色がずれます。斜めから見るほど、強め合う色は波長の短い側、つまり青や紫の側へ動きます。

2011年の研究によると、真上から光を当てたとき、緑の部分は波長約530ナノメートル付近の光を強くはね返しました。紫のすじでは約700ナノメートル付近で、赤い光の端にあたります。角度を広く変えたときの色は、次のように動きます。

光の角度とヤマトタマムシの色の変化(Stavenga ほか 2011 をもとに作成)
部分角度が小さいとき角度を大きくすると
緑の部分約45度まで緑青から紫へ。70度を超えると白っぽくなる
紫のすじ約30度まで暗い赤〜茶60度付近で赤〜橙。さらに大きいと黄色から白へ

層が厚い紫のすじは、緑の部分より長い波長の光を返します。表のとおり、浅い角度では暗い赤や茶色に光っています。層の枚数と厚さが違うだけで、1匹の体に別の色が並ぶわけです。

斜めに光った色には、ほかにどんな特徴があるの?

光の振動の向きがそろいます。光は進む向きに対して横に揺れる波で、ふだんの太陽の光は、揺れる向きがばらばらです。

研究チームによると、殻に約60度の角度で当たってはね返った光は、揺れの向きが1方向に強くそろっていました。計算では、ある揺れの向きの光がほとんど反射しなくなる角度は約69度です。

研究チームは、この光り方が仲間を見分ける合図として働いている可能性を考えています。枝にとまっているメスの居場所を知らせる手掛かりになる、という仮説です。論文の時点では検証前で、今後確かめると書かれています。

色の正体に最初に気づいたのはだれ?

最初の手掛かりを得たのは、イギリスのロバート・フックです。1665年の著書『ミクログラフィア』で、フックはクジャクの羽が見る角度で色を変えることを取り上げました。フックはその色を「幻想的」と呼び、色のついた部分を水でぬらすと色が消えてしまうことも書いています。

色素なら、水にぬれても色は残るはずです。フックは顕微鏡で羽の細かい構造を観察し、光の反射と屈折が色を生んでいると考えました。

この説明に反対したのが、光を小さな粒の流れと考えたアイザック・ニュートンです。それでもニュートンは1704年の『光学』で、クジャクの羽の色は透明な部分の薄さから来ると書き、色素ではなく薄い構造に結び付けました。光を波として説明する「干渉」の考えが実験で示されたのは、1803年のトマス・ヤングです。フックの観察から、およそ140年かかったことになります。

構造色は、色あせないの?

色素は光や熱で分解すると色が薄れます。構造色は、形が保たれていれば同じ色を返し続けます。神奈川県立生命の星・地球博物館の学芸員は、化石のアンモナイトが紅色に光る例を挙げ、貝殻の真珠層の構造が化石として残ったのだろうと書いています。

この「形で色を出す」仕組みは、身近な製品にも使われています。欧州の科学教育誌Science in Schoolによると、きらきら光る口紅には、薄い層を何枚も重ねた粒子が入っています。同誌は、プラスチックの表面に無数の小さな穴を開け、穴の直径を変えるだけで色を付け分ける欧州の研究も紹介しています。

ただし、構造そのものが壊れれば色も失われます。フックの観察でも、羽を水でぬらすだけで色が消えました。色素なら水で色が消えることはありません。構造色は、色が消える理由も色素とはまったく違います。

玉虫厨子の翅は、今どうなっているの?

ほとんど残っていません。奈良・法隆寺に伝わる国宝の玉虫厨子は、7世紀に作られたとされる高さ約2.3メートルの厨子で、今は境内の大宝蔵院に安置されています。金銅の透かし彫りの金具の下に、タマムシの翅が敷き詰められていました。

構造色は色素より薄れにくくても、翅という材料そのものが千年以上の時間に耐えきれませんでした。あせにくいのは色の仕組みであって、物ではありません。

2008年には、中田金太さんのプロデュースで「平成の玉虫厨子」が作られました。復刻版と平成版の2基があり、復刻版は法隆寺に奉納されています。

タマムシ以外にも、甲虫やチョウには構造色を持つ種類がたくさんいます。体の色を写真で並べて比べるなら、昆虫図鑑を開くと、どの仲間が金属のように光るのかがひと目で分かります。

まとめ

タマムシの色は、キチンとメラニンでできた厚さ約1.3マイクロメートルの膜の重なりが、光を強め合わせて作る構造色です。緑の部分は16層、紫のすじは12層で、見る角度を変えると強め合う色が青や紫の側へずれます。

次にタマムシや玉虫色の製品を見かけたら、手元で少し角度を変えて眺めてみてください。色が動けば、それは色素ではなく、光が層のあいだで重なり合っている証拠です。

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