ヒトデは腕1本から体を作り直せるって本当?
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本当です。ただし、腕1本から全身を作り直せるのは、リンキア属など一部の種だけです。多くの種は、体の中心にある盤(ばん)の一部が残っていないと、全身の再生はできません。
再生には時間もかかります。傷がふさがるのに48時間、小さな腕が見えるまで3〜6か月、元に戻るまでは1年以上。この記事では、ヒトデの再生を数字でたどります。
数字で見るヒトデ
ヒトデは、ウニやナマコと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間です。棘皮は「とげのある皮」という意味で、皮膚の下に小さな骨の板が並んでいます。まずは、基本の数字を並べます。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 現生の種の数 | 約1,900種(7つの目) |
| 腕の数 | 多くは5本。10〜15本の種もあり、南極のラビディアステル・アヌラトゥスは50本を超えることも |
| すんでいる深さ | 浅い磯から水深約6,000mまで |
| 腕の先の目 | 1つの眼点に、80〜200個の小さな眼が集まる |
| 化石の記録 | 約4億5000万年前(オルドビス紀)から |
| 寿命の記録 | 北米西岸のピサスター・オクラケウスで最長34年 |
5本の腕を持つ種が多いのは、棘皮動物が体を5つに分けた放射状の形をしているからです。腕の数は種によって違っても、その多くが失った腕を作り直す力を持っています。
再生にかかる時間
敵に襲われると、ヒトデは自分から腕を切り離して逃げます。これを自切(じせつ)といいます。残った本体では、すぐに再生が始まります。
自切は、腕がぽきっと折れるような一瞬の出来事ではありません。リンキア属で観察された例では、腕の裏側に小さなひびが入り、それが周りへ広がっていきます。最後は腕と本体の管足(かんそく)が反対向きに引っ張り合い、2つに分かれます。再生は3段階に分かれます。傷をふさぐ修復期、神経などの土台ができる初期再生期、組織や器官が本格的に作られる後期再生期です。
| 切断からの時間 | 体で起きていること |
|---|---|
| 48時間以内 | 切り口が新しい皮でおおわれる |
| 約1週間 | 修復のための組織が育ちきる |
| 3〜6か月 | 小さな腕の形が見えてくる |
| 1年以上 | 元の大きさに近づく |
腕は、ただの手足ではありません。1本の腕の中には、胃から伸びた消化腺が2本と、生殖腺が2つ入っています。皮や骨格だけでなく、こうした器官まで作り直すので、元の形に戻るには時間がかかります。
どこまで残れば全身に戻るか
ヒトデの再生力は、残った部分の量で3つに分けられます。
- 体の半分以上と盤が残っていれば、失った腕を生やし直せる(多くの種。2本失っても2本とも戻る)
- 半分以下でも、盤の一部が残っていれば全身を作れる
- 盤がまったくない腕1本からでも全身を作れる(ごく一部の種)
3つ目ができる代表が、熱帯の浅い海にすむリンキア属です。リンキア・ムルティフォラは直径5〜13cmほどで、北は日本まで分布しています。ワイキキ水族館は、リンキアを「腕1本から全身を作り直せる数少ないヒトデの1つ」と紹介しています。長い腕1本の先に小さな腕が4本生えた姿は、彗星にたとえて「コメット」と呼ばれます。
リンキア属のリンキア・ムルティフォラでは、1935年に発表された、ハワイでの観察の数字が残っています。
- 研究室に運んだ50匹のうち18匹が、24時間以内に1本以上の腕を自切した(3匹に1匹以上)
- 腕が切れる位置は、多くが盤から約2.5cmのところ
- 切り口の傷が治るまで約10日。切られたばかりの腕は、傷口からの細菌感染で死ぬものが多かった
- 長さ1cmを超える腕の切れ端なら、全身を再生できた
- 1cmほどの腕がそろった新しい盤ができるまで約10か月
盤が大事なのは、食べるための器官が集まっているからです。ワイキキ水族館によると、リンキアは腕の裏の溝に並ぶ小さな管足で海底の細かな有機物を拾い、盤の中央にある口へ運びます。切り離された腕には、口も消化管もありません。腕にたくわえた栄養で持ちこたえながら、盤ができるのを待ちます。ワイキキ水族館によると、海水に溶けた有機物を体の表面から取り込んでいる可能性も指摘されています。リンキアは敵から逃げるときに限らず、数を増やすためにも自分から腕を落とします。卵を使わない繁殖の1つの形です。
「切れば増える」は本当か
「ヒトデを切って海に捨てたら、かえって増えた」という話があります。どの種でも起きる話ではありませんが、まったくの作り話でもありません。
サンゴを食べるオニヒトデについて、1960年代に漁業者や自然保護の関係者が、捕まえた個体を切って海へ戻したことがありました。英語版Wikipediaの解説は、この駆除が西太平洋のサンゴ礁での大発生を、気づかないうちに悪化させた可能性があると書いています。盤が残る切り方をすれば、破片から全身が戻る種もあるからです。日本でも沖縄県で、2001年の終わりごろから沖縄島周辺と慶良間諸島でオニヒトデの大量発生が起き、県や漁協などが駆除を続けています。
体を2つに割って増える種もいます。腕が6本の種は3本ずつに分かれ、7本の種は3本と4本に分かれます。こうした「分裂」で増える仲間は、コスキナステリアス属など限られたグループです。そのうちステファナステリアス・アルブラは腕の長さが18mmを超えない小さな種で、分裂は1年か2年に1回、春と夏に限られます。多くの種では、盤のない腕の切れ端は新しい個体になりません。
ヒトデの仲間が体の形をどう使い分けているかは、写真で見比べるほうがよく分かります。ヒトデやウニ、クラゲなど水の中の無脊椎動物をまとめて見るなら、生き物の図鑑が役に立ちます。
よくある疑問
- ヒトデの頭は、どこにありますか?
- 2023年11月に学術誌ネイチャーに載った研究によると、体のほとんどが頭のようなものです。スタンフォード大学や英サウサンプトン大学などのチームは、イトマキヒトデの仲間の子どもの体を調べました。日本の磯でよく見るイトマキヒトデと同じ属の、北米にすむ種です。遺伝子が働く場所を立体的な地図にすると、頭を作る遺伝子の仕組みは腕の中まで広がっていました。一方で、胴体を作る仕組みは見当たりませんでした。研究チームは、ヒトデなどの棘皮動物は「頭だけのような動物」とみるのが近いとしています。共著者のクリス・ロウは、ヒトデの体の向きを「何世紀も続く動物学の謎」と表現しています。
- 水族館で、再生中のヒトデを見分けられますか?
- 腕の長さを比べると分かります。小さな腕が見えるまで3〜6か月、元の大きさに戻るまで1年以上かかるので、その間は1本だけ短い腕が残ります。長い腕1本に短い腕が並ぶ「コメット」の形なら、腕1本から再生している途中です。
まとめ
ヒトデが腕1本から体を作り直せるのは事実です。ただし、それができるのはリンキア属などごく一部で、多くの種は盤が残っていないと全身に戻れません。再生には、傷がふさがる48時間から元の大きさに戻る1年以上まで、長い時間がかかります。
いちばん再生が得意なリンキアでも、1cmを超える腕の切れ端から新しい盤ができるまでに約10か月かかります。
次に水族館や磯でヒトデを見かけたら、腕の本数と長さを数えてみてください。1本だけ短い腕があれば、それは自切から再生している途中の印です。
参考にした資料
- Waikīkī Aquarium — Linckia Sea Star
- Wikipedia — Starfish regeneration
- Smithsonian Magazine — A Starfish 'Body' Is Just One Giant Head, Study Finds
- Wikipedia — Linckia multifora(自切の位置・再生にかかる時間)
- Wikipedia — Asexual reproduction in starfish(Edmondson 1935の観察・分裂する種)
- Stanford University Lowe Lab — Body plan evolution(Formery ほか 2023, Nature)
- Nature 623(2023)— Molecular evidence of anteroposterior patterning in adult echinoderms(書誌情報)
- 沖縄県 — オニヒトデについて(大量発生の経緯と対策)