科学

吹き飛ばすのではなく吸い込む、掃除機を生んだ発想

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
吹き飛ばすのではなく吸い込む、掃除機を生んだ発想

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動力で吸い込む掃除機は、ほこりを吹き飛ばす機械を見た技師が、向きを逆にしようと考えたことから生まれました。1901年、イギリスの技師ヒューバート・セシル・ブースの発想です。

ただし、ブースが本当に工夫したのは吸う力ではなく、空気だけを通してごみを残すフィルターでした。この記事では、初期の掃除機と今の掃除機を比べながら、「ごみを逃さない」仕組みがどう受け継がれてきたかを見ていきます。

吹き飛ばす機械を、吸い込む機械に変えた

ブースは1871年生まれのイギリスの技師です。機械メーカーのモーズリー社に勤め、ロンドン、ブラックプール、パリ、ウィーンの遊園地にある大観覧車を設計しました。

1901年、ブースはロンドンのエンパイア・ミュージックホールで、アメリカ製の掃除機械の実演を見ます。圧縮した空気を吹きつけて、カーペットのほこりを飛ばす機械でした。飛んだほこりは、結局また部屋のどこかに落ちます。

ブースは逆に吸い込めばよいと考え、レストランで確かめました。ビロード張りのいすにハンカチを広げ、口を当てて吸い込んだのです。ハンカチを裏返すと、布の裏側にほこりが付いていました。布1枚で、空気を通しながらほこりを止められると分かった瞬間です。

同じ年の2月18日と8月30日に、ブースは特許を取りました。できあがった機械は「パッフィング・ビリー」と呼ばれ、ガソリンエンジンでピストンポンプを動かし、布のフィルターを通して空気を吸い込みます。大きすぎて建物には入らないため、馬が引く車に載せて家の前に停め、窓からホースを差し込んで掃除しました。

ブースは1901年にブリティッシュ・バキューム・クリーナー社を設立し、機械を売るのではなく、出張清掃のサービスとして提供しました。「バキューム・クリーナー」という言葉は、この会社の1901年の設立趣意書で初めて使われたとされています。1902年には、エドワード7世の戴冠式を前に、ウェストミンスター寺院のじゅうたんを清掃しました。

初期の掃除機を比べる

ブースの機械が「世界初の掃除機」というわけではありません。吸い取る掃除の工夫は、それより40年ほど前から試されています。

初期の掃除機の比較(Wikipedia・東芝ライフスタイルの資料をもとに作成)
年考えた人・会社動力ごみの取り方
1860ダニエル・ヘス(米国)手動回転ブラシとふいごで吸う
1868アイブス・マカフィー(米国)手回しファンで吸う「ワールウィンド」
1898ジョン・サーマン(米国)動力空気を吹きつけて飛ばす
1901ヒューバート・セシル・ブース(英国)ガソリンエンジン吸い込み、布のフィルターで止める
1908ジェームズ・M・スパングラー(米国)電気持ち運べる吸引式。特許をフーバーに売る
1931芝浦製作所(現在の東芝)電気日本初のアップライト型真空掃除機

1860年と1868年の機械は、人の手で動かす方式でした。動力で吸い込む方式を実用にしたのは1901年で、同じ年にアメリカのデビッド・T・ケニーも、ブースとは別に吸引式の機械を作っています。ブースが実演で見た機械は、1898年にサーマンが特許を取った吹きつけ式に近いものだったと考えられています。

家庭へ広がるきっかけは、1908年に特許を得たスパングラーの電気掃除機でした。特許を買い取ったウィリアム・フーバーが売り出した最初の型は、60ドルでした。日本では1931年、芝浦製作所が110円で「VC-A型」を発売しています。アメリカのGE社の製品を手本にした機種で、この「VC」は、東芝の掃除機の型番に今も受け継がれています。

掃除機は「吸う」のではなく「押し込まれる」

掃除機の中では、電気で回るファンが空気を外へ追い出し、本体の中の気圧を下げています。すると周りの大気の圧力によって、空気とほこりがノズルから押し込まれます。家庭用の掃除機では、本体の中の気圧は外より約20キロパスカル低くなります。大気圧の5分の1ほどです。

押し込まれた空気は、どこかから外へ出なければなりません。その出口にごみを止める仕組みがないと、ほこりは排気といっしょに部屋へ戻ります。ブースのフィルターが大事だったのは、この点です。

カタログに載る「消費電力」は、電気をどれだけ使うかの数字で、掃除の力を表すものではありません。ホースの先で実際に使える力を表す数字としては「吸込仕事率」があり、ワットで表します。欧州連合(EU)は2014年に1600ワットを超える掃除機の販売を禁じ、2017年には上限を900ワットまで下げました。

紙パック式とサイクロン式を比べる

今の家庭用掃除機の多くは、ごみの止め方で2つの方式に分かれます。紙パックそのものをフィルターにする紙パック式と、空気を回転させる遠心力でごみを分けるサイクロン式です。

紙パック式とサイクロン式の比較(日立・パナソニックの説明をもとに作成)
項目紙パック式サイクロン式
ごみのため方紙パックにためる遠心力で空気と分け、ダストケースにためる
ごみ捨てパックごと捨てる。ごみに触れにくいこまめに捨てる。捨てるときに舞わないよう注意
お手入れほぼ不要フィルターなどを定期的に手入れ
続けてかかる費用紙パック代(日立の例で年1,848〜8,800円)紙パックは不要
吸う力の変化パックにごみがたまると落ち、交換で戻る落ちにくいとされる

サイクロン式の家庭用掃除機は、イギリスのジェームズ・ダイソンが広めました。1993年にイギリスで発売した「DC01」は、200ポンドでした。東芝も2017年に、フィルターを使わないサイクロン式のごみ収集台が付いたコードレス掃除機を出しています。

日立もパナソニックも、どちらが優れているとは決めつけていません。ごみに触れたくない人や手入れを減らしたい人は紙パック式、消耗品の費用をかけたくない人やこまめにごみを捨てられる人はサイクロン式、というのが選ぶ目安です。どちらの方式も、ごみを機械の中に残すという役割はブースのフィルターと同じです。

方式を選ぶための掃除機

紙パック式とサイクロン式を比べて選ぶときの例として、2点を選びました。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。

サイクロン式スティック:ツインバード サイクロンスティック型クリーナー TC-E123/TC-E124 約6,480円。コードで給電するサイクロン式で、柄を外すとハンディとしても使えます。コードの長さは4.5メートルです。
向いている人:充電を気にせず、紙パック代をかけずに使いたい人。注意:コード式なので、コンセントから離れた場所では延長が必要です。ダストケースのごみはこまめに捨てます。

ハンディクリーナー:アイリスオーヤマ 充電式ハンディクリーナー(紙パック式 HBD-31/サイクロン式 HCD-23ほか) 約7,960円。同じ大きさのハンディで、紙パック式とサイクロン式の型から選べます。重さは約0.5キロ、標準モードで約20分使えます。
向いている人:机の上や車内など、小さな範囲の掃除用に、方式を選んで1台持ちたい人。向かない人:部屋全体を1台で掃除したい人。ごみをためられる量は0.15リットルです。

120年変わらない「逃さない」発想

ブースの掃除機は、1901年に「吹き飛ばす」を「吸い込む」へ逆にした発想から生まれました。その中心にあったのは、空気を通してごみだけを止める布のフィルターです。馬車で運んだパッフィング・ビリーから、紙パック式やサイクロン式の今の掃除機まで、この役割は変わっていません。

次に掃除機を選ぶときは、消費電力の数字より先に、ごみをどこで止めて、どう捨てる方式なのかを見比べてみてください。毎日のごみ捨てと手入れのしやすさが、使い続けやすさを決めます。

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