科学

割れても飛び散らないガラスは、落としたフラスコから?

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
割れても飛び散らないガラスは、落としたフラスコから?

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割れても破片が飛び散らないガラスは、合わせガラスと呼ばれます。考案したのはフランスの化学者エドゥアール・ベネディクトゥスで、1909年に特許を出願しました。

きっかけは、薬品の入ったフラスコを床に落とした失敗だったと語られてきました。ただしこの逸話は、研究者から「歴史というより伝説に近い」と指摘されています。この記事では、合わせガラスについて浮かびやすい疑問を順に取り上げます。

本当に、落としたフラスコから生まれたの?

よく知られた話はこうです。1903年、ベネディクトゥスは実験室で、空のフラスコを床に落としました。フラスコには以前、ニトロセルロース(硝酸セルロース)という樹脂を溶かした液が入っていて、乾いたあとの薄い膜が内側に残っていました。

落ちたフラスコはひび割れたものの、形を保っていました。破片が膜に張り付いて、その場から離れなかったのです。

この話には、別の見方もあります。2025年、アメリカのノースダコタ州立大学のセス・ラスムッセンは、化学の専門誌に論文を発表しました。実験室の事故の話は「記録された歴史というより神話に近くなった」として、当時の記録から経緯をたどり直しています。ベネディクトゥスは化学者であると同時に、装飾デザインを手がける芸術家でもありました。発明の話は、本人の語りを通して広まった部分が大きいのです。

特許にしたのはいつ?

確かなのは、1909年に特許を出願したことです。ガラスの破片で女性2人が大けがをした自動車事故を知ったことが、動機だったと伝えられています。製品は「トリプレックス」と名付けられ、1911年には同じ名の会社ができました。

1912年には、イギリスのトリプレックス・セーフティ・グラス社に製法の使用が許されます。第一次世界大戦では、ガスマスクの覗き窓に広く使われました。顔のすぐ前にあるガラスが割れても、破片が目に入らないからです。

ただし、「最初の合わせガラス」を名乗れるのは1人ではありません。1902年にはフランスの会社が、ガラスをセルロイドで覆う特許を取っています。1905年にはイギリスのジョン・クルー・ウッドが、カナダバルサムという天然の樹脂で貼り合わせた自動車の風よけを特許にしました。ベネディクトゥスの功績は、2枚のガラスで膜をはさむ形を製品として広めた点にあります。

割れても飛び散らないのはなぜ?

合わせガラスは、2枚のガラスで樹脂の膜(中間膜)をはさんで接着した構造です。割れても膜が破片を抱えたままなので、穴があきにくく、飛び散りません。

よく使われる組み合わせは、厚さ2.5ミリのガラス2枚で0.38ミリの膜をはさむもので、全体で5.38ミリになります。自動車の前面ガラスは、合わせて約6.5ミリです。

ひびがクモの巣のように広がるのは、膜が破片をつなぎ止めているからです。自動車事故で怖いのは、衝突そのものに加えて、飛んできたガラス片による切り傷です。同じ理由で、合わせガラスは天窓や、ハリケーンの多い地域の店の窓や外壁にも選ばれています。

強化ガラスとはどう違う?

同じ安全ガラスでも、強化ガラスは考え方が違います。ガラスを620度ほどまで熱し、空気を吹きつけて一気に冷やします。

表面が先に固まるため、表面には押し縮める力、内部には引っ張る力が残ります。この状態のガラスは、ふつうの板ガラスの約4倍の強さです。割れるときは、角の丸い小さな粒になって崩れます。

弱点もあります。強化したあとは切ることも、穴をあけることもできません。加工は強化の前に済ませます。また、ガラスの中に混じった硫化ニッケルの粒が原因で、ごくまれに何もしていないのに割れることがあります。

考案されたのは合わせガラスより早く、1874年でした。フランス人のド・ラ・バスティが、熱した油にガラスを浸す方法でイギリスの特許を取っています。

仕組みの原型は、さらに古くから知られていました。溶けたガラスを水に落として作る「ルパートの滴」です。1660年、ルパート王子がイギリスへ持ち込み、国王チャールズ2世に贈ったことからこの名があります。丸い頭はハンマーでたたいても割れにくいのに、細い尾を折ると全体が一瞬で粉々になります。表面の押し縮める力と内部の引っ張る力が、強化ガラスと同じ形で残っているからです。

熱を使わない強化の方法もあります。溶かした硝酸カリウムにガラスを浸し、表面のナトリウムを、より大きなカリウムに入れ替える「化学強化」です。複雑な形のガラスにも使えます。

安全ガラスと網入りガラスの比べ方
種類作り方割れたとき考案
合わせガラス2枚のガラスで樹脂の膜をはさむ破片が膜に張り付いて残る1903年(特許出願は1909年)
強化ガラス約620度に熱して急に冷やす角の丸い粒になって崩れる1874年
網入りガラスガラスの中に金属の網を入れる網が破片を枠にとどめる1892年

網入りガラスは割れにくいの?

見た目は頑丈そうですが、網入りガラスは網のないガラスより割れやすいとされています。中の金属網が、ガラスのつながりを途中で断ち切ってしまうからです。アメリカでは2006年、建物の国際基準によって、網入りガラスは事実上使えなくなりました。

日本では、網入りガラスは建築基準法の「防火設備」によく使われます。AGC(旧・旭硝子)の2009年の発表では、防火設備に使うガラスの9割以上が網入りでした。同じ発表は欠点として、網が視界をさえぎることと、網の錆などが原因で「熱割れ」を起こしやすいことを挙げています。熱割れは、日差しで温まったガラスの中に生じる力が、ガラスの耐えられる限度を超えて割れる現象です。

中間膜の樹脂はなぜ変わった?

初期の中間膜は、ニトロセルロースやセルロイドといったセルロース系の樹脂でした。

1927年、カナダの化学者ハワード・マセソンとフレデリック・スキローが、ポリビニルブチラール(PVB)という樹脂を作りました。1936年にはアメリカの会社が、PVBの合わせガラスは変色せず、突き破られにくいことを確かめます。その後5年ほどで、合わせガラスの98%がPVBを使うようになりました。

PVBは、紫外線もよく吸収します。窓ガラスで約88%、自動車の前面ガラスでは約97%の紫外線を遮ります。同じ厚さの1枚ガラスと比べると、音も通しにくくなります。膜の役目は、割れにくさだけではなくなりました。

車の窓はどう使い分けている?

自動車では、前面が合わせガラス、側面と後面が強化ガラスという使い分けが一般的です。前面ガラスに求められるのは、割れても前が見えることと、体や物が突き抜けにくいことです。

日本の国の基準(道路運送車両の保安基準の細目告示)も、前面ガラスに2つの条件を挙げています。損傷しても運転者の視野を確保できること、容易に貫通されないことです。さらに、運転に必要な範囲では、目に見える光を70%以上通すことも求めています。

発明が特許になり、製品として社会に広がるまでの道筋は、合わせガラスに限らず似た形をたどります。身近な道具の発明の経緯を、ほかの例と並べて読みたいなら、子ども向けに図解した本が入り口になります。

まとめ

合わせガラスは、2枚のガラスで樹脂の膜をはさみ、割れても破片を膜に残す仕組みです。フラスコの逸話は確かめきれない部分を残しますが、1909年の特許出願から第一次世界大戦のガスマスク、自動車の前面ガラスへと使い道を広げてきました。

次に車に乗るときは、前の窓と横の窓を見比べてみてください。同じ透明な板でも、割れたときに破片を残すものと、粒になって崩れるものが使い分けられています。

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