開発のヒントは囲碁だった、QRコードの日本生まれの技術
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QRコードは、日本の自動車部品メーカー、デンソー(今のQRコードの事業はデンソーウェーブ)で生まれた技術です。技術者の原昌宏さんらが1992年に開発を始め、1994年に発表しました。基本の形のヒントは、昼休みに打っていた囲碁の碁盤です。
バーコードが英数字で20文字ほどしか持てなかったのに対し、QRコードは数字なら最大7,089文字を入れられます。この記事では「20文字」「1対1対3対1対1」「30%」といった数字を手がかりに、QRコードの中身を見ていきます。
20文字では足りなかった工場
出発点は、工場の部品管理でした。それまで使われていた縦線のバーコードは、横方向にしか情報を持てません。デンソーウェーブによると、記録できるのは英数字で20文字ほどです。部品1つに何枚ものバーコードを貼り、1枚ずつ読み取る必要がありました。
原さんが開発に取りかかったのは1992年です。チームは原さんともう1人の2人で、動くコードができるまでに約1年半かかりました。
日本学士院のインタビューで、原さんは「最初のヒントになったのは碁盤でした」と語っています。縦と横のマス目に黒と白の石を並べれば、線の太さで表すバーコードより、ずっと多くの情報を置けます。
碁盤からもらったヒントは、もう1つあります。碁石は置くたびに少しずれ、プラスチック製の石は欠けることもあります。それでも盤面は読めます。原さんは、読み取る側で判断すれば、多少汚れたり壊れたりしたコードでも読めるはずだと考えました。この考えが、後で見る誤り訂正につながります。
1対1対3対1対1の四角形
QRコードの3つの隅にある「回」の形の四角形は、切り出しシンボルと呼ばれます。読み取り機はまずこの印を探し、コードがどこにあって、どちらを向いているかを判断します。だからQRコードは、上下左右どの向きからでも、360度読み取れます。
この四角形の中心を線で横切ると、黒・白・黒・白・黒の幅の比はどの向きでも1対1対3対1対1です。開発チームは、チラシや雑誌・段ボールなどの印刷物を白黒にして、模様の比率を何日も調べました。そして印刷物の中に最も現れにくい比率として、この数字を選んでいます。書類の罫線や絵柄と取り違えないための工夫です。
デンソーウェーブによると、QRコードは他のコードより10倍以上速く読み取れます。「QR」は、英語のQuick Response(素早い反応)の頭文字です。
177マス四方・7,089文字・30%
QRコードの白黒の小さな四角を、モジュールと呼びます。QRコードには、モジュールの数が違う40種類の大きさ(バージョン)があります。いちばん小さいバージョン1は21×21で、バージョンが1つ上がるごとに1辺が4モジュールずつ増えます。いちばん大きいバージョン40は177×177です。
辺の長さは「バージョン×4+17」で計算できます。バージョン10なら57×57、バージョン20なら97×97です。入れる文字が多いほど、大きいバージョンが選ばれます。
反対に、小さい方向にも仲間がいます。2004年にJISになったマイクロQRコードは、切り出しシンボルが1つだけです。いちばん小さいものは11×11モジュールで、数字なら5文字、最大のものでも数字35文字を入れられます。電子部品のように、印刷できる場所が狭いものに向いた形です。
入れられる文字の数は、文字の種類によって変わります。バージョン40で、誤り訂正をいちばん弱くした場合の上限は次のとおりです。
| 文字の種類 | 最大の文字数 | バーコードとの比較 |
|---|---|---|
| 数字 | 7,089文字 | バーコードは英数字で約20文字 |
| 英数字 | 4,296文字 | |
| バイナリ(8ビット) | 2,953文字 | |
| 漢字・かな | 1,817文字 |
英数字どうしで比べると、約20文字に対して4,296文字。200倍を超える差です。漢字を1,800文字あまり入れられるのは、日本の工場で生まれたコードならではの特徴といえます。
7〜30%まで、汚れても読める
工場のコードは油で汚れ、店先のコードは破れます。そこでQRコードには、リードソロモン符号という誤り訂正の技術が組み込まれました。データに計算用の余分な情報を足して記録し、欠けた部分を計算で復元する仕組みです。この符号は1960年にアメリカのアーヴィング・リードとギュスターヴ・ソロモンが考えたもので、CDやDVD・探査機ボイジャーの通信にも使われてきました。
訂正の強さは4段階から選べます。デンソーウェーブによれば、復元できる割合の目安は次のとおりです。
- レベルL:約7%
- レベルM:約15%
- レベルQ:約25%
- レベルH:約30%
強くするほど余分な情報が増えるので、同じ大きさのコードに入る文字は減ります。上の表の7,089文字は、いちばん弱いレベルLでの数字です。デンソーウェーブは、汚れやすい工場ではレベルQかH、きれいな環境で多くのデータを入れるならレベルLを挙げています。最もよく選ばれるのは、中間のレベルMです。
1997年から2024年まで、規格と特許
QRコードが世界に広がった背景には、規格化と特許の扱いがあります。主な年を並べると、次のようになります。
- 1994年:デンソーがQRコードを発表
- 1997年:自動認識の業界団体AIMの規格に
- 1999年:日本の工業規格(JIS)に
- 2000年:国際規格ISO/IEC 18004に(2006年・2015年・2024年に改訂)
- 2002年ごろ:日本で一般の人にも広く使われ始める
- 2012年:グッドデザイン賞を受賞(発表から18年後)
デンソーウェーブはQRコードの特許を持っています。ただし、規格どおりのQRコードについては権利を行使しないと宣言しました。原さんは日本学士院のインタビューで、特許にしても普及に時間がかかればコストはなかなか回収できない、と話しています。ものづくりは得意でも広めるのが不得意なら、オープンにして使いやすい環境を作るほうが理にかなう、という判断です。
同じインタビューでは、2021年に4か国で行った調査も紹介されています。QRコードを使ったことがある人の割合は、英国91%・中国88%・米国77%・日本61%でした。役に立ったと答えた人も、英国81%に対して日本は42%です。生まれた国の日本より、海外のほうが利用が進んでいます。
情報を記号に置き換えて正しく伝える工夫は、QRコードよりずっと古い歴史を持ちます。文字を入れ換えたり表を使ったりして秘密を守る暗号の歴史は、読み物の本のほうが詳しく追えます。
よくある疑問
- QRコードは暗号なのですか?
- 暗号ではありません。QRコードは文字を白黒の模様に置き換える「符号」で、決まった手順を知っていれば誰でも読めます。規格が公開されているので、スマートフォンのカメラでそのまま読み取れます。
まとめ
QRコードは、1992年に2人で始めた開発から生まれました。英数字20文字のバーコードを、数字7,089文字のコードに変えた工夫は3つです。碁盤のマス目、1対1対3対1対1の四角形、最大30%を復元する誤り訂正です。そして特許を使わないという判断が、世界への広がりを後押ししました。
次にスマートフォンでコードを読むときは、3つの隅の四角形を数え、マス目の細かさからバージョンを想像してみてください。碁盤から始まった工夫が、そこに残っています。
参考にした資料
- 日本学士院 — PJAニュースレター No.16 インタビュー(原昌宏氏)
- デンソーウェーブ QRcode.com — QR Code development story
- デンソーウェーブ QRcode.com — Error correction feature
- デンソーウェーブ QRcode.com — QRコード開発ストーリー
- デンソーウェーブ QRcode.com — Information capacity and versions of QR Code
- Wikipedia — QR code(最大文字数・ISO/IEC 18004の版)
- Wikipedia — Reed–Solomon error correction