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ミツバチは言葉なしでどう花の場所を伝えるのか

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
ミツバチは言葉なしでどう花の場所を伝えるのか

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ミツバチは、花の方向と距離を「尻振りダンス」で仲間に伝えます。直進する向きが方向を、お尻を振る時間の長さが距離を表します。

この踊りを解読したカール・フォン・フリッシュは、1973年にノーベル生理学・医学賞を受けました。ただ、本当にダンスで伝わっているのかは長く論争になり、決着したのは2005年のレーダー実験です。2023年には、踊り方を先輩から学んでいることもわかりました。

ミツバチはどうやって花の場所を伝えるの?

花を見つけた働きバチは巣に戻り、巣板の上で踊ります。踊りは大きく2種類です。花が近いときは、その場でぐるぐる回る円ダンス。これは「近くに花がある」という合図で、方向までは示しません。

花が遠いときは、8の字を描く尻振りダンスに切り替わります。お尻を振りながらまっすぐ進み、左へ回って戻り、もう一度まっすぐ進んで今度は右へ回る。この動きのくり返しです。情報の本体は、まっすぐ進む部分にあります。

切り替わる距離は、ミツバチの種類によって違います。生物学の教科書サイトLibreTextsは、円ダンスを巣から50〜75メートルまで、と説明しています。一方で、イタリアンミツバチでは10メートルほどまでが円ダンスで、40メートルを超えると尻振りダンスになるという報告もあります。

方向はどうやって伝えるの?

巣の中は真っ暗で、巣板は垂直に立っています。ミツバチはこの巣板の真上を、太陽の方向に見立てて踊ります。真上に向かって進めば、花は太陽と同じ方向にあるという意味です。花が太陽から右へ40度の方角なら、真上から右へ40度傾けて進みます。

重力の向きを、太陽の方角に置き換えているわけです。太陽は時間とともに動くので、同じ花を知らせる踊りの角度も少しずつ変わります。暗い巣の中に長くいたハチも、太陽が動いた分だけ角度をずらして踊ります。

曇りの日でも、青空が少し見えれば迷いません。空の光は一部が偏光していて、その向きは太陽の位置で決まります。ミツバチはこの偏光を見分けられるので、太陽そのものが見えなくても方角がわかります。

尻振りダンスの読み方
踊りの要素伝えている情報
まっすぐ進む向き(真上からの角度)花の方向(太陽の方角からの角度)
お尻を振る時間の長さ花までの距離
踊りの熱心さ・くり返す回数花や候補地の良さ

距離は何で測っているの?

距離は、まっすぐ進みながらお尻を振る時間で表します。2021年、ドイツのコールさんとルッチュマンさんがカーニオラン種(カルニカ種)を調べました。お尻を振る時間は、100メートル先の花で約0.41秒、1.7キロ先で約2.20秒。距離が17倍になっても、時間は5.4倍にしか増えていません。遠くなるほど、時間の伸び方がゆるやかになるのです。

著者たちは、距離と時間の対応はミツバチの種類や地域の集団ごとに違い、共通の目盛りはないと書いています。

では、飛んだ距離そのものはどう測るのか。手がかりは、目に流れる景色の速さです。2001年にネイチャーに載った実験では、内側に模様を付けた細いトンネルでハチを飛ばしました。巣から11メートルの所で、トンネルの奥にえさを置くと、ハチは70メートル先にあるかのように踊りました。そのダンスを見た仲間は、トンネルを素通りして70メートルほど先まで飛んでいきました。狭いトンネルでは景色が速く流れるので、実際より遠くまで飛んだと感じるわけです。

逆の例もあります。高さ50メートルのビルの屋上から飛んだハチは、地上を同じ230メートル飛んだハチに比べて、およそ半分の距離を踊りで伝えました。高い所を飛ぶと、地面の景色がゆっくり流れるからです。

この「言葉」を解読したのは誰?

解読したのは、1886年にウィーンで生まれた動物学者、カール・フォン・フリッシュです。1923年にミツバチの「言葉」についての論文を出し、1927年の著書『ミツバチの生活から』でダンスの考えを示しました。1946年には『ミツバチのダンス』を出版しています。

研究の集大成は、1967年に英訳された『ミツバチのダンス言語と定位』です。1973年には、個体と社会の行動パターンに関する発見で、ノーベル生理学・医学賞を受けました。同時に受賞したのは、コンラート・ローレンツとニコ・ティンバーゲンです。

本当にダンスで伝わっているの?

フリッシュの説には、反対する研究者もいました。仲間はダンスの「暗号」を読み取っている訳ではない。踊るハチの体に付いた花の匂いを覚え、その匂いを頼りに探しているだけだ、という反論です。踊ったハチの後をついて行くだけ、という見方もありました。巣を出たハチがどこを飛ぶのか、当時は確かめる方法がなかったため、論争は長く続きます。

決着をつけたのは、イギリスのロザムステッド研究所とベルリン自由大学のチームです。2005年5月、科学誌ネイチャーに結果が載りました。ダンスを見たハチを巣の出口で捕まえ、小さな電波の反射器を付けて、ハーモニック・レーダーで飛ぶ道筋を記録しました。

えさ場の近くでは、匂いや目印を頼りに探し回る時間が長くかかりました。到着までのこの遅れが、匂い説の根拠の1つになっていたのです。

踊り方は生まれつき?

生まれつきだけでは決まりません。2023年、中国科学院とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームが、科学誌サイエンスに結果を発表しました。チームは、同じ日齢の若いハチだけで群れを作りました。先輩の踊りを一度も見られない環境です。

こうして育ったハチの最初のダンスは、角度のずれが大きく、動きも乱れていました。距離の表し方も正しくありません。角度のずれは、ほかのハチの踊りを見て練習するうちに小さくなりました。ところが距離のずれは、一生直りませんでした。先輩を見て育ったハチには、どちらの問題も出ていません。

研究チームは、生まれてすぐ言葉に触れる人間の子どもや、さえずりを習う若い鳥の例を挙げています。アジアとヨーロッパのミツバチを一緒に飼うと、互いのダンスの「方言」を少しずつ覚えるという研究もあります。

花さがし以外にも踊るの?

新しい巣を探すときにも踊ります。春に群れが分かれる「分蜂」では、女王バチと一緒に巣を出たハチが、木の枝などに一時的に固まります。そこから探索バチが飛び立ち、見つけた候補地の方向と距離、良さをダンスで知らせます。良い候補地ほど熱心に踊るので、そこを見に行くハチが増えていきます。

候補地に20〜30匹ほどの探索バチが集まると、群れの引っ越し先が決まります。群れは巣から運んだ蜜で3日ほどしか持たないため、話し合いは数時間から数日で終わります。この「会議」の進め方は、アメリカの研究者トーマス・シーリーが野外の実験で詳しく調べています。踊りの熱心さで意見がまとまっていく様子は、本で順を追って読むと分かりやすい話です。

まとめ

ミツバチは、巣板の真上を太陽に見立てて方向を、お尻を振る時間で距離を伝えます。100メートル先なら約0.41秒、1.7キロ先なら約2.20秒です。フリッシュの解読は1920年代に始まり、2005年のレーダー実験で、仲間が本当に踊りの示す方向へ飛ぶことが確かめられました。

そして2023年には、踊り方の一部が先輩から学ぶものだとわかりました。次に花に来たミツバチを見かけたら、巣に戻ってから踊る角度を考えてみてください。そのときの太陽の位置と花の方角が分かれば、踊りの向きが予想できます。

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