ミツバチは言葉なしでどう花の場所を伝えるのか
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ミツバチは、花の方向と距離を「尻振りダンス」で仲間に伝えます。直進する向きが方向を、お尻を振る時間の長さが距離を表します。
この踊りを解読したカール・フォン・フリッシュは、1973年にノーベル生理学・医学賞を受けました。ただ、本当にダンスで伝わっているのかは長く論争になり、決着したのは2005年のレーダー実験です。2023年には、踊り方を先輩から学んでいることもわかりました。
ミツバチはどうやって花の場所を伝えるの?
花を見つけた働きバチは巣に戻り、巣板の上で踊ります。踊りは大きく2種類です。花が近いときは、その場でぐるぐる回る円ダンス。これは「近くに花がある」という合図で、方向までは示しません。
花が遠いときは、8の字を描く尻振りダンスに切り替わります。お尻を振りながらまっすぐ進み、左へ回って戻り、もう一度まっすぐ進んで今度は右へ回る。この動きのくり返しです。情報の本体は、まっすぐ進む部分にあります。
切り替わる距離は、ミツバチの種類によって違います。生物学の教科書サイトLibreTextsは、円ダンスを巣から50〜75メートルまで、と説明しています。一方で、イタリアンミツバチでは10メートルほどまでが円ダンスで、40メートルを超えると尻振りダンスになるという報告もあります。
方向はどうやって伝えるの?
巣の中は真っ暗で、巣板は垂直に立っています。ミツバチはこの巣板の真上を、太陽の方向に見立てて踊ります。真上に向かって進めば、花は太陽と同じ方向にあるという意味です。花が太陽から右へ40度の方角なら、真上から右へ40度傾けて進みます。
重力の向きを、太陽の方角に置き換えているわけです。太陽は時間とともに動くので、同じ花を知らせる踊りの角度も少しずつ変わります。暗い巣の中に長くいたハチも、太陽が動いた分だけ角度をずらして踊ります。
曇りの日でも、青空が少し見えれば迷いません。空の光は一部が偏光していて、その向きは太陽の位置で決まります。ミツバチはこの偏光を見分けられるので、太陽そのものが見えなくても方角がわかります。
| 踊りの要素 | 伝えている情報 |
|---|---|
| まっすぐ進む向き(真上からの角度) | 花の方向(太陽の方角からの角度) |
| お尻を振る時間の長さ | 花までの距離 |
| 踊りの熱心さ・くり返す回数 | 花や候補地の良さ |
距離は何で測っているの?
距離は、まっすぐ進みながらお尻を振る時間で表します。2021年、ドイツのコールさんとルッチュマンさんがカーニオラン種(カルニカ種)を調べました。お尻を振る時間は、100メートル先の花で約0.41秒、1.7キロ先で約2.20秒。距離が17倍になっても、時間は5.4倍にしか増えていません。遠くなるほど、時間の伸び方がゆるやかになるのです。
著者たちは、距離と時間の対応はミツバチの種類や地域の集団ごとに違い、共通の目盛りはないと書いています。
では、飛んだ距離そのものはどう測るのか。手がかりは、目に流れる景色の速さです。2001年にネイチャーに載った実験では、内側に模様を付けた細いトンネルでハチを飛ばしました。巣から11メートルの所で、トンネルの奥にえさを置くと、ハチは70メートル先にあるかのように踊りました。そのダンスを見た仲間は、トンネルを素通りして70メートルほど先まで飛んでいきました。狭いトンネルでは景色が速く流れるので、実際より遠くまで飛んだと感じるわけです。
逆の例もあります。高さ50メートルのビルの屋上から飛んだハチは、地上を同じ230メートル飛んだハチに比べて、およそ半分の距離を踊りで伝えました。高い所を飛ぶと、地面の景色がゆっくり流れるからです。
この「言葉」を解読したのは誰?
解読したのは、1886年にウィーンで生まれた動物学者、カール・フォン・フリッシュです。1923年にミツバチの「言葉」についての論文を出し、1927年の著書『ミツバチの生活から』でダンスの考えを示しました。1946年には『ミツバチのダンス』を出版しています。
研究の集大成は、1967年に英訳された『ミツバチのダンス言語と定位』です。1973年には、個体と社会の行動パターンに関する発見で、ノーベル生理学・医学賞を受けました。同時に受賞したのは、コンラート・ローレンツとニコ・ティンバーゲンです。
本当にダンスで伝わっているの?
フリッシュの説には、反対する研究者もいました。仲間はダンスの「暗号」を読み取っている訳ではない。踊るハチの体に付いた花の匂いを覚え、その匂いを頼りに探しているだけだ、という反論です。踊ったハチの後をついて行くだけ、という見方もありました。巣を出たハチがどこを飛ぶのか、当時は確かめる方法がなかったため、論争は長く続きます。
決着をつけたのは、イギリスのロザムステッド研究所とベルリン自由大学のチームです。2005年5月、科学誌ネイチャーに結果が載りました。ダンスを見たハチを巣の出口で捕まえ、小さな電波の反射器を付けて、ハーモニック・レーダーで飛ぶ道筋を記録しました。
- 多くのハチは、えさ場の近くまでまっすぐ飛んだ
- 横風で流されても、進路を直していた
- 巣から最大250メートル離れた所で放しても、本来えさ場があるはずの方向へ飛んだ
えさ場の近くでは、匂いや目印を頼りに探し回る時間が長くかかりました。到着までのこの遅れが、匂い説の根拠の1つになっていたのです。
踊り方は生まれつき?
生まれつきだけでは決まりません。2023年、中国科学院とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームが、科学誌サイエンスに結果を発表しました。チームは、同じ日齢の若いハチだけで群れを作りました。先輩の踊りを一度も見られない環境です。
こうして育ったハチの最初のダンスは、角度のずれが大きく、動きも乱れていました。距離の表し方も正しくありません。角度のずれは、ほかのハチの踊りを見て練習するうちに小さくなりました。ところが距離のずれは、一生直りませんでした。先輩を見て育ったハチには、どちらの問題も出ていません。
研究チームは、生まれてすぐ言葉に触れる人間の子どもや、さえずりを習う若い鳥の例を挙げています。アジアとヨーロッパのミツバチを一緒に飼うと、互いのダンスの「方言」を少しずつ覚えるという研究もあります。
花さがし以外にも踊るの?
新しい巣を探すときにも踊ります。春に群れが分かれる「分蜂」では、女王バチと一緒に巣を出たハチが、木の枝などに一時的に固まります。そこから探索バチが飛び立ち、見つけた候補地の方向と距離、良さをダンスで知らせます。良い候補地ほど熱心に踊るので、そこを見に行くハチが増えていきます。
候補地に20〜30匹ほどの探索バチが集まると、群れの引っ越し先が決まります。群れは巣から運んだ蜜で3日ほどしか持たないため、話し合いは数時間から数日で終わります。この「会議」の進め方は、アメリカの研究者トーマス・シーリーが野外の実験で詳しく調べています。踊りの熱心さで意見がまとまっていく様子は、本で順を追って読むと分かりやすい話です。
まとめ
ミツバチは、巣板の真上を太陽に見立てて方向を、お尻を振る時間で距離を伝えます。100メートル先なら約0.41秒、1.7キロ先なら約2.20秒です。フリッシュの解読は1920年代に始まり、2005年のレーダー実験で、仲間が本当に踊りの示す方向へ飛ぶことが確かめられました。
そして2023年には、踊り方の一部が先輩から学ぶものだとわかりました。次に花に来たミツバチを見かけたら、巣に戻ってから踊る角度を考えてみてください。そのときの太陽の位置と花の方角が分かれば、踊りの向きが予想できます。
参考にした資料
- Biology LibreTexts — Honeybee Navigation
- PeerJ / PMC — Honey bees communicate distance via non-linear waggle duration functions
- PubMed(Science 2023)— Social signal learning of the waggle dance in honey bees
- Wikipedia — Waggle dance(種類ごとの切り替え距離・方言)
- Wikipedia — Karl von Frisch
- ScienceDaily — Bees equipped with radar solve waggle dance controversy(2005年)
- ScienceDaily — Complex learned social behavior discovered in bee's waggle dance(2023年)
- Wikipedia — Swarming (honey bee)(分蜂と巣探し)