ご飯をよく噛むとなぜ甘くなる?唾液のはたらき
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ご飯を噛むほど甘くなるのは、唾液に含まれるアミラーゼという酵素が、でんぷんを麦芽糖などの甘い糖に切り分けているからです。砂糖は1粒も加わっていません。
甘みが出るまでには2分ほどかかり、感じ方には個人差があります。この変化は、ご飯をゆっくり噛むだけで確かめられます。オブラートとうがい薬を使えば、でんぷんが分解される様子を目で見ることもできます。
甘みの正体は、口の中で切られたでんぷん
ご飯の主成分はでんぷんです。でんぷんは、ブドウ糖という甘い粒が何百、何千とつながった長い鎖でできています。
ところが、舌にある甘みのセンサーが反応するのは、ブドウ糖や麦芽糖のような小さな糖です。鎖が長いままの、でんぷんの状態では甘く感じません。炊きたてのご飯を口に入れた瞬間に甘くないのは、このためです。
唾液のアミラーゼは、でんぷんの鎖を途中で切る酵素です。噛むほどご飯と唾液が混ざり、鎖が短く切られて、麦芽糖(ブドウ糖2つ)やマルトトリオース(ブドウ糖3つ)に変わります。噛むうちに広がる甘みは、口の中で作られたばかりの糖の味です。
この働きが記録されたのは1831年です。エルハルト・フリードリヒ・ロイクスが、唾液がでんぷんを分解することを報告し、その成分をプチアリンと名づけました。ギリシャ語の「唾液」から取った名前です。
炊くことにも意味があります。生のでんぷんは粒の中で鎖が規則正しく並び、酵素が入り込めません。水と一緒に加熱すると並びがほどけ(糊化)、アミラーゼが働きやすくなります。お米を炊くのは、柔らかくするためだけではないのです。
ご飯で確かめる:何回目で甘くなる?
甘みが出るまでの時間は、研究で測られています。2019年に味覚の専門誌Chemical Sensesに載った研究では、28人にでんぷん入りのガムを噛んでもらいました。2分ほど噛み続けたところで、口の中の麦芽糖が「甘いと感じる境目」を超えました。
数回噛んで飲み込むだけでは、酵素の仕事が間に合いません。次の手順で試してみてください。
- 白いご飯をひと口、おかずなしで口に入れる。
- 時計を見ながら、ゆっくり噛み始める。回数も数える。
- 「甘い」と感じた瞬間の回数と秒数を覚えておく。
- 2分たっても甘くなければ、そのまま噛み続けて変化を待つ。
- 家族にも同じ手順で試してもらい、回数を比べる。
甘みは、口の中の糖の濃さが境目を超えたところで感じ始めます。それまでの1分あまりは、ただのご飯の味が続きます。
オブラートで確かめる:でんぷんが消える瞬間
甘さは人によって感じ方が違います。そこで、でんぷんが分解される様子を目で見る方法もあります。愛媛県総合教育センターが紹介している、小学6年生向けの実験です。
使うのは、薬を包むオブラートです。オブラートはジャガイモのでんぷんでできています。でんぷんはヨウ素に触れると青紫色になり、分解されると色が消えます。ヨウ素液の代わりに、ヨウ素を含むうがい薬(イソジンガーグルなど)でも試せます。
- コップに水20ミリリットルを入れ、2分間口に含んでから戻す。これが唾液の液になる。
- 小皿に40℃くらいのぬるま湯を10ミリリットル入れ、うがい薬を少し垂らして混ぜる。
- 液の上にオブラートを1枚、静かに浮かべる。すぐに青紫色に染まる。
- オブラートの上に、ただの水と唾液の液を1滴ずつ、離して落とす。
- 5〜10分待って、2か所を比べる。
唾液を落としたところだけ、オブラートに穴が開き、その下の液の色が消えます。水を落としたところは何も変わりません。でんぷんが糖に分解され、ヨウ素と反応しなくなったのです。
同じセンターは応用も紹介しています。油性ペンで字を書いたオブラートを、薄めた唾液の液に浮かべる方法です。オブラートだけが溶けてなくなり、書いた文字が水面に残ります。
ぬるま湯を使うのは、アミラーゼが体温に近い温度でよく働くからです。湯がすぐ冷める季節は、皿ごと40℃くらいのお湯につけておくと結果が出やすくなります。
うがい薬は飲み込まないように扱い、実験に使った皿やコップは食器と分けて洗ってください。
甘さの感じ方は、人によって違う
同じように噛んでも、全員が同じ甘さを感じるわけではありません。先ほどの2019年の研究では、でんぷんの甘みを毎回感じ取れた人と、まったく感じなかった人を比べました。両者では、口の中の糖の濃さに大きな差がありました。
- 毎回感じ取れた人:平均51.5ミリモル毎リットル
- まったく感じなかった人:平均30.0ミリモル毎リットル
差を生むのは、唾液に含まれるアミラーゼの働きの強さです。アミラーゼの設計図であるAMY1という遺伝子は、持っているコピーの数が人によって違います。コピーが多い人ほど、唾液のアミラーゼの量も多い傾向があります。
2007年に科学誌Nature Geneticsに載った研究は、7つの集団を比べました。でんぷんをよく食べてきた日本人やヨーロッパ系アメリカ人などでは、約70%の人がコピーを6つ以上持っていました。でんぷんの少ない食生活を送ってきた集団では、その割合は37%でした。ちなみに、調べた野生生まれのチンパンジー15頭は、どれもコピーが2つだけでした。
飲み込んだあとも、しばらく続く
アミラーゼがよく働くのは、pH6.7〜7.0という中性に近い環境です。口の中は、ちょうどこの範囲に入ります。胃の中はpH1〜3の強い酸性で、アミラーゼはいずれ働きを止めます。
ただし、止まるのは一瞬ではありません。飲み込んだご飯のかたまりの内側には、酸がすぐには届かないからです。2019年に食品化学の専門誌Food Chemistryに載った実験では、口と胃の消化を再現しました。胃の酸で止まるまでに、唾液のアミラーゼはパンのでんぷんの約80%、パスタのでんぷんの約30%を溶け出させていました。
| 場所 | 主な酵素 | でんぷんに起きること |
|---|---|---|
| 口 | 唾液のアミラーゼ | 鎖が切られ、麦芽糖などができ始める |
| 胃 | (酸で唾液のアミラーゼが止まる) | かたまりの内側でしばらく分解が続く |
| 小腸 | 膵臓のアミラーゼなど | 分解が本格的に進み、ブドウ糖として吸収される |
小腸では、膵臓から出るアミラーゼが残りの鎖を切ります。できた麦芽糖やマルトトリオースは、小腸の壁にある別の酵素でブドウ糖まで分けられ、ようやく体に吸収されます。
口の中の消化は、全体から見れば最初の一歩です。それでも、パンのように柔らかい食べ物では、胃に届く前に大きな仕事を済ませています。
よくある疑問
- 冷めたご飯でも甘くなりますか?
- 甘くはなりますが、温かいご飯より分解されにくくなります。炊いて並びがほどけた、でんぷんの鎖は、冷めると再び規則正しく並び直します。これを老化と呼び、アミラーゼが働きにくくなります。冷めて硬くなったご飯が甘く感じにくいなら、それが理由です。
- パンやじゃがいもでも同じことが起きますか?
- 起きます。どちらも主成分はでんぷんです。特にパンは、上の実験のとおり唾液で分解されやすい食べ物です。
まとめ
- ご飯の甘みは、唾液のアミラーゼがでんぷんを切って作った麦芽糖などの味
- 甘いと感じる濃さになるまで、2分ほど噛む必要がある
- 感じ方の差は、アミラーゼの量と、その設計図AMY1遺伝子のコピー数の差を映している
- オブラートとうがい薬で、でんぷんの分解を目で確かめられる
今夜のご飯で、何回目に甘くなるか数えてみてください。隣の人と回数が違っても、どちらも正常です。
参考にした資料
- NCBI Bookshelf(StatPearls) — Physiology, Digestion
- PubMed — Salivary α-Amylase Activity and Starch-Related Sweet Taste Perception in Humans
- EMBL-EBI(PDBe) — The wonders of salivary amylase
- Wikipedia — Amylase(発見の歴史・至適pH)
- PubMed Central — Diet and the evolution of human amylase gene copy number variation(Nature Genetics, 2007)
- PubMed — Oro-gastro-intestinal digestion of starch in white bread, wheat-based and gluten-free pasta(Food Chemistry, 2019)
- 愛媛県総合教育センター — オブラートを使ってだ液のはたらきを調べる
- Wikipedia — Starch gelatinization(糊化と老化)
- Wikipedia — Gastric acid(胃の中のpH)