イルカは脳を半分ずつ眠らせているって本当?
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イルカは本当に、脳を半分ずつ眠らせています。右脳と左脳が交代で深く眠り、そのあいだ反対側は起きたまま、泳ぎと息継ぎを続けます。この眠り方を「半球睡眠」と呼びます。
人の眠りと並べると、違いがよく見えてきます。この記事では人とイルカ、そして半分ずつ眠るほかの生き物を表で比べます。実は人の脳にも、よく似た「見張り番」が見つかっています。
脳全体では眠れない理由
イルカが脳全体で眠れない理由は、呼吸にあります。人は眠っていても自然に息をしますが、鯨類の保護団体WDCの解説によれば、イルカの呼吸は自動ではありません。水面に上がり、頭の上にある噴気孔を空気中に出して、自分の意思で息を吸います。
脳全体が深く眠ると、この息継ぎができなくなります。そこで片側の脳だけを眠らせ、もう片側に泳ぎと呼吸を受け持たせます。
この仕組みが確かめられたのは1977年です。旧ソ連のムハメトフらの研究チームが、ハンドウイルカの頭に電極を付けて脳波を記録しました。片方の脳が深い眠りの波形を出しているとき、もう片方は起きているときと同じ波形のままでした。結果は学術誌『ブレイン・リサーチ』に載り、チームは9頭分の記録をまとめています。
出産の直後にも、この眠り方は役に立ちます。鯨類の睡眠をまとめた総説によると、母親と生まれたばかりの子は、数か月のあいだ泳ぎ続けました。水面に浮かんで休む姿が見られるのは、子が育ってからです。
人とイルカの眠りを比べる
人の眠りと並べてみます。違いは呼吸だけではありません。
| 比べる点 | 人 | ハンドウイルカ |
|---|---|---|
| 眠っている間の呼吸 | 自動で続く | 自分で水面に上がって吸う |
| 深く眠る脳 | 左右が同時に眠る | 片側ずつ交代で眠る(全体の70〜90%) |
| 夢を見るレム睡眠 | 約90分の周期で現れる | 脳波を測った鯨類では確認されていない |
| 目 | 両目を閉じる | 眠っている脳と反対側の目を閉じるか細める |
同じ総説によると、ハンドウイルカの片側の眠りは1回あたり平均42分ほど続きます。短いものは3分半、長いものは131分に達し、1日に2〜12回くり返されます。片方の脳だけで見ても、1日の34〜57%を深い眠りの波形で過ごします。
眠る側は、ふつう左右で入れ替わります。ふだんの記録では67%が交代で、眠りを奪う実験のあとはこの割合が80%を超えました。休みが片側に偏らないよう、脳が調整していると考えられます。
目の動きも左右で違います。眠っている脳と反対側の目は、55〜60%の時間閉じていて、35〜37%は半開きでした。起きている側の目は、95〜98%の時間、開いているか半開きです。両目が同時に閉じるのは、わずか2%ほどでした。
人なら一晩に何度も現れるレム睡眠は、鯨類ではほとんど見つかっていません。ゴンドウクジラ1頭で、3晩のうち1回だけ6分間の記録があるくらいです。眠りの形そのものが、陸の哺乳類とは大きく違います。
半分ずつ眠るほかの生き物
片側の脳で眠るのは、イルカだけではありません。水の中で暮らす哺乳類と、一部の鳥でも見つかっています。
| 生き物 | 眠る場所 | 分かっていること |
|---|---|---|
| ハンドウイルカ | 水中 | 片側の眠りは1回平均42分、1日2〜12回 |
| シロイルカ | 水中 | 片側の眠りは1回平均44分(10〜81分) |
| オットセイ | 水中と陸 | 陸では左右とも眠り、水中では片側の眠りが増える |
| カモ | 群れで陸上 | 群れの端にいる個体ほど、片目を開けて眠る |
| オオグンカンドリ | 飛びながら | 飛行中の眠りは1日約42分、陸では12時間以上 |
シロイルカは、プールの底で横になって休むこともあります。眠っているあいだに体がぴくっと動く回数を数えると、6晩の平均で一晩144回でした。研究者はこうした動きをレム睡眠の手がかりとして調べていますが、脳波ではまだ確かめられていません。シャチも、水面に浮かんだまま1時間ほど動かずに休むことがあります。
オットセイは、場所によって眠り方を変えます。陸では左右の脳がそろって眠りますが、海に入ると左右の差が大きくなり、イルカに似た眠りになります。陸で記録時間の3.5〜6.2%を占めるレム睡眠も、水中では0.2〜1.2%まで減りました。
鳥の例では、カモの実験がよく知られています。1999年に発表された、群れで眠るカモを観察した研究です。群れの端にいるカモは、内側のカモより片目を開けて眠る時間が長く、開けた目の約86%は群れの外側を向いていました。敵が来る方向を見張っているわけです。
飛びながら眠る鳥もいます。ドイツのマックス・プランク研究所は2016年、オオグンカンドリの脳波を飛行中に記録しました。最長10日間、約3,000キロを休まず飛ぶあいだ、眠りは1日平均42分ほど。陸に戻ると12時間以上眠りました。
表の生き物に共通するのは、完全には眠れない事情です。イルカなら呼吸、カモなら見張り、グンカンドリなら飛行。片側の脳が、その仕事を眠りのあいだも続けています。
人の脳にも見張り番がいる
人は左右の脳がそろって眠ります。それでも、慣れない場所では少し事情が変わります。
2016年、アメリカのブラウン大学の研究チームが、ホテルなどで寝つけない「初めての夜」の脳を調べました。35人に1週間あけて2晩、実験室で眠ってもらう研究です。1晩目の深い眠りのあいだ、左の脳の一部のネットワークは、右より眠りが浅いままでした。
さらに右耳から、つまり左の脳へ不規則な音を聞かせました。すると目を覚ましやすく、起きたあとの反応も速くなりました。2晩目には、この左右の差は見られませんでした。研究を率いた佐々木由香さんは、日本の「枕が変わると眠れない」という言い回しも紹介しています。
イルカのように片側が完全に起きているわけではありません。それでも初めての場所で脳の片側が少し浅く眠り、音に備えている点は、半球睡眠とよく似ています。
観察に使える道具
水族館のイルカショーやホエールウォッチングでは、イルカまでの距離が数メートル以上あります。片目を閉じているか確かめるなら、軽い双眼鏡があると便利です。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。
双眼鏡:ケンコー・トキナー NEW SG 7×18 DH FF WP 約4,985円。倍率7倍、重さ142グラムの小型機で、ピント合わせのいらない方式です。防水設計なので、水しぶきのかかる船の上でも使えます。
向いている人:ショーや船の上で、離れたイルカの顔を見たい人。注意:商品ページによると、ピントが合うのは5メートルより先です。水槽のガラス越しに近くを泳ぐイルカは、肉眼で見る方がよく見えます。
ゆっくり泳ぐイルカや、水面に浮かんで動かないイルカを見つけたら、左右どちらの目が閉じているかを数分おきに見比べてみてください。閉じる目が入れ替われば、眠る脳も入れ替わっています。
眠り方の違いが教えること
人もイルカも、眠る目的は脳を休めることです。違うのは、休ませ方です。人は安全な寝床で脳全体を休め、イルカは呼吸を止めないよう、片側ずつ1回40分ほどの眠りを重ねます。
水族館でゆっくり泳ぐイルカを見かけたら、目に注目してみてください。片目だけが閉じていたら、そのとき反対側の脳は眠っています。そして次に旅先でなかなか寝つけなかったら、自分の脳の片側も、少しだけ見張り番をしているのかもしれません。
参考にした資料
- Whale & Dolphin Conservation — How do dolphins sleep?
- PubMed Central — Cetacean sleep: An unusual form of mammalian sleep
- PubMed Central — Dolphins Can Maintain Vigilant Behavior through Echolocation for 15 Days without Interruption or Cognitive Impairment
- Max-Planck-Gesellschaft — First evidence of sleep in flight
- Brown University — Asleep somewhere new, one brain hemisphere keeps watch
- University of Washington(Neuroscience for Kids) — Bird Brains: Sleeping One Half at a Time
- Frontiers in Neuroscience — Local Aspects of Avian Non-REM and REM Sleep(2019)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット — ノンレム睡眠