1秒はどう決まる?原子の振動で測る時間の正体
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1秒の長さを決めているのは、時計の針でも地球の回転でもありません。セシウム133という原子です。この原子が出し入れするマイクロ波が9,192,631,770回振動する時間が、いまの1秒です。
この数字は1967年に決まり、2019年に言い回しが整理されたあとも変わっていません。この記事では、1秒の基準が地球から原子へ移った理由と原子時計の仕組みを見ていきます。よくある誤解や、次に控える「光の1秒」も取り上げます。
地球の自転から原子へ
1秒はもともと、地球の自転から決められていました。1日を24時間に、1時間を60分に、1分を60秒に割ると、1日は86,400秒です。その86,400分の1が1秒でした。
ところが地球の自転は一定ではありません。潮の満ち引きなどの影響で、回る速さがわずかに揺らぎます。そこで1956年、基準は地球の公転へ移されました。1900年を基準にした1年の長さの31,556,925分の1、という決め方です。ただしこの1秒は、長年の天体観測から計算するもので、実験室で測り直すことはできませんでした。
1967年、基準は原子へ移ります。セシウム133原子には、エネルギーがごくわずかに違う2つの状態があります。この2つを行き来するとき、原子は決まった周波数の電磁波を吸収したり放出したりします。その周波数が9,192,631,770ヘルツです。
原子には工業製品のような個体差がありません。日本のセシウム原子もフランスのセシウム原子も、同じ周波数を示します。だからどの国の研究所でも、同じ1秒を作り出せます。
原子時計が1秒を刻むしくみ
原子時計の中心は、マイクロ波を出す発振器です。その周波数を少しずつ変えながらセシウム原子に当て、原子がいちばん強く反応する周波数に合わせ続けます。合ったマイクロ波の振動を9,192,631,770回数えたら、1秒です。
日本で1秒を作る産業技術総合研究所(産総研)は、「セシウム原子泉」という方式の時計「NMIJ-F2」を持っています。原子は常温では秒速約300メートルで飛び回っていますが、レーザーで冷やすと秒速約4メートルまで遅くなります。遅くなった原子を噴水のように上へ打ち上げ、落ちてくるまでの長い時間をかけて周波数を調べます。観測時間が長いほど、周波数を細かく見分けられるからです。
こうして作った1秒の精度は、相対精度で4.6×10-16です。7000万年に1秒しかずれない計算になります。
日本標準時を作る情報通信研究機構(NICT)は、1台の時計に頼っていません。水素メーザー原子時計と約18台のセシウム原子時計を組み合わせています。2021年8月からは光格子時計も加わり、週に1〜2回の頻度で標準時の刻みを調整しています。その結果、世界の基準である協定世界時とのずれは、10億分の20秒から10億分の5秒以内に縮まりました。
よくある誤解
誤解1:原子そのものが振動している。「原子の振動で1秒を測る」と言われますが、数えているのは原子が出し入れする電磁波の振動です。周波数9,192,631,770ヘルツは、電子レンジと同じマイクロ波の仲間です。目に見える光ではありません。
誤解2:2019年に1秒の長さが変わった。2019年5月20日、国際単位系(SI)が大きく改定され、キログラム原器のような人工物が基準から外れました。秒の定義もこのとき「セシウムの周波数を9,192,631,770ヘルツと定めることで秒が決まる」という表現になりました。数値そのものは1967年から一度も動いていません。
誤解3:うるう秒は1秒の長さを直すもの。うるう秒が調整するのは、原子時計が刻む時刻と、地球の自転による時刻とのずれです。1秒の長さはそのままで、1分を61秒にする日を作ります。日本では2017年1月1日、午前8時59分59秒のあとに「8時59分60秒」が入りました。1972年7月1日の第1回から数えて27回目でした。2022年の国際度量衡総会は、この調整の仕組みを2035年までに見直し、許容するずれを大きくすると決めています。
身近な時計との精度比べ
原子時計の正確さは、ふだん使う時計と並べると実感しやすくなります。産総研の解説にある数字をもとに、1秒ずれるまでの時間を比べました。
| 時計の種類 | 精度の桁数 | 1秒ずれるまで |
|---|---|---|
| 一般的なクオーツ時計 | 6〜7桁 | 100万〜1000万秒(約12日〜4か月) |
| 最高級のクオーツ時計 | 10桁 | 約100年 |
| 一般的な原子周波数標準器 | 12〜13桁 | 約1万〜10万年 |
| 産総研のセシウム原子泉時計 NMIJ-F2 | 4.6×10-16 | 約7000万年 |
クオーツ時計の中では、水晶の小さな板が1秒に32,768回振動しています。これを数えて1秒を作る点は、原子時計と同じ発想です。違いは、水晶の振動数が温度や作りの差で少しずつ変わることです。原子の周波数には、その個体差がありません。
家庭の電波時計は、この原子時計の時刻を受け取っています。NICTは標準電波「JJY」を、福島県のおおたかどや山送信所から40キロヘルツ、佐賀県と福岡県の県境にあるはがね山送信所から60キロヘルツで送っています。電波時計はこの電波に乗った時刻の信号を読み、自分の時刻を合わせ直します。
秒やメートルのような単位が、何を基準に決まってきたかは、写真や図で並べて見ると流れがつかみやすくなります。長さや重さと一緒に見比べたいなら、単位の図鑑が手軽です。
次の基準は光
セシウムより正確な時計は、すでに動いています。光格子時計に代表される光時計です。マイクロ波より振動がはるかに速い光を使い、その周波数はセシウム原子時計より約5桁高くなります。同じ1秒を、より細かい目盛りで刻めるわけです。
国際度量衡局(BIPM)によると、光時計の中には、セシウム原子泉時計より2桁小さい系統的な不確かさを達成したものがあります。秒を光で定義し直す計画では、2026年の国際度量衡総会で進み具合を確かめます。そのうえで、2030年の総会で新しい定義と実施の時期を決めることが、最も早い目標です。1つの種類の原子を選ぶか、複数の光時計を組み合わせるかは、まだ決まっていません。
よくある疑問
- なぜ「9,192,631,770」という半端な数なのですか?
- 原子の基準を作るとき、それまでの公転による1秒と長さが合うように決めたからです。1955年、英国の国立物理学研究所のルイス・エッセンが、実用的なセシウム原子時計を初めて作りました。エッセンは米国海軍天文台のウィリアム・マーコウィッツと組み、公転の1秒の間にセシウムのマイクロ波が何回振動するかを精密に測りました。その回数が新しい定義になりました。こうすることで、基準が変わっても時計の進み方が急に変わらずに済みました。
- 光の定義になったら、1秒の長さは変わりますか?
- 変わりません。BIPMの計画は、セシウムの定義との連続性を条件にしています。定義が光に移っても、セシウム原子時計はそのまま使えます。その場合、セシウムで作る1秒には、10-16程度の不確かさが新たに加わるとされています。
まとめ
1秒は、セシウム133原子のマイクロ波が9,192,631,770回振動する時間です。地球の自転から公転へ、公転から原子へと基準が移り、いまは7000万年に1秒しかずれない時計で作られています。うるう秒は1秒の長さではなく、地球の回転とのずれを直す仕組みです。早ければ2030年に、基準は光へ移ります。
家に電波時計があれば、最後に電波を受信した時刻を確かめてみてください。その時計は、福島か佐賀・福岡県境の送信所を通じて、原子時計の1秒につながっています。
参考にした資料
- 国際度量衡局(BIPM) — SI base unit: second
- 産業技術総合研究所 — 世界でいちばん正確な1秒!テクノロジーと「不確かさ」と
- 情報通信研究機構(NICT) — 世界初、国家標準時の維持に光格子時計を利用
- Wikipedia — Louis Essen(最初の実用的なセシウム原子時計)
- 国際度量衡局(BIPM) — Frequently Asked Questions concerning the Redefinition of the Second
- 国際度量衡局(BIPM) — 第27回国際度量衡総会 決議4(UTCの扱い)
- NTT東日本 — 時報サービス「117」の「うるう秒」調整の実施について(2016年12月)
- 情報通信研究機構(NICT) — 標準電波 JJY