ホタルはなぜ光る?熱を出さない冷たい光
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ホタルの光は、ほとんど熱を出しません。お尻の発光器の中では、ルシフェリンという物質が酵素ルシフェラーゼのはたらきで酸素と反応します。そのエネルギーを、熱を経ずに光として出しているのです。電球のように何かを高温にして光らせる訳ではないので、「冷たい光」と呼ばれます。
ただし、よく聞く「エネルギーのほぼ100%が光になる」は言いすぎでした。2008年の精密な測定では、反応した分子のうち光を出すのは約41%です。この記事では、ホタルの光を電球や別の種類のホタルと比べながら、その仕組みと使い道を見ていきます。
ホタルの光と電球の光を比べる
まず、身近な白熱電球と並べてみます。アメリカ国立公園局(NPS)のグレート・スモーキー山脈国立公園は、ホタルの光を「熱をほとんど出さない、効率の高い化学反応による光」と説明しています。同じページによると、昔ながらの白熱電球は、エネルギーの約10%しか光になりません。残りの約90%は熱になります。
| 比べる点 | ホタル | 白熱電球 |
|---|---|---|
| 光のもと | ルシフェリンと酸素の化学反応(酵素ルシフェラーゼが進める) | 電気で熱したフィラメント |
| 光を出す場所 | お尻の発光器(ランタン) | ガラス球の中のフィラメント |
| 熱 | ほとんど出ない | エネルギーの約90%が熱になる |
| 光になる割合 | 反応した分子の約41%が光を出す | エネルギーの約10% |
表の「光になる割合」の2つは、厳密には同じ物差しではありません。電球の10%は、使った電気のうち光になった分です。ホタルの41%は、反応した分子1個につき光の粒が1個出る確率で、量子収率と呼ばれます。
それでも、違いの本質ははっきりしています。電球は、フィラメントに電気を流して高温にし、その熱で光らせます。ホタルは、化学反応のエネルギーを、熱を経ずに光として取り出します。温める段階がないので、光っている発光器が熱くならないのです。
「ほぼ100%が光」は言いすぎだった
ホタルの光の量子収率は、1959年の測定で88%以上とされ、長く定説になっていました。この数字が「ほぼ100%」という言い方の背景にあります。
これを測り直したのが、東京大学や産業技術総合研究所などの研究チームです。2008年に科学誌ネイチャー・フォトニクスに載った論文で、新しく作った装置を使って光の粒の数を数え、最高の量子収率を41.0±7.4%と求めました。装置の校正には、産総研が国家標準とつながる形で校正した受光素子が使われています。
同じ論文は、ホタルの光が黄緑から赤へ色を変える理由についても、それまでの説明を見直す結果を報告しました。数字が半分以下になっても、ホタルの光が「温めずに光る」冷たい光であることは変わりません。
ゲンジボタルとヘイケボタルを比べる
辰野町の説明によると、ホタルは世界に約2000種、日本に約40種います。そのうち夏の夜によく見かけるのが、ゲンジボタルとヘイケボタルです。見た目は似ていますが、大きさも暮らす場所も違います。
| 比べる点 | ゲンジボタル | ヘイケボタル |
|---|---|---|
| 成虫の体長 | 12〜15ミリ | 7〜10ミリ |
| おもなすみか | 里山の小川や水路 | 水田や湿原など、流れのない水辺 |
| 幼虫のエサ | 巻き貝のカワニナ | モノアラガイなどの貝。水生昆虫やミミズも |
| 成虫が見られる時期 | 5〜6月 | 早い所では4月から10月ごろまで |
| オスの点滅 | ゆっくり(2秒または4秒ごと) | ゲンジボタルより速い |
| 胸の黒い模様 | 十字形(+) | 縦の1本線(-) |
見分けるなら、胸の模様がいちばん確かです。光り方では、ゆったり明滅するのがゲンジボタル、細かく瞬くのがヘイケボタルです。田んぼの近くならヘイケボタル、小川の近くならゲンジボタルが多い、という目安もあります。
光るのは成虫だけではありません。辰野町の資料では、ゲンジボタルの卵ははじめ黄色く、日がたつと黒くなります。そして、刺激すると光るようになります。1匹のメスが産む卵は500〜1000個で、直径は約0.5ミリ。ふ化した幼虫は1.5ミリほどで、水中でカワニナを食べて育ちます。
成虫のオスとメスは、光る部分でも見分けられます。辰野町の資料によると、発光器はメスがお腹の1節、オスが2節です。オスのほうが、光る部分が広いということです。
育った幼虫は、4月下旬の雨の夜に、光りながら川岸を一斉に上ります。土の中で約5週間を過ごしたあと、さなぎの期間が約2週間。成虫になってからの生存日数は、およそ10日です。卵から数えると、成虫として光って飛ぶ期間は一生のごく一部です。
同じゲンジボタルでも、東と西で点滅が違う
ゲンジボタルの点滅の間隔は、地域で分かれます。西日本ではおよそ2秒ごと、東日本ではおよそ4秒ごとです。
鹿児島大学・佐賀大学・日本ホタルの会などの研究グループは、2020年1月、この違いを遺伝子から調べた結果を科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表しました。核のDNAを解析すると、ゲンジボタルは「東日本」「西日本」「九州」の3つのグループに分かれました。
東と西の境目は、新潟・長野・静岡にまたがる中部山岳地域、いわゆるフォッサマグナ地帯です。ここで2つのグループははっきり分かれ、遺伝子の交流はほとんど見られませんでした。一方、西日本と九州の境は東西ほど明確ではなく、山口県や佐賀県では両方の遺伝子が混ざっていました。
この研究には保全の意味もあります。発表資料は、ホタルを人の手で別の地域に移すと、その土地の集団の遺伝子が乱れることが心配されていると書いています。見た目が同じでも、よその川のホタルを放してよいとは限らないのです。
アメリカには、そろって光るホタルもいる
グレート・スモーキー山脈国立公園には、19種のホタルがすんでいます。その1つ、フォティヌス・カロリヌスは、集団で点滅のタイミングをそろえることで知られています。
光り方は、5〜8回続けて光ったあと約8秒間まっ暗になる、のくり返しです。見られるのは毎年2〜3週間ほどで、1993年以降、その時期は5月の第3週から6月の第3週の間で前後してきました。国立公園局は、土の温度をもとに見ごろを予想しています。
このホタルも、一生の大半は幼虫です。1〜2年の一生のうち、成虫でいるのは3〜4週間ほどで、成虫の多くは何も食べないといいます。
なぜ揃えるのかは、まだよく分かっていません。国立公園局は、オスがそろって光ることでメスからの返事を引き出しやすくしている、という説を紹介しています。日本のゲンジボタルが「間隔」で仲間を見分けるのに対し、こちらは「そろえ方」に意味があるようです。
点滅のパターンや幼虫の暮らしは、文章よりも写真で見比べるほうが分かりやすい話です。ゲンジボタルとヘイケボタルの胸の模様や、日本にいるほかの光る昆虫まで見たいなら、昆虫の図鑑が手元にあると便利です。
次の夏に見比べるなら
ホタルの光は、化学反応のエネルギーを温めずに取り出した冷たい光です。光になる割合は「ほぼ100%」ではなく約41%でしたが、フィラメントを高温にする電球とは仕組みから違います。
次にホタルを見たら、まず光る間隔を数えてみてください。ゆっくり2秒か4秒ごとならゲンジボタル、細かく瞬くならヘイケボタルです。ゲンジボタルなら、2秒は西日本型、4秒は東日本型の目安になります。
参考にした資料