フグはなぜ体をふくらませるのか、身を守る工夫
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フグがまん丸になるのは、水を飲み込んでいるからです。胃が変化した「膨張嚢」という袋に水をため、種類によっては体重の7倍を超える水を入れます。
膨らむのは、天敵から身を守るための非常手段です。1回膨らむと、体が元の状態に戻るまで平均5時間以上かかります。この記事では仕組みを押さえたうえで、水族館や家で確かめる方法を紹介します。
フグは水を飲んで膨らむ
日本大百科全書によると、フグやハリセンボンの仲間は胃が特殊化して「膨張嚢」になっています。ここに水や空気を飲み込んで、腹を膨らませます。
やり方は、口をポンプにした水くみです。1997年に学術誌Evolutionに載った研究によると、フグは口いっぱいに水を取り込み、伸び縮みする胃へ送り込む動作を何度も繰り返します。腹側の皮膚はよく伸び、肋骨もありません。下関市の水族館「海響館」も、膨らむときに邪魔になる肋骨や腹ビレがない、と説明しています。
同じ研究は、この技の生まれ方にも迫っています。フグと同じフグ目のカワハギやモンガラカワハギの仲間は、口から勢いよく水を吹き出して、砂に隠れた獲物を掘り出します。研究チームの考えでは、口の動きは「せき込み」から「水吹き」へ、さらに水を胃へ押し込む「膨らみ」へと段階的に発達しました。
膨らむ行動は、フグ科とハリセンボン科の全種で見られます。海響館の解説でも、膨らむのは本来、捕食者から身を守るためだとしています。体が急に大きくなると、口の大きさが限られた捕食者には飲み込みにくくなります。日本大百科全書によると、フグ科の魚は日本で9属37種が知られています。
種類で違う、膨らむ量と形
海響館の飼育員は、何種類かのフグがどれだけ水を飲むかを実際に量りました。膨らむ前の体重と比べた倍率です。
| 種類 | 体長 | 水の量(体重の何倍か) | 膨らむところ |
|---|---|---|---|
| モヨウフグ | 153.5mm | 7.6倍 | 体全体 |
| ハリセンボン | 123.0mm | 2.3倍 | 体全体 |
| ヒガンフグ | 135.5mm | 2.0倍 | お腹だけ |
| コモンフグ | 145.0mm | 1.1倍 | お腹だけ |
| ゴマフグ | 208.0mm | 約1.0倍 | お腹だけ |
| トラフグ | — | 約2倍 | お腹だけ |
いちばん多かったのはモヨウフグで、体重の7.6倍でした。トゲで知られるハリセンボンは2.3倍で、予想より少なかったと書かれています。体の大きさでも量は変わるため、さらに調べる必要があるそうです。
膨らみ方も種類で違います。トラフグやヒガンフグ、コモンフグなどトラフグ属は、お腹だけが膨らみます。コクテンフグなどのモヨウフグ属は体全体が膨らみます。しりびれや、ときには背びれまで巻き込んで、ほぼ球になります。
海響館と東京大学総合研究博物館の研究者は、フグ科12種とハリセンボン科6種の膨らんだ姿を撮影して比べました。ゴム手袋をはめた手で頭の後ろを押さえて膨らませた個体や、自分から膨らんだ個体を写しています。しりびれ・背びれ・尾の付け根が巻き込まれるかどうかで、膨らんだ形を3つの型に分けています。
膨らんでいる間も息をしている
フグは膨らんでいる間、息を止めている。長くそう考えられてきました。2014年、オーストラリアのジェームズクック大学とオーストラリア海洋科学研究所のチームが、グレートバリアリーフで採ったシマキンチャクフグで確かめています。
結果は英国王立協会の学術誌Biology Lettersに載りました。膨らんでいる間も、フグはえらで酸素を取り込み続けていました。皮膚からの呼吸は、ほとんどありませんでした。
ただし、体への負担は大きなものです。膨らむと酸素の消費量は休んでいるときの5倍に増え、元に戻るまで平均5.6時間かかりました。研究チームは、水を飲み込む前後の激しい動きでは、酸素を使わない代謝も働いていると考えています。ほかの種類では、何度も続けて膨らむうちに疲れ切り、もう膨らめなくなった例も報告されています。膨らめないフグは、天敵から身を守る手段を1つ失います。
膨らみを確かめる方法
フグを無理に膨らませなくても、膨らみの仕組みは確かめられます。まずは水族館で観察する方法です。
- 膨らめる種類を探す:海響館によると、膨らめるのはフグ科とハリセンボン科だけです。ハコフグの仲間は、名前に「フグ」と付いても膨らみません。水槽の名札で、科の名前を確かめます。
- 形の違いを見分ける:名札の種名を上の表と照らし合わせ、お腹だけが膨らむ種類か、全身が膨らむ種類かを予想します。ハリセンボンのトゲは、うろこが変化したもので、膨らむと立ち上がります。
- 朝の時間に注目する:海響館では、敵がいないのに、数日おきに朝のほぼ同じ時刻に膨らむフグが見られました。理由は分かっておらず、飼育員は「練習」や「朝のストレッチ」かもしれないと書いています。
- ガラスをたたかない:膨らむ姿を見たくても、驚かせるのはやめます。1回膨らむと、戻るまでに5時間以上かかるからです。
次に、飲み込む水の量を家で体感する方法です。必要なのは、計量カップと台所のはかりだけです。
- 体重100グラムのモヨウフグを想像します。
- 100グラムに7.6をかけると760グラムです。水1ミリリットルはおよそ1グラムなので、約760ミリリットルの水にあたります。
- 計量カップで760ミリリットルの水を量り、はかりで量った100グラムの食材と並べます。
小さな体に、自分の7倍以上の重さの水が入る様子が目に見えます。同じ100グラムでも、トラフグの約2倍なら200ミリリットルで、コップ1杯ほどです。最も少ないゴマフグの約1倍でも、100ミリリットルの水を一気に飲み込む計算になります。種類ごとの姿や暮らしの違いを確かめるなら、魚の図鑑で写真を見比べるのが早道です。
よくある疑問
- 釣れたフグを膨らませて遊んでもいいですか?
- やめておきましょう。上の研究のとおり、膨らむのは体力を大きく使う非常手段です。米国の科学誌Science Newsも、膨らむところを見たいという理由でフグにちょっかいを出さないで、と記事を結んでいます。水から出すと、フグは水の代わりに空気を飲み込んで膨らむこともあります。持ち帰って自分で料理するのも危険です。堺市の解説によると、どのフグも肝臓と卵巣は原則として食べられず、トラフグで食べてよいのは筋肉・皮・精巣だけです。フグ中毒の多くは、釣ったフグやもらったフグを自分で調理して起きています。
- フグの毒は、どこから来るのですか?フグ自身はなぜ平気なのですか?
- 国立科学博物館によると、フグ毒のテトロドトキシンは細菌が作り、えさを通じてフグの体にたまると考えられています。毒のないえさで育てた養殖のフグは、毒を持ちません。フグ自身が平気なのは、毒が結びつく神経の部品(ナトリウムチャネル)の形が、ほかの魚とわずかに違うためです。2005年に学術誌Current Biologyに載った研究が、この違いを突き止めました。
まとめ
フグは、胃が変化した膨張嚢へ口のポンプで水を送り込み、体を大きくします。量は種類で大きく違います。モヨウフグは体重の7.6倍、トラフグは約2倍、ゴマフグは約1倍です。膨らんでいる間もえらで息をしていますが、酸素の消費は5倍に増え、戻るまで平均5.6時間かかります。
水族館でフグの水槽を見かけたら、まず名札で科の名前を確かめてみてください。そのうえで、お腹だけが膨らむ種類か、全身が膨らむ種類かを予想します。膨らんだ姿に出会えなくても、名札と体の形から、その姿を思い描けます。
参考にした資料
- 市立しものせき水族館 海響館 — 膨れるフグ
- 国立科学博物館 — フグ毒
- Phys.org — Pufferfish myth busted: they do so breathe when puffed up
- コトバンク(日本大百科全書・世界大百科事典) — フグ
- Evolution(UC Davis Fish Lab) — Wainwright & Turingan, Evolution of pufferfish inflation behavior (1997)
- 市立しものせき水族館 海響館 — 膨らんだらどんな形?フグ目魚類の膨張形態の多様性(研究発表資料)
- Science News — That puffed-up pufferfish isn't holding its breath
- Current Biology(PubMed) — Genetic basis of tetrodotoxin resistance in pufferfishes
- 堺市 — ふぐによる食中毒にご注意ください