1とその数でしか割れない、素数という不思議
※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先の楽天市場で購入されると、紹介料が入ることがあります。
素数は、1とその数自身でしか割り切れない数です。2・3・5・7と続き、どこまで数えても尽きないことが紀元前300年ごろに証明されています。
それなのに、素数にはまだ解けない謎がいくつも残っています。見つかっている最大の素数は2024年の4102万4320桁で、インターネットの暗号も素数の性質に支えられてきました。素数について浮かびそうな疑問を、順に取り上げます。
素数とは、どんな数?
素数とは、1より大きい整数のうち、1とその数自身でしか割り切れない数です。6は2でも3でも割れるので素数ではありません。7は1と7でしか割れないので素数です。素数でない2以上の整数は「合成数」と呼ばれます。
偶数の素数は2だけです。ほかの偶数はどれも2で割れるからです。そして素数は、数が大きくなるほどまばらになっていきます。
| 範囲 | 素数の個数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 10まで | 4個 | 40% |
| 100まで | 25個 | 25% |
| 1000まで | 168個 | 約17% |
| 1万まで | 1229個 | 約12% |
| 100万まで | 7万8498個 | 約7.8% |
| 10億まで | 5084万7534個 | 約5.1% |
この減り方には目安があります。ある数xまでの素数の個数は、およそ「x÷xの自然対数」になる、というのが素数定理です。18世紀の終わりにガウスとルジャンドルが予想し、1896年にアダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンがそれぞれ証明しました。
100万の自然対数は約13.8なので、100万までの素数は約7万2000個と見積もれます。実際の7万8498個より8%ほど少ないものの、桁はぴたりと合います。
なぜ1は素数に入らないの?
理由は「2以上の整数は、素数のかけ算に1通りだけ分解できる」という決まりを守るためです。これを算術の基本定理といいます。12なら2×2×3で、かける順番を除けば、これ以外の分解はありません。
もし1が素数なら、6は2×3とも1×2×3とも1×1×2×3とも書けます。分解の仕方が無限に増え、「1通り」が成り立たなくなります。
ただし、1を外す決まりが定着したのは意外に最近です。古代ギリシャでは、1はそもそも数として扱われないことが多くありました。18世紀半ばには、ゴールドバッハがオイラーへの手紙で1を素数に数えています。
1914年に出たレーマーの「1000万までの素数表」にも1が入っていました。1を含む素数表は、1956年になっても出版されています。20世紀の初めごろから、1は素数とは別の「単数」として扱う考え方が広まりました。
素数はどうやって見つけるの?
古典的な方法が「エラトステネスのふるい」です。エラトステネスは紀元前276年ごろに生まれたギリシャの学者です。アレクサンドリアの図書館長を務め、地球の大きさを測ったことでも知られています。手順は次のとおりです。
- 2から順に、調べたい範囲の数を並べる
- 2を残して、2の倍数をすべて消す
- 残った中で次に小さい3を残し、3の倍数を消す
- 次に残っている5、7と、同じことを繰り返す
消し残った数が素数の一覧です。範囲の平方根までの素数で消せば終わるので、120までなら7の倍数を消した時点で完了します。
もし1を素数に入れると、最初に「1の倍数」をすべて消すことになり、1しか残りません。ここにも、1を素数から外す理由が見えます。
素数はどこまでも続くの?
素数がどこまでも続くことは、ユークリッドが紀元前300年ごろにまとめた数学書『原論』の第9巻・命題20で示されました。証明はこう進みます。
素数が有限個だと考えて全部かけ合わせ、積に1を足す。この数はどの素数で割っても1が余るので、手持ちのどれでも割り切れません。
つまりリストの外に、まだ素数があるはずです。いくら大きな素数を見つけても、その先にはまだ素数があるのです。
小さな例で確かめられます。2×3×5に1を足すと31で、31はそれ自体が素数です。2×3×5×7×11×13に1を足した30031は、59×509と分解できます。
新しくできた数が素数とは限りません。それでも、最初のリストにない素数(ここでは59と509)がどの場合でも顔を出します。証明の要点はここにあります。
いちばん大きい素数はいくつ?
素数に終わりがない以上、「最大の素数」は存在しません。あるのは「これまでに見つかった最大の素数」です。
現在の記録は、2024年10月12日に見つかった「2の136279841乗から1を引いた数」です。10進法で書くと4102万4320桁になり、それまでの記録より1600万桁以上多くなりました。見つけたのは、アメリカ・カリフォルニア州のルーク・デュラントさんです。24のデータセンター地域、17か国にまたがるGPUを動員しました。
この形の素数は、350年以上前に研究したフランスの修道士マラン・メルセンヌにちなんで「メルセンヌ素数」と呼ばれます。知られているのは52個だけです。
探索の中心は、1996年に始まった共同計算プロジェクトGIMPSです。これまでは家庭のパソコンが記録を出してきましたが、GIMPSは今回の発見で「パソコンが巨大な素数を見つけてきた28年」が終わったと発表しました。新しい素数の発見者には3000ドルが贈られます。1億桁の素数を最初に見つけた人には、電子フロンティア財団(EFF)が15万ドルを用意しています。
素数は何の役に立つの?
身近なところでは、インターネットの通信を守る暗号です。2つの大きな素数をかけるのは一瞬でも、積から元の素数を突き止めるのは、桁が増えるほど難しくなります。広く使われてきたRSA暗号は、この一方通行の性質を利用しています。
弱点は、十分な性能の量子コンピュータです。日本の暗号評価プロジェクトCRYPTRECは2020年に、2048ビット(10進で約600桁)の数を素因数分解するには、誤りのない理想的な環境でも4098量子ビットが必要だと見積もりました。そのうえで、近い将来に解かれる可能性は低いと評価しています。
それでも備えは始まっています。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月、量子コンピュータに強い新しい暗号の標準を3つ公開しました。RSAのように量子コンピュータに弱い方式は、2035年までに標準から外す計画です。
まだ解けていない謎はある?
3と5、11と13のように差が2の素数の組を、双子素数といいます。これが無限にあるかは、まだ証明されていません。1849年にはフランスのド・ポリニャックが、より一般的な形でこの予想を述べています。
2013年、張益唐(チャン・イータン)さんが「差が7000万未満のある数になる素数の組は、無限にある」ことを示しました。1年後には、ほかの数学者たちの研究で上限が246まで縮みます。2まで縮めば予想は解決しますが、未証明の仮説を認めても6までしか縮まらないとされています。
素数全体の並び方にも、大きな謎があります。1859年にリーマンが論文で示した「リーマン予想」は、素数の現れ方と平均とのズレに関わる問題です。アメリカのクレイ数学研究所は2000年に7つの「ミレニアム懸賞問題」を発表し、1問ごとに100万ドルの賞金をかけました。リーマン予想はそのひとつで、いまも解かれていません。
まとめ
素数は、割り算だけで定義できる数です。1を外すのは分解を1通りにするためで、その決まりが定着したのは20世紀に入ってからでした。数が大きくなるほど素数は減っていきますが、ユークリッドの証明どおり尽きることはありません。
最大の記録は4102万4320桁、双子素数の差の上限は246、そしてリーマン予想は未解決のままです。手始めに、100までの数でエラトステネスのふるいを試してみてください。25個の素数が残れば正解です。
参考にした資料
- Wikipedia — Euclid's theorem(ユークリッドの定理・『原論』第9巻命題20)
- GIMPS(Great Internet Mersenne Prime Search) — Mersenne Prime Discovery: 2^136279841-1 is Prime!
- CRYPTREC — 注意喚起情報(量子コンピュータによる暗号技術への影響)
- GIMPS — List of Known Mersenne Prime Numbers
- Wikipedia — Prime number(1の扱いの歴史)
- Wikipedia — Prime-counting function(素数の個数・素数定理)
- MacTutor(セント・アンドルーズ大学) — Eratosthenes of Cyrene
- Wikipedia — Twin prime(双子素数と差の上限246)
- Clay Mathematics Institute — Millennium Prize Problems
- NIST — Post-Quantum Cryptography