お札は普通の紙じゃない?材料はみつまたとアバカ
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お札はれっきとした紙です。ただし、原料がまるで違います。コピー用紙のような木材パルプではなく、みつまたとアバカ(マニラ麻)という植物の繊維から作られています。
「紙じゃない」と言われるほど手ざわりが違うのは、材料そのものが別物だからです。その手ざわりは、偽札を見破る最初の手がかりにもなっています。この記事では、お札の紙がどう作られ、どこが普通の紙と違うのかを順に説明します。
原料はみつまたとアバカ
国立印刷局によると、お札の用紙の原料はみつまたとアバカ(マニラ麻)です。みつまたは古くから和紙の原料に使われてきた植物で、明治12年(1879年)にお札用紙の原料として初めて採用されました。以来140年以上、その伝統が受け継がれています。
一方、私たちがふだん使うコピー用紙やノートの原料は、おもに木材から作るパルプと古紙です。出発点からして別の紙です。国立印刷局は、この2つの原料が独特な感触と風合いを生み、人の手から手へ渡る使われ方にも耐える丈夫な用紙になると説明しています。
原料の産地にも事情があります。日本でのみつまたの栽培は減っていて、お札に使うみつまたの多くは、ネパールの山あいで育てられています。日本の企業が1990年から現地で栽培に関わり、国際協力機構(JICA)の事業も加わって、ネパールでの生産量は年約30トンから約100トンに増えました。お札の手ざわりは、遠い山村の畑ともつながっています。
丈夫さを生む製紙の工程
丈夫さは原料だけで決まるわけではありません。国立印刷局の製紙工程は、次の8段階に分かれています。
- 原材料: みつまたやアバカを用意する
- 裁刻: アバカのパルプを機械で細かく刻む
- 離解: 大量の水の中で繊維をほぐす
- 精選: 異物を取り除く
- 叩解(こうかい): 繊維をすりつぶし、絡みやすくする
- 調合: 薬品と混ぜて「紙料」をつくる
- 抄造(しょうぞう): 紙料を網の上に薄く流してすき、すかしを入れて乾かす
- 断裁: 印刷するサイズに切り分ける
要になるのは叩解です。繊維を擦り潰して絡みやすくすると、紙をすく段階で繊維どうしががっちり組み合います。薄いのに破れにくい紙になるのは、この下ごしらえのおかげです。
用紙ができたあとの印刷も特殊です。1台の印刷機で、裏面、表面の順にオフセット印刷と凹版印刷を続けて行います。そのあとホログラムを貼り、記番号を刷り、1枚ずつ機械で検査してから1000枚ずつの束に仕上げます。
すかしと手ざわりは、紙と印刷で作る
肖像の横に浮かぶ「すき入れ(白黒すかし)」は、あとから印刷したものではありません。抄造の工程で、紙そのものに作り込まれます。紙をすく段階でしか作れないからこそ、偽造に対する強い抑止力になっています。
2024年7月3日に発行が始まった新しいお札では、肖像のすかしに加えて、背景に細かな模様の「高精細すき入れ」が入りました。さらに、肖像が立体的に見えて回転する3Dホログラムも付いています。財務省によると、銀行券への搭載は世界で初めてです。2004年発行のお札にも、傾けると数字が見え隠れする潜像模様や、ピンク色の光沢が浮かぶパールインキが使われています。コピーでは再現しにくい、ごく小さなマイクロ文字も刷り込まれています。
手ざわりを作るのは紙だけではありません。肖像や額面の数字には、インキを厚く盛り上げる凹版印刷が使われています。指でなでるとザラザラするのはこのためです。超細密な線は、普通の印刷やカラーコピーでは再現がきわめて難しいとされます。
国立印刷局は、お札独特の色や風合い、触ったときの感触こそ「偽造発見の第一手」だと説明しています。すかしを光にかざすより先に、指が違和感に気づくというわけです。
よくある誤解
お札の材料については、いくつか混ざりやすい話があります。
1つめは「お札は布でできている」という話です。これはアメリカのドル紙幣の話で、ドルの用紙は綿75パーセント、リネン(亜麻)25パーセントでできています。日本のお札は植物繊維の紙で、布ではありません。
2つめは「すかしは印刷で入れている」という思い込みです。先に見たとおり、すかしは紙をすく抄造の工程で作ります。表面に刷った模様ではないので、光にかざした時にだけ浮かび上がります。
3つめは「丈夫だから何年でも使える」という考えです。日本銀行によると、平均的な寿命は一万円券で4〜5年程度。五千円券と千円券は釣り銭としてやり取りされる回数が多く傷みやすいため、1〜2年程度です。
使えなくなったお札は、日本銀行の本店や支店で細かく裁断されます。裁断くずの一部はトイレットペーパーなどにリサイクルされ、残りは一般廃棄物として自治体の焼却施設で処分されます。丈夫な紙も、最後は身近な日用品に姿を変えています。
世界のお札と比べる
お札の材料は国によって違います。主な例を並べると、日本の選び方の特徴が見えてきます。
| 国・地域 | 材料 | 補足 |
|---|---|---|
| 日本 | みつまた・アバカなどの植物繊維 | みつまたは1879年から使用 |
| アメリカ | 綿75%・リネン25% | 赤と青の繊維を混ぜて偽造を防ぐ |
| ユーロ圏 | 綿100%の紙 | 張りと傷みにくさを生む |
| オーストラリア | ポリマー(樹脂) | 1988年に世界初のポリマー紙幣を発行 |
アメリカとユーロ圏は綿を中心にした紙で、日本は和紙の伝統を引くみつまたを使っています。オーストラリアは1988年、入植200年の記念に10ドル札を樹脂のフィルムで発行し、1992〜1996年に全券種を順に切り替えました。紙そのものをやめた国もあるということです。
オーストラリアが樹脂に向かったきっかけは偽造でした。1966年2月に発行した新しいお札は、すかしや金属の糸と上質な紙を備えていました。それでも、その年の終わりには10ドル札の偽物が出回ります。中央銀行は国の研究機関CSIROと組み、長い時間をかけて新しい素材を開発しました。お札の材料選びと偽造との競争が、切り離せない関係にあることを示す例です。
よくある疑問
- お札1枚の重さと厚さは?
- 日本銀行によると、1枚あたり約1グラム、厚さは約0.1ミリです。1000枚で約1キログラム、約10センチになります。一万円券で1億円をそろえると1万枚で、重さは約10キログラムです。湿度などで少し変わることもあります。大きさは券種で違います。縦はどれも76ミリで、横は一万円券160ミリ・五千円券156ミリ・千円券150ミリです。
- 洗濯や水濡れで破れたお札は使えますか?
- 日本銀行の本店や支店で引き換えてもらえます。表と裏の両面が揃っていることが条件で、残っている面積が3分の2以上なら全額、5分の2以上3分の2未満なら半額です。5分の2未満になると価値がなくなります。破れた場合は、表裏がわかる状態で弱いテープなどで貼り合わせて持ち込みます。
- 新しいお札が出たら、前のお札は使えなくなりますか?
- 使えます。2004年発行の一万円券や五千円券も、2024年に新しいお札が出たあとも引き続き使えます。
まとめ
お札は紙ですが、原料はみつまたとアバカで、木材パルプのコピー用紙とは出発点から違います。叩解で繊維を絡ませた丈夫な紙に、すき入れを紙そのものに作り込み、凹版印刷でザラザラした手ざわりを加えています。それでも寿命は一万円券で4〜5年、千円券なら1〜2年です。
次にお札を受け取ったら、まず指の腹でこすってみてください。コピー用紙にはない張りと引っかかりが、材料の答えそのものです。
参考にした資料
- 国立印刷局 — お札の特長
- 国立印刷局 — 写真で見る製造工程
- 日本銀行 — お札の寿命はどれくらいですか?
- 財務省 — お金の偽造防止技術にはどのようなものがあるのですか
- 日本銀行 — 損傷銀行券の引換基準
- 日本銀行 — お札はどのくらいの大きさですか?厚さや重さはどうなっていますか?
- JICA — Japan and Nepal find mutual support through 'mitsumata' plants used to make new Japanese banknotes
- U.S. Bureau of Engraving and Printing — How Money is Made
- European Central Bank — Banknote production
- Reserve Bank of Australia Museum — The Reinvention of Banknotes