ペンギンは空を飛べないのに、なぜ泳ぎの名手なのか
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ペンギンは、飛べない代わりに泳ぎが上手くなった鳥ではありません。順番は逆で、翼を水の中で使う方向に体を作り替えた結果、空を飛べなくなった鳥です。
翼で水をかいて潜る鳥は、潜るのが上手になるほど、飛ぶのに大きなエネルギーが要ります。この記事では、その仕組みと骨や化石から分かる順番、よくある誤解を順に取り上げます。
翼は「水の中を飛ぶ」ための道具
ペンギンの翼は短く硬く、板のような形をしています。オーストラリア南極局の解説では、ペンギンは翼で体を前へ押し出し、足と尾を舵として使います。
魚が尾びれを左右に振って進むのとは、仕組みがまったく違います。翼の動きは鳥の羽ばたきそのままで、押す相手が空気から水に変わっただけです。ペンギンは、水の中を飛んでいると言ってよい泳ぎ方をしています。
水の密度は、空気のおよそ800倍です。重い水を押すので、短く小さな翼でも十分に前へ進めます。反対に、その小さな翼で軽い空気を押して体重を支えるのは、とても難しくなります。水中で使いやすい翼ほど、空では役に立たない。この食い違いが、話の出発点です。
翼以外の体も水中向けです。オーストラリア南極局によると、ペンギンの体は、短い羽毛が重なり合った防水の羽で覆われています。その下には、よく発達した脂肪の層があります。冷たい海で長く泳ぎ続けるための装備です。
飛ぶことと潜ることは両立しない
2013年、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に、この食い違いを数字で示した研究が載りました。調べたのは、北の海にすむハシブトウミガラスです。ペンギンと同じように翼で水をかいて潜り、しかも空を飛べる鳥です。
飛ぶのにかかるエネルギーは、1羽あたり約141ワット、体重1キロあたり146ワットでした。それまでの記録だったインドガンの135ワットを上回る値です。翼の面積に対する体重(翼面荷重)も、飛ぶ鳥のなかで最大でした。
一方で、潜るのにかかるエネルギーは、同じくらいの大きさのペンギンより3割高い程度に収まっていました。足で水をけって潜る鳥と比べると、27%低い値です。
つまりハシブトウミガラスは、潜る性能をペンギンに近づけた代わりに、飛ぶのがぎりぎりの状態にあります。「飛ぶのは高くつき、潜るのは安い」。研究チームは、この結果こそペンギンが飛ぶ力を失った理由を示すものだと結論づけました。翼を水中向けにさらに進めれば、どこかで空を飛ぶという選択肢は消えます。
骨と化石が示す順番
飛ぶ鳥の骨は、中に空気の入る空洞があって軽く作られています。ペンギンの骨はその逆で、中が詰まって重くなっています。
2015年に学術誌Journal of Anatomyに載った研究は、生きているペンギンと化石のペンギンの骨を薄く切って調べました。ペンギンの骨が重いのは、外側の壁が厚くなったからではありません。骨の内部の組織が緻密になったためでした。重い骨は浮こうとする力を打ち消し、潜って水中にとどまるのを助けます。
同じ研究は、もう1つ大事なことを示しています。翼の骨の作り替えは、飛べなくなった後も長く続いていました。飛ぶのをやめた瞬間に、今の泳ぎが完成したわけではないのです。
化石も同じ順番を語ります。知られている最古のペンギンは、ニュージーランドのワイパラ川沿いで見つかった「ワイマヌ」です。約6200万〜6000万年前、恐竜が絶滅してから数百万年しか経っていない時代の鳥で、背丈は約1メートルありました。ワイマヌは飛べなかったと見られ、翼は潜るのに向いた形になっていました。ただし翼の骨は、今のペンギンほど極端な形にはなっていません。
まず飛ぶのをやめ、そのあと数千万年をかけて、翼と骨を水中向けに磨き続けた。今のペンギンの体は、その長い調整の到達点です。
よくある誤解
誤解1:翼は退化して役に立たない。役に立たないどころか、泳ぐときのエンジンは翼です。小さく縮んだのではなく、水を押すのに向いた硬い板へと作り替えられています。
誤解2:ペンギンは南極の鳥。オーストラリア南極局によると、ペンギンは世界に18種いて、南極で暮らすのはそのうち5種です。ほかに4種が、南極の周りの島で暮らしています。ガラパゴスペンギンは、赤道の北側でも見られる唯一のペンギンです。冷たいフンボルト海流とクロムウェル海流のおかげで、熱帯の島でも暮らせます。
誤解3:翼で潜って飛べなくなった鳥は、ペンギンだけ。北の海にもいました。オオウミガラスは、北大西洋にすんでいた背丈約75センチの鳥です。翼は約15センチしかなく、空は飛べませんでしたが、翼で水をかいて力強く泳ぎました。じつは「ペンギン」という言葉は、16世紀にはこの鳥を指していました。南の海で似た鳥に出会ったヨーロッパの船乗りたちが、同じ名前で呼ぶようになったのです。
| 鳥 | すむ海・時代 | 空を飛ぶか | ひとこと |
|---|---|---|---|
| ハシブトウミガラス | 北の海(現在) | 飛ぶ | 翼面荷重は飛ぶ鳥で最大 |
| オオウミガラス | 北大西洋(1844年に絶滅) | 飛べない | 最初に「ペンギン」と呼ばれた鳥 |
| ワイマヌ(化石) | ニュージーランド(約6000万年前) | 飛べなかったと見られる | 知られている最古のペンギン |
| コウテイペンギン | 南極(現在) | 飛べない | 最も深い潜水は565メートル |
オオウミガラスとペンギンは、近い親戚ではありません。北と南で別々に「翼で潜る」暮らしを選び、似た姿にたどり着きました。オオウミガラスは肉や羽毛を目当てに捕られ続けました。1844年にはアイスランド沖のエルデイ島で、確かな記録の残る最後の2羽が殺されています。
水族館で確かめられること
ペンギンの泳ぎは、水族館の水槽で確かめられます。見るところは3つです。
- 翼の付け根:肩から翼全体を上下に振っています。空を飛ぶ鳥の羽ばたきと同じ動きです。
- 足と尾:泳いでいる間は後ろへそろえ、向きを変えるときだけ動きます。オーストラリア南極局の説明どおり、舵の役目です。
- 陸と水の差:陸ではよちよち歩く鳥が、水に入ると急に速く、細かく向きを変えます。体のつくりが水中に合わせてあるからです。
18種それぞれの姿や暮らし、すむ海の違いを写真で見比べるなら、ペンギンの図鑑が分かりやすい資料です。
よくある疑問
- ペンギンはどのくらいの速さで泳ぐのですか?
- ギネス世界記録は、泳ぐ鳥で最も速いのをジェンツーペンギンとし、瞬間の最高速度を時速約36キロとしています。これは短い加速のときの値です。コウテイペンギンの場合、水平に泳ぐ速さは秒速2メートル(時速約7キロ)ほどです。氷の上へ跳び上がる直前には、平均で秒速5.3メートルまで上がりました。2011年の研究は、羽毛にためた空気を細かい泡にして出し、水の抵抗を減らしているという仮説を出しています。
- いちばん深く潜るペンギンは?
- コウテイペンギンです。オーストラリア南極局が記録計を付けて調べると、1回の潜水は平均3〜6分、深さは100〜200メートルが中心でした。最も深い1回は565メートルで、何千回もの潜水のうち2回は22分に達していました。
- ペンギンの祖先は、空を飛んでいたのですか?
- 飛ぶ鳥の仲間から分かれたと考えられています。2013年のPNASの論文は、ペンギンの仲間が飛ぶ鳥の仲間と分かれたのを8000万年以上前としています。ただ、最古のワイマヌの時点で、すでに飛べなかったと見られます。空を捨てた正確な時期は、化石からはまだ分かっていません。
まとめ
ペンギンは、飛べなくなったから泳ぎが上手くなったのではありません。翼を水中向けに作り替えるほど飛ぶのが高くつき、ある段階で空を捨てた鳥です。約6000万年前の最古のペンギンはすでに飛べず、その後も翼と骨の作り替えは続きました。
次にペンギンを見るときは、翼の付け根に注目してみてください。空の鳥とまったく同じ羽ばたきで、水をかいているのが分かります。
参考にした資料
- PNAS — High flight costs, but low dive costs, in auks support the biomechanical hypothesis for flightlessness in penguins
- Australian Antarctic Program — Emperor penguins diving and travelling
- Journal of Anatomy(PubMed) — Bone histology in extant and fossil penguins
- Australian Antarctic Program — Penguins
- New Zealand Birds Online — Mannering's penguin(ワイマヌ)
- Wikipedia — Waimanu
- Wikipedia — Great auk(オオウミガラス)
- Wikipedia — Galápagos penguin
- Guinness World Records — Fastest bird swimmer
- Marine Ecology Progress Series(University College Cork) — Drag reduction by air release promotes fast ascent in jumping emperor penguins