雑学

お金には汚れと細菌がついている?触った後の習慣

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
お金には汚れと細菌がついている?触った後の習慣

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お金に細菌がついているのは事実です。紙幣や硬貨から微生物が見つかったという報告は、1800年代の終わりから100本以上積み重なっています。

ただし「お金で病気がうつる」とまでは言えません。2023年に医学誌に載った総説は、紙幣と硬貨が一般の人に特別な感染リスクをもたらすとは言えない、とまとめています。菌がつく仕組みと残り方、触った後の現実的な習慣を順に見ていきます。

結論は「菌はつく、でも特別には危なくない」

2016年に学術誌「Microorganisms」に載った研究(Vriesekoopら)は、お金を公衆電話や駅の手すり、遊具などと同じ仲間として扱っています。どれも大勢が次々に触り、ふだん誰も拭かない物です。

人の手には、もともと菌がいます。食品安全委員会によると、食中毒の原因になる黄色ブドウ球菌は健康な人の鼻やのどにもすんでいます。持っている人は約40%です。その手で触れたお金に菌が移るのは、自然な成り行きです。

考えるべき点は2つあります。ついた菌がどのくらい残るのか。そして、その菌が人にうつって病気を起こすのか。前者は実験でかなり分かってきました。後者について、2023年に「Journal of Medical Virology」に載った総説は、紙幣と硬貨は一般の人にとって特別な感染リスクにはならないと結論づけています。

紙幣と硬貨で、菌の残り方が違う

先ほどの2016年の研究は、ボランティアの手の菌をそのままお金に移し、どれだけ残るかを追いました。紙幣は気温20℃、湿度80%の部屋で保管しています。

綿でできた中国の人民元では、菌の数が最初の15日ほどほとんど減りませんでした。プラスチックでできたオーストラリア・ドルでは、最初の1週間でおよそ10万分の1まで減り、翌週にはさらに10分の1になりました。

硬貨はもっと厳しい環境でした。オーストラリアの20セント硬貨と1ドル硬貨では、菌は1週間でほぼゼロまで減りました。菌がまったく検出されない硬貨の割合も、時間とともに100%に達しています。

研究チームは、菌がどれだけ表面に張りつくかも調べました。紙幣を塩水で何度もすすぎ、はがれずに残る菌の割合を見る方法です。結果を表にまとめます。

2016年の実験でみた、お金の素材と菌の残り方
お金素材実験の結果
日本円和紙に近い紙30回すすいでも50%以上が残った
中国の人民元綿30回すすいで約40%が残った。保管しても15日ほど菌の数は横ばい
アメリカ・ドル綿と麻すすぐたびに少しずつ減り、30回でゼロになった
オーストラリア・ドルポリマー(プラスチック)10回すすぐと落ちた。保管すると1週間で約10万分の1
オーストラリアの硬貨銅を主とする合金保管すると1週間で菌がほぼゼロ

比べた4種類の紙幣のうち、菌をいちばん手放さなかったのは日本円でした。ただしこれは「ついた菌が落ちにくい」という性質の比較です。日本のお札で病気が広がるという意味ではありません。

差を生むのは繊維と金属

紙幣の差は、表面のつくりから来ます。電子顕微鏡で見ると、ポリマー紙幣の表面はなめらかで、ほかの3種類は繊維が絡み合っています。繊維のすき間は菌がとどまる足場になり、植物の繊維は水分も含みやすいので、菌が乾ききりません。

国立印刷局によると、日本のお札の原料はミツマタやアバカ(マニラ麻)です。ミツマタは昔から和紙に使われてきた植物で、お札の紙に採用されたのは1879年です。研究チームは、綿や和紙のように細い繊維が立体的に絡んだ素材ほど、菌が強く張りつくと説明しています。

硬貨のほうは、金属そのものが菌を抑えます。研究では、硬貨から切り抜いた直径12ミリの円板を培地に置くと、周りだけ黄色ブドウ球菌が育たない輪ができました。銅とニッケルの合金では、大腸菌やサルモネラ、リステリアなど5種類の菌で同じ傾向が出ています。ニッケルが多いほど抑える力が強くなる菌もありました。

日本の硬貨も銅が主役です。造幣局によると、10円は銅95%で、5円は銅60〜70%です。50円と100円は銅75%・ニッケル25%でできています。この50円と100円は、実験で使われたオーストラリアの20セント硬貨と同じ配合です。

よくある誤解

1つ目は「菌が見つかった=病気がうつる」という考えです。菌がいることと、その菌で人が発病することは別の話です。2023年の総説は、お金を大事な感染経路とみる世間の見方と違って、今ある証拠は特別なリスクを示していないと述べています。

2つ目は「硬貨なら菌はいない」という考えです。実験で菌がほぼゼロになったのは1週間たってからで、触られた直後には手の菌が残っています。研究チームは、菌が硬貨の金属に慣れると、より長く生き延びることも確かめています。流通している硬貨から少ないながら菌が見つかり続けるのは、このためだとしています。

3つ目は「お金だけ気をつければよい」という考えです。研究がお金を手すりや遊具と同じ仲間に入れたように、手は1日に多くの物に触れます。厚生労働省の資料も、ノロウイルスが付きやすい場所として水道の蛇口やドアノブを挙げています。お金だけを避けても、手が菌に触れる機会はほとんど減りません。

身近な例:お札の一生と、手を洗う場面

汚れたお札が、いつまでも出回るわけではありません。日本銀行によると、お札の平均的な寿命は一万円券で4〜5年程度です。つり銭でやり取りされることが多い五千円券と千円券は、1〜2年程度で傷みます。

日本銀行に戻ったお札は、機械で枚数や真偽、傷み具合を調べられます。この作業を「鑑査」と呼び、2010年度には約101億枚が鑑査されました。汚れなどで使えないと判断された約32億枚は、細かく裁断されています。裁断くずは、いまはトイレットペーパーなどに再利用されています。

いっぽう手は、自分で洗うしかありません。厚生労働省の資料は、手を洗う場面として帰宅後やトイレの後、調理の前と調理中の必要なときなどを挙げています。お金を触ったかどうかより、こうした区切りで洗うほうが続けやすい習慣です。

洗い方による差を示したデータもあります。厚生労働省が紹介している実験(森功次ら、2006年)では、手に残ったノロウイルスの数が次のように変わりました。

これは実験室の条件での数字で、ふだんの手洗いで同じだけ減るとは限りません。それでも、水で流すだけより、せっけんでもみ洗いするほうが残りが少なかったという傾向は読み取れます。

よくある疑問

日本のお札は、菌が付きやすいのですか?
2016年の実験では、日本円は塩水で30回すすいでも菌の50%以上が残り、比べた4種類の紙幣でいちばん菌がはがれにくい結果でした。研究チームは、細い繊維が立体的に絡んだ紙であることを理由に挙げています。ただし、日本のお札が原因で病気が広がったことを示したデータではありません。
料理の途中でお金を触ったら、手を洗うべきですか?
厚生労働省の資料は、調理の前と、調理中の必要なときに手を洗う場面として挙げています。食品安全委員会によると、ブドウ球菌の食中毒の多くは人の手についた菌が食品を汚すことで起きると考えられています。菌は食品の中で増えて毒素を作ります。この毒素は熱に強く、ふつうの加熱調理では働きを失いません。宅配の支払いなどを挟んだら、次の食材に触る前に手を洗うのが資料に沿ったやり方です。

まとめ

お金には人の手から菌が移ります。残り方は素材で大きく違い、綿の紙幣では15日ほど菌の数がほぼ変わらず、ポリマー紙幣や硬貨では1週間で大きく減りました。いっぽうで、お金が特別な感染源だという証拠はありません。

小銭やお札を触るたびに身構える必要はありません。帰宅したとき、トイレの後、料理や食事の前。この区切りで、せっけんを使って手を洗う習慣を続けてください。お金だけを気にするより、手が触れるほかの物まで含めて考えた習慣になります。

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