生き物

マグロは眠るときも泳ぎ続けているって本当?

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
マグロは眠るときも泳ぎ続けているって本当?

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マグロは眠るときも泳ぎ続けています。自分でえらぶたを動かして水を送る力が弱く、口を開けて前に進むことでしか十分に呼吸できないからです。

止まれば酸素が入ってこない。泳ぐことと息をすることが、同じ動作になっている魚です。この記事では、ふつうの魚・サメ・海鳥と比べながら、マグロの呼吸と体と眠り方の違いを見ていきます。

呼吸のしかたを比べる

コイやタイなど多くの魚は、口とえらぶたをパクパク動かして水を吸い込み、えらに通します。口の中をポンプのように使うので、止まったままでも呼吸できます。

マグロはこの動きが得意ではありません。代わりに口を開けたまま泳ぎ、飛び込んでくる水をえらに当てて酸素を取り出します。この呼吸法を「ラム換水」と呼びます。農林水産省も、マグロはえらぶたを動かさず口を開けたまま泳ぐため、泳ぎ続けなければ十分に呼吸できないと説明しています。

「止まると死ぬ魚」としてはサメも有名です。ただし、すべてのサメがそうではありません。南アフリカのツー・オーシャンズ水族館によると、400種を超えるサメのうち、ラム換水だけに頼るのは約20種です。

呼吸のしかたの比較(農林水産省・ツー・オーシャンズ水族館の解説をもとに作成)
生き物水の取り込み方止まったら
コイ・タイなど多くの魚口とえらぶたを動かして吸い込む呼吸できる
ナースザメなど海底で暮らすサメほおの筋肉で吸い込む。目の後ろの穴(噴水孔)からも取り込める海底でじっとしたまま呼吸できる
ホホジロザメ・ジンベエザメ・シュモクザメ・アオザメ泳いで口から水を流し込む前に進むか、強い流れがないと窒息する
マグロ口を開けたまま泳いで水を流し込む十分に呼吸できない

表のとおり、泳ぎ続ける必要があるのは、外洋を回遊する大型の魚にかたよっています。速く泳ぐほど水は勢いよく入るので、高速で長く泳ぐ魚ほどこのやり方に向いています。

体のつくりを比べる

マグロの体は、水の抵抗を減らす方向に作り込まれています。農林水産省の解説では、次の4点が挙がっています。

違いがもっと表れるのは、体の中です。沖縄県水産海洋技術センターの解説をもとに、ふつうの魚と並べました。

ふつうの魚とマグロの体の中の違い(沖縄県水産海洋技術センター「さかなの話」第16回をもとに作成)
比べる点ふつうの魚マグロ
血合筋(ゆっくり長く泳ぐための筋肉)体の表面近くに少しだけ背骨の横から体の側面まで広く分布
えらで冷えた血の通り道背骨の下を通って全身へ体の側面の動脈を通り、体の芯を冷やしにくい
熱を逃がさない仕組み特になし「奇網」と呼ばれる毛細血管の網で、動脈と静脈の間で熱を受け渡す

マグロはふだん、この血合筋を使って泳いでいます。そのため運動で生まれる熱は、体の中心付近から出ます。その熱を奇網が外に逃がさないため、体温をまわりの海水より高く保てます。筋肉が温かければ、力を出し続けられます。

同じセンターによると、沖縄県ではマグロ類が年に1万トン以上水揚げされ、漁業生産額の約半分を占めています。釣り上げたマグロの身が白っぽくパサパサになる「ヤケ」も、体に熱がこもるこの仕組みと関係していると考えられています。

速さを比べる

「マグロは時速80キロで泳ぐ」とよく言われます。けれども、実際に測った値はずっと小さいものです。

海洋生物学者の渡辺佑基さんが、記録計を付けた体重200〜300キロのクロマグロのデータを調べたところ、最高でも時速18キロ、ふだんの遊泳速度は時速7キロ前後でした。

同じ記事では、図鑑で「時速100キロ」とされるバショウカジキも、平均は時速2キロだったと紹介されています。サメやペンギン、アザラシの平均速度も、例外なく時速8キロ以下でした。

マグロが優れているのは、瞬間の速さより、時速7キロ前後で休まず泳ぎ続ける持久力のほうです。大きな血合筋と、熱を逃がさない奇網。どちらも長く泳ぎ続けるための装備と言えます。

眠り方を比べる

泳ぎ続ける魚は眠らない、という訳ではありません。魚は脳波を測るのが難しいため、眠りは行動で判断します。休んでいるような姿勢をとる、刺激に反応しにくくなる。こうした状態を「行動睡眠」と呼び、北海道大学の研究でもこの基準で魚の眠りが調べられています。

マグロは止まって休めないので、泳ぎながら活動を落としていると考えられています。ただし、いつどのくらい休んでいるのかは、まだはっきり分かっていません。

「マグロは脳を左右半分ずつ眠らせて泳ぐ」という説明も広く出回っています。脳の片側ずつを眠らせる半球睡眠は、イルカなどの海の哺乳類と、一部の鳥で確かめられた現象です。たとえばマックス・プランク研究所は、海の上を何日も飛び続けるグンカンドリの脳波を野外で測りました。グンカンドリは飛びながら片側ずつ、あるいは両側同時に眠っていました。ただし飛行中の睡眠は1日1時間に満たず、陸で眠る時間のごく一部でした。

一方、マグロを含む魚類で同じ現象が脳波で確かめられたという報告はありません。泳ぎながら休んでいるのは確かでも、その中身はまだ研究の途中です。

育てる現場で見える違い

止まらずに泳ぐ暮らし方は、マグロを育てる現場では悩みの種にもなります。近畿大学はクロマグロを卵から育てる完全養殖を続けていますが、稚魚の時期に水槽の壁や網へぶつかって大量に死ぬことが、最も大きな課題の1つとされてきました。

同大学の研究報告によると、この大量死は昼にも夜にも起きます。昼は水槽の壁に模様を付けると衝突が減りました。夜は明かりをつけて育てると、大量死がかなり減りました。暗いところで物を見る力が弱いことが、夜の衝突の原因と考えられています。それでも、今のところ完全には防げていません。

同じ報告は、クロマグロの頭のてっぺんに「松果体窓」という皮膚が透けた部分があることにも触れています。その下には、光を感じて体内時計の調節にかかわる松果体があります。この窓はほかの魚と比べて、透明度も大きさも際立っています。泳ぎながら休む魚が、昼と夜をどう感じ分けているのか。眠りの謎を解く手がかりの1つになりそうです。

マグロと一口に言っても、大きさはさまざまです。クロマグロは全長3メートル、体重400キロを超えます。メバチは全長2メートルほど、ビンナガは体長1メートルほどの小型の種類です。それでも口を開けて泳ぎ続ける暮らし方は共通しています。

マグロの仲間やサメ、カジキを並べて体の形を見比べるなら、写真と図が多い魚の図鑑が分かりやすいです。ひれの形や体型を並べると、外洋を泳ぎ続ける魚がどれも似た紡錘形をしていることに気づきます。

泳ぎ続ける魚のまとめ

マグロは口を開けたまま泳ぐラム換水で呼吸するため、眠るときも止まれません。サメでもラム換水だけに頼るのは400種超のうち約20種で、泳ぎ続ける暮らしは外洋の大型魚に限られた特別な形です。

その暮らしを支えるのが、体の芯まで広がる血合筋と、熱を逃がさない奇網です。速さは最高でも時速18キロほどで、強みは止まらない持久力にあります。水族館でマグロの群れを見る機会があれば、口元に注目してみてください。少し開いたまま泳いでいれば、それがマグロの呼吸している姿です。

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