凍るような寒さを昆虫はどうやって生き抜くのか
※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先の楽天市場で購入されると、紹介料が入ることがあります。
冬を越す昆虫の作戦は、大きく2つに分かれます。体を凍らせないか、あえて凍らせるかです。凍らせない側は体液に糖やアルコールをため込み、氷の成長を止めるタンパク質まで作ります。
アラスカにすむある甲虫の幼虫は、マイナス100度まで冷やされても、41匹のうち3匹が生き残りました。この記事では、冬の虫について浮かびやすい疑問を順に取り上げ、最後に身近な冬の虫を観察する方法を紹介します。
虫は冬をどうやって越すの?
昆虫の寒さへの備えは、「凍結回避型」と「凍結耐性型」の2通りに整理されています。凍結回避型は、体液を最後まで凍らせないことに徹します。凍結耐性型はその逆で、体が凍ることを前提に、凍る場所と凍り方をコントロールします。同じ冬を越すのに、正反対の解き方が用意されているわけです。
どの姿で冬を越すかも、種類によって違います。本田技研工業が管理する森の観察記録では、次のような例が紹介されています。
- 卵:オオカマキリ(多くのカマキリは卵で冬を越し、春にかえる)
- 幼虫:オオムラサキ、ゴマダラチョウ(エノキの根元の落ち葉の下)
- さなぎ:ジャコウアゲハなどアゲハチョウの仲間
- 成虫:キイロテントウ、エサキモンキツノカメムシ(木の皮の隙間や落ち葉の中)
卵やさなぎは動けないぶん、殻や繭で身を守ります。成虫は、風の当たらない隙間に潜り込みます。どの姿でも、体の中では寒さに備えた変化が起きています。
水は0度になっても凍らないって本当?
本当です。水は0度になった瞬間に凍るわけではありません。氷になるきっかけが無ければ、0度を下回っても液体のままでいられます。
この状態が過冷却で、ついに凍り始める温度を過冷却点と呼びます。越冬する昆虫は、この過冷却点を自力で下げています。
秋になると、多くの越冬昆虫はグリセロールやトレハロースといった成分を体液に高い濃度でため込みます。水に物が溶けると凍りにくくなる性質を使って、凍り始める温度を引き下げていくのです。多くの凍結回避型の昆虫は、秋に食べるのをやめて腸を空にします。腸の中の微生物が、氷のきっかけになるからです。
不凍タンパク質は何をしているの?
糖やアルコールだけでは足りない場合に働くのが、不凍タンパク質です。このタンパク質は氷の表面にはりつき、水分子がそれ以上結晶に加わるのを妨げます。小さな氷ができても、大きく育たないように押さえ込むわけです。
産業技術総合研究所は2018年、不凍タンパク質の表面に、氷とよく似た水分子のネットワークが出来ていることを見つけました。氷へ素早く結合できる理由を、分子のレベルで説明した成果です。
同じ働きをするタンパク質は、1960年代後半にデブリースが南極の海にすむ魚から初めて見つけました。氷に結合するタンパク質は、その後も昆虫のほか植物やキノコ、細菌など、寒さに強い多くの生き物で見つかっています。北アメリカの甲虫Dendroides canadensisの幼虫は、このタンパク質を使って、過冷却点を夏の約マイナス6度から、冬にはマイナス18〜26度まで下げています。
いちばん寒さに強い虫はどこまで耐える?
極端な例が、アラスカ内陸部の枯れたポプラの樹皮の下にすむ、ヒラタムシの仲間(Cucujus clavipes puniceus)の幼虫です。2010年に発表された研究によると、冬の過冷却点は平均でマイナス35〜42度でした。最も低い個体はマイナス58度です。
冬の幼虫の体液では、グリセロールの濃度が1リットルあたり4〜6モルに達しました。体内の水分は、乾いた体重1ミリグラムあたり約2.0ミリグラムから約0.4ミリグラムへと、夏の5分の1ほどまで減っていました。さらに冷やすと、体液は結晶にならずガラスのように固まります。大きな幼虫でこの変化が起きた温度は、平均でマイナス76度前後でした。
マイナス70〜73度まで冷やした幼虫は、約半数が生き延びました。マイナス100度では、41匹のうち3匹、約7%です。同じ論文は、秋の幼虫の体液を約3倍に濃縮すると、凍る温度を13度近く引き下げる効果が出たという先行研究も紹介しています。生き物で測られた中で最も大きな値だとされています。
わざと凍る虫は、なぜ死なないの?
凍結耐性型は、まったく逆の作戦をとります。カギは、凍る場所を細胞の外に限ることです。凍結耐性型の昆虫は、氷の核になるタンパク質を体液に用意し、比較的高い氷点下の温度のうちから細胞の外を凍らせ始めます。
細胞の外に氷ができると、細胞の中の水が外へ引き出されます。中の液は濃くなり、ますます凍りにくくなります。一気に深く冷えて細胞の中まで凍ると、氷の結晶が細胞を壊します。先に穏やかな凍り方を起こしておくことで、その事態を避けているのです。
北アメリカでセイタカアワダチソウの仲間に虫こぶを作るハエ(Eurosta solidaginis)の幼虫は、この型の代表です。虫こぶの中で冬を越し、体にグリセロールとソルビトールをため込みます。幼虫の脂肪の細胞を使った1997年の実験では、どちらの成分も凍らせた細胞の生き残りを助けていました。
冬の虫はどこで見つかる?
冬の虫は動かないので、どこにいるか見当を付けて探すのがコツです。次の手順で、公園や雑木林で探してみてください。
- 晴れて暖かい日の昼間に出かける:オツネントンボやウラギンシジミのように、暖かい日にはひなたで動き出す虫もいます。
- 葉の落ちた枝を見上げる:葉が落ちると見通しがよくなり、枝についた繭やさなぎ、カマキリの卵を見つけやすくなります。
- 看板や樹名板の裏をのぞく:風が当たらず温度が安定する板の裏では、テントウムシが数十〜数百匹かたまって冬を越していることがあります。
- エノキの根元の落ち葉をめくる:特に日の当たりにくい北側の落ち葉に、オオムラサキやゴマダラチョウの幼虫が見つかることがあります。
- 見たら元に戻す:めくった落ち葉や木の皮は元の場所に戻し、虫は持ち帰りません。暖かい部屋に入れると目覚めてしまい、冬は食べ物が少ないので弱ってしまいます。
落ち葉の下や板の裏は、本当に外より暖かいのか。気になったら、温度計を差し込んで比べてみると、虫が選んだ場所の意味が見えてきます。
冬の虫の観察には何があると便利?
冬の虫は小さく、樹皮の隙間のような暗い場所にいます。拡大して見る道具と、隠れ場所の温度を測る道具を1点ずつ選びました。価格は2026年10月時点の楽天市場の表示です。
ルーペ:Phoenix Loupe LEDライト付きハンドルーペ 4倍 約1,398円。全長195mm、重さ120gの手持ちルーペで、LEDライトの明るさを強・弱に切り替えられます。
向いている人:板の裏や樹皮の隙間など、暗い場所の虫を照らして見たい人。注意:ライト用の単4電池2本は別に用意が必要です。虫の細かな毛や模様まで見たい人には、4倍では物足りないことがあります。
温度計:HATUSOKU 外部センサー付きデジタル温度計 約1,000円。150cmのコードの先にセンサーがあり、マイナス40度から70度まで測れます。最高・最低の温度を表示する機能付きです。
向いている人:落ち葉の下と外の空気の温度を比べたい人。向かない人:雨や雪の日に外で使いたい人。本体は防水ではないので、晴れた日に使います。
まとめ
昆虫の冬越しは、凍らせない工夫と、凍り方を選ぶ工夫の2本立てでした。凍らせない側は糖やアルコール、不凍タンパク質で過冷却点を下げ、アラスカの甲虫はマイナス100度にも一部が耐えます。凍る側は細胞の外だけを先に凍らせ、細胞の中を守ります。
不凍タンパク質の研究は、食品の冷凍や細胞の保存といった技術への応用も期待されています。冬の晴れた日に公園の看板の裏をのぞいてみてください。動かない虫を見つけたら、そのまま静かに戻しましょう。死んだ訳ではなく、春を待つ最中です。
参考にした資料
- Journal of Experimental Biology — Animal ice-binding (antifreeze) proteins and glycolipids: an overview with emphasis on physiological function
- Journal of Experimental Biology — Deep supercooling, vitrification and limited survival to –100°C in the Alaskan beetle Cucujus clavipes puniceus larvae
- 産業技術総合研究所 — なぜ不凍タンパク質は氷が成長するのを阻止できるのか
- Honda — Honda Woods 森のライブラリー 冬の生きもの観察
- るるぶKids — 冬の昆虫の探し方(堀川ランプ 監修)
- Bennett & Lee (1997) Journal of Experimental Biology — Modeling seasonal changes in intracellular freeze-tolerance of fat body cells of the gall fly Eurosta solidaginis