ウイルスの大きさも表せる、ナノメートルの世界
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ナノメートルは、1メートルを10億に分けた1つ分の長さです。髪の毛1本の太さが約8万〜10万ナノメートルなので、その10万分の1ほどにあたります。
ウイルスの多くは20〜300ナノメートル。この単位を使えば、目に見えない物の大きさも2〜3桁の数字で言い表せます。この記事では、ナノメートルの世界を数字で順に見ていきます。
1ナノメートルを数字で並べる
1ナノメートルは10-9メートルで、記号はnmです。ミリメートルに直すと100万分の1ミリになります。数字だけでは掴みにくいので、身近な物を同じ物差しで並べてみます。
| もの | ナノメートルで |
|---|---|
| 1インチ(2.54センチ) | 2540万 |
| コピー用紙1枚の厚さ | 約10万 |
| 髪の毛1本の太さ | 約8万〜10万 |
| 人の目に見える光の波長 | 約380〜700 |
| 光の顕微鏡で見分けられる限界(横方向) | 約250 |
| ウイルスの直径(多くの場合) | 約20〜300 |
| DNAの二重らせんの太さ | 約2.5 |
| 金の原子1個の直径 | 約0.3 |
表の下の方ほど小さくなります。金の原子は直径が約3分の1ナノメートルなので、3個並べるとほぼ1ナノメートルです。ナノメートルは、原子が数個並んだくらいの長さを表す物差しといえます。
米国の国家ナノテクノロジー・イニシアチブは、別のたとえも挙げています。直径1ナノメートルの球とソフトボールの大きさの比は、ソフトボールと地球の比とほぼ同じです。
「ナノ」が決まったのは1960年
ナノは、ギリシャ語で「小人」を意味する言葉に由来します。この接頭語が世界共通のルールになったのは1960年です。
この年の第11回国際度量衡総会は、単位の体系を「国際単位系(SI)」と名づけました。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の資料によると、同じ総会で6つの接頭語が加わっています。大きい側のメガ・ギガ・テラと、小さい側のマイクロ・ナノ・ピコです。そのかわり、1万倍を表すミリアと1万分の1を表すミリオは廃止されました。
| 接頭語 | 記号 | 大きさ | 加わった年 |
|---|---|---|---|
| ミリ | m | 10-3(1000分の1) | 1795年 |
| マイクロ | μ | 10-6(100万分の1) | 1960年 |
| ナノ | n | 10-9(10億分の1) | 1960年 |
| ピコ | p | 10-12(1兆分の1) | 1960年 |
| フェムト・アト | f・a | 10-15・10-18 | 1964年 |
| ゼプト・ヨクト | z・y | 10-21・10-24 | 1991年 |
| ロント・クエクト | r・q | 10-27・10-30 | 2022年 |
1795年に決まった最初の8つは、ギリシャ語とラテン語の数詞から作られました。その後も小さい側と大きい側に少しずつ足され、2022年の追加で全部で24個になりました。
ナノは長さ以外にも付きます。たとえばナノ秒は10億分の1秒で、その間に光は空気中を約30センチ進みます。
「ナノテクノロジー」という言葉が生まれたのは、接頭語が決まった14年後です。1974年に東京理科大学の谷口紀男が学会で初めて使い、材料を「原子1個や分子1個の単位で」加工する技術と定義しました。その15年前の1959年12月には、物理学者リチャード・ファインマンが講演「底のほうにはまだ十分な余地がある」で、原子の大きさで物を扱う未来を語っています。
原子を1個ずつ見て動かせる時代が来たのは、1981年にIBMチューリッヒ研究所で走査型トンネル顕微鏡が生まれてからです。開発したビーニッヒとローラーは、1986年のノーベル物理学賞を受けました。1989年には、IBMの研究者がこの顕微鏡で35個のキセノン原子を並べ、「IBM」の3文字を書いています。
ウイルスと光の顕微鏡の「250ナノメートルの壁」
ウイルスの直径は、多くが20〜300ナノメートルの範囲に収まります。米国国立医学図書館(PMC)に載る総説によると、新型コロナウイルスの粒子は直径50〜200ナノメートルの球形です。
100ナノメートルをミリメートルで書くと0.0001ミリになり、ゼロを数えないと読めません。ナノメートルなら100で済みます。扱う物が小さい分野ほど細かい単位を使うのは、この読みやすさのためです。
学校の顕微鏡でウイルスが見えないのは、倍率が足りないからではありません。光の波が粗すぎるのです。光を使う顕微鏡で見分けられるのは、横方向で約250ナノメートル、奥行き方向で約700ナノメートルまでとされます。これより近い2つの点は、像がにじんで1つに重なります。
この限界は、ドイツの物理学者エルンスト・アッベが1873年の論文で示したものです。見分けられる幅は、おおよそ光の波長の半分。目に見える光の波長が380〜700ナノメートルなので、ここが壁になります。
そのため、ウイルスの形を調べるときは電子顕微鏡の出番になります。電子は光より波長がはるかに短く、原子に近い細かさまで写せるからです。ただ、電子顕微鏡では試料を固定する必要があります。そこで、光の限界を工夫で超える超解像顕微鏡の研究も進んでいます。上の総説は、この技術でウイルスの形を調べた研究をまとめたものです。
半導体の「3ナノ」は長さではない
ナノと付いていても、長さとは限りません。半導体の「3ナノ」「5ナノ」がその例です。これは製造技術の世代を示す呼び名で、チップの中に3ナノメートルの部品があるという意味ではありません。
米国の電気電子学会(IEEE)の技術誌スペクトラムは、名前と実際の寸法の食い違いが約20年続いていると書いています。ずれ始めたのは1990年代半ばです。チップメーカーが、トランジスタのゲートの長さをほかの部分より速く縮めたのがきっかけでした。
- 130ナノメートル世代:実際のゲートの長さは70ナノメートル
- インテルの22ナノメートル世代(2011年):ゲートの長さは26ナノメートル、配線の間隔の半分(ハーフピッチ)は40ナノメートル
- 同じ世代のフィンと呼ばれる部分の幅:8ナノメートル
22ナノメートル世代なのに、22ナノメートルの部分はどこにもありません。同誌は、世代の数字を長さではなく密度で表す案も紹介しています。1平方ミリメートルあたりのトランジスタ数・メモリーの数・配線のつながりの数を、3つ並べて書く方法です。
接頭語がどのように決まり、長さ・重さ・時間でどう使い分けられているかは、表を並べるより図で見るほうが早く頭に入ります。単位の全体像をつかみたいなら、単位をテーマにした図鑑が手元にあると便利です。
よくある疑問
- ナノメートルとマイクロメートルは、何倍違いますか?
- 1000倍です。1マイクロメートルは1000ナノメートルで、1ミリメートルは100万ナノメートルです。光の顕微鏡の限界の約250ナノメートルは、0.25マイクロメートルと言い換えられます。
- 1ナノメートルより小さい物は、何で表しますか?
- ナノメートルの小数で書くか、1000分の1のピコメートルを使います。金の原子の直径は約0.3ナノメートル、ピコメートルなら約300ピコメートルです。
まとめ
ナノメートルは10億分の1メートルで、髪の毛の太さの約10万分の1です。1960年に国際単位系の接頭語として決まり、ウイルスや光の波長、原子の大きさを2〜3桁の数字で言い表せるようにしました。
ただし、半導体の「3ナノ」のように、長さを表していないナノもあります。次に「ナノ」という文字を見かけたら、それが何を測った数字なのかを確かめてみてください。
参考にした資料
- National Nanotechnology Initiative — Just How Small Is “Nano”?
- PMC(米国国立医学図書館) — Virus morphology: Insights from super-resolution fluorescence microscopy
- IEEE Spectrum — A Better Way to Measure Progress in Semiconductors
- NIST — Metric (SI) Prefixes
- NASA Science — Visible Light
- Wikipedia — Nano-(語源とナノ秒)
- Wikipedia — Diffraction-limited system(アッベの回折限界)
- Wikipedia — History of nanotechnology(谷口紀男・ファインマン・走査型トンネル顕微鏡)