科学

ウイルスの大きさも表せる、ナノメートルの世界

2026年7月公開 · 2026年10月更新 · 読了7分
ウイルスの大きさも表せる、ナノメートルの世界

※この記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。リンク先の楽天市場で購入されると、紹介料が入ることがあります。

ナノメートルは、1メートルを10億に分けた1つ分の長さです。髪の毛1本の太さが約8万〜10万ナノメートルなので、その10万分の1ほどにあたります。

ウイルスの多くは20〜300ナノメートル。この単位を使えば、目に見えない物の大きさも2〜3桁の数字で言い表せます。この記事では、ナノメートルの世界を数字で順に見ていきます。

1ナノメートルを数字で並べる

1ナノメートルは10-9メートルで、記号はnmです。ミリメートルに直すと100万分の1ミリになります。数字だけでは掴みにくいので、身近な物を同じ物差しで並べてみます。

ナノメートルで測った大きさ(米国国家ナノテクノロジー・イニシアチブ、NASAなどの資料をもとに作成)
ものナノメートルで
1インチ(2.54センチ)2540万
コピー用紙1枚の厚さ約10万
髪の毛1本の太さ約8万〜10万
人の目に見える光の波長約380〜700
光の顕微鏡で見分けられる限界(横方向)約250
ウイルスの直径(多くの場合)約20〜300
DNAの二重らせんの太さ約2.5
金の原子1個の直径約0.3

表の下の方ほど小さくなります。金の原子は直径が約3分の1ナノメートルなので、3個並べるとほぼ1ナノメートルです。ナノメートルは、原子が数個並んだくらいの長さを表す物差しといえます。

米国の国家ナノテクノロジー・イニシアチブは、別のたとえも挙げています。直径1ナノメートルの球とソフトボールの大きさの比は、ソフトボールと地球の比とほぼ同じです。

「ナノ」が決まったのは1960年

ナノは、ギリシャ語で「小人」を意味する言葉に由来します。この接頭語が世界共通のルールになったのは1960年です。

この年の第11回国際度量衡総会は、単位の体系を「国際単位系(SI)」と名づけました。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の資料によると、同じ総会で6つの接頭語が加わっています。大きい側のメガ・ギガ・テラと、小さい側のマイクロ・ナノ・ピコです。そのかわり、1万倍を表すミリアと1万分の1を表すミリオは廃止されました。

小さい側の接頭語と、加わった年(NISTの資料をもとに作成)
接頭語記号大きさ加わった年
ミリm10-3(1000分の1)1795年
マイクロμ10-6(100万分の1)1960年
ナノn10-9(10億分の1)1960年
ピコp10-12(1兆分の1)1960年
フェムト・アトf・a10-15・10-181964年
ゼプト・ヨクトz・y10-21・10-241991年
ロント・クエクトr・q10-27・10-302022年

1795年に決まった最初の8つは、ギリシャ語とラテン語の数詞から作られました。その後も小さい側と大きい側に少しずつ足され、2022年の追加で全部で24個になりました。

ナノは長さ以外にも付きます。たとえばナノ秒は10億分の1秒で、その間に光は空気中を約30センチ進みます。

「ナノテクノロジー」という言葉が生まれたのは、接頭語が決まった14年後です。1974年に東京理科大学の谷口紀男が学会で初めて使い、材料を「原子1個や分子1個の単位で」加工する技術と定義しました。その15年前の1959年12月には、物理学者リチャード・ファインマンが講演「底のほうにはまだ十分な余地がある」で、原子の大きさで物を扱う未来を語っています。

原子を1個ずつ見て動かせる時代が来たのは、1981年にIBMチューリッヒ研究所で走査型トンネル顕微鏡が生まれてからです。開発したビーニッヒとローラーは、1986年のノーベル物理学賞を受けました。1989年には、IBMの研究者がこの顕微鏡で35個のキセノン原子を並べ、「IBM」の3文字を書いています。

ウイルスと光の顕微鏡の「250ナノメートルの壁」

ウイルスの直径は、多くが20〜300ナノメートルの範囲に収まります。米国国立医学図書館(PMC)に載る総説によると、新型コロナウイルスの粒子は直径50〜200ナノメートルの球形です。

100ナノメートルをミリメートルで書くと0.0001ミリになり、ゼロを数えないと読めません。ナノメートルなら100で済みます。扱う物が小さい分野ほど細かい単位を使うのは、この読みやすさのためです。

学校の顕微鏡でウイルスが見えないのは、倍率が足りないからではありません。光の波が粗すぎるのです。光を使う顕微鏡で見分けられるのは、横方向で約250ナノメートル、奥行き方向で約700ナノメートルまでとされます。これより近い2つの点は、像がにじんで1つに重なります。

この限界は、ドイツの物理学者エルンスト・アッベが1873年の論文で示したものです。見分けられる幅は、おおよそ光の波長の半分。目に見える光の波長が380〜700ナノメートルなので、ここが壁になります。

そのため、ウイルスの形を調べるときは電子顕微鏡の出番になります。電子は光より波長がはるかに短く、原子に近い細かさまで写せるからです。ただ、電子顕微鏡では試料を固定する必要があります。そこで、光の限界を工夫で超える超解像顕微鏡の研究も進んでいます。上の総説は、この技術でウイルスの形を調べた研究をまとめたものです。

半導体の「3ナノ」は長さではない

ナノと付いていても、長さとは限りません。半導体の「3ナノ」「5ナノ」がその例です。これは製造技術の世代を示す呼び名で、チップの中に3ナノメートルの部品があるという意味ではありません。

米国の電気電子学会(IEEE)の技術誌スペクトラムは、名前と実際の寸法の食い違いが約20年続いていると書いています。ずれ始めたのは1990年代半ばです。チップメーカーが、トランジスタのゲートの長さをほかの部分より速く縮めたのがきっかけでした。

22ナノメートル世代なのに、22ナノメートルの部分はどこにもありません。同誌は、世代の数字を長さではなく密度で表す案も紹介しています。1平方ミリメートルあたりのトランジスタ数・メモリーの数・配線のつながりの数を、3つ並べて書く方法です。

接頭語がどのように決まり、長さ・重さ・時間でどう使い分けられているかは、表を並べるより図で見るほうが早く頭に入ります。単位の全体像をつかみたいなら、単位をテーマにした図鑑が手元にあると便利です。

よくある疑問

ナノメートルとマイクロメートルは、何倍違いますか?
1000倍です。1マイクロメートルは1000ナノメートルで、1ミリメートルは100万ナノメートルです。光の顕微鏡の限界の約250ナノメートルは、0.25マイクロメートルと言い換えられます。
1ナノメートルより小さい物は、何で表しますか?
ナノメートルの小数で書くか、1000分の1のピコメートルを使います。金の原子の直径は約0.3ナノメートル、ピコメートルなら約300ピコメートルです。

まとめ

ナノメートルは10億分の1メートルで、髪の毛の太さの約10万分の1です。1960年に国際単位系の接頭語として決まり、ウイルスや光の波長、原子の大きさを2〜3桁の数字で言い表せるようにしました。

ただし、半導体の「3ナノ」のように、長さを表していないナノもあります。次に「ナノ」という文字を見かけたら、それが何を測った数字なのかを確かめてみてください。

← 記事一覧へ戻る